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「月には兎がいるって、小さいころ教えられてさ。 信じてたんだよなぁ。 だから月で一人餅をつく兎が可哀想で、小さいころからよく月眺めてたんだ。 その習慣かね。今でもこうして月の綺麗な夜には、一人で酒を飲みながら眺めるのさ。 なんでかって? なんでだったかな……まぁ、たぶんそうしてやれば月の兎も寂しくないと思ったんじゃないかな。 何しろ子供の考えることだからな。 ま、なんにせよ、これからはお前と二人で呑みたいね、月のウサギさん。 ………… あぁ、伝わりにくかったか? 一世一代の愛の告白のつもりだったんだけどな。 じゃあ改めて。 好きだ鈴仙」 6スレ目 312 ─────────────────────────────────────────────────────────── ○○さんが霊夢にふられて一ヶ月 外見は何も変わらない、しかし彼が落ち込んでいることは私でも見て取れた 「私じゃ・・・駄目なのかぁ」 大きな溜息、こんなところを師匠に見られたら、いやてゐの方が 「どうしたの優曇華、こんなところで溜息なんて、胡蝶丸でも飲む?」 「ほわちゃぁ!?」 「いやいや、驚き方がおかしいでしょ、なんか危ない薬でも飲んだ?」 「し、師匠・・・は、ははは」 まぁてゐじゃ無かっただけまし・・・かな? 「それで・・・失恋?」 「!!!?ななななにを言ってるんですきゃ!??」 「落ち着きなさい、薬打つわよ?」 いったい何処から取り出すのか、いつの間にか注射器が握られている 注射器の中は何か怪しい蛍光グリーンの液体 「落ち着きました、落ち着きましたから注射器をしまってください!」 「・・・それで・・・失恋なのね?いいえとか言ったらテトロドトキシン(はぁと」 選択肢が無い質問ってなんですか、しかも河豚毒?此処海ないけどまぁ河豚だけじゃ無いし、師匠だし 「ははは、告白もしないで失恋しちゃいまして・・・」 「ウドンゲ・・・やっぱり彼方は損な役回りよ、それで・・・相手は○○って言うあの人間?」 「ななななんでそれを!?」 「告白せずに失恋といったら相手に女が出来た場合、相手に好きな女が居た場合、まぁ限られてくるでしょ?そして貴女の親しい異性で最近ふられたと話題になったのは○○ぐらいかな、なんて」 「・・・師匠・・・私どうしたらいいかわかりません」 ウドンゲは私の胸で泣いた、流石にこの状況で「泣きたいだけ泣きお嬢ちゃん・・・胸は無いが貸してやるよ」 なんて冗談は言えませんわ 「ウドンゲ・・・」 かける言葉が見付からなかったのでとりあえず抱きしめておいた、母親代わり、何てつもりは無いけど、ただなんとなく それに歳もお姉さんぐらいだし 「・・・もういいかしら?」 日が暮れるまで泣いてしまった、師匠は足がしびれたと文句を言う 充血した真っ赤な目で(元から赤いので変わりありません 「あ、ありがとうございました」 「ああ、ウドンゲ・・・告白もしてないのに失恋なんて、かっこ悪い、当たっても無いのに砕けちゃ駄目でしょー!」 「し、師匠?何を言って」 「いい?そいつに好きな女が居たから勝手に諦めて勝手に落ち込んで、それでいいの?あなたはその程度で諦めるような恋をしていたの?」 「師匠・・・私・・・」 「辛い事を言うようだけど・・・断られに行くようなものかもしれないけど・・・それでも」 「ありがとうございます・・・私、しっかり彼の口からちゃんと聞いてきます!」 親子のようだ、といったら怒られるだろうから姉妹のようだと言っておこう 仲の良い姉妹のように、何となくいい気分だ ○○さんは最近森によく行っているという情報を耳にした私は一人で藤岡探○隊ごっこをしながら森を探索していた 「きをつけろ、何処に何が潜んでいるか、わからないからな・・・」 隊長が森のを進んでいく、それについていくように隊員たちが 「あ、あれはなんだ!」 隊長が先の方を指差した、な、なんと其処には我々が捜し求めていた 「○○さん!」 探検隊ごっこ終了、強制終了 「ああ?あー・・・鈴仙?何でこんなところに」 「○○さんが森に居るとの情報を聞いて」 「さよか、それで何か用か?」 「は、はい!お時間いいですか?」 「うーん、ちょっと待ってろ」 散らばってる変な武器?を片付ける、秘密の特訓でもしていたのか、枝からフライパンが下がってたり 「待たせたな、それで・・・用とは何か?」 さあ、砕ける事がわかってる告白を、する 「・・・○○さんが霊夢にふられて一ヶ月・・・まだ諦め切れませんか?」 「そんな話か・・・女々しいかも試練が完全に吹っ切れてないよ、未練ずるずる引き摺ってる」 「そうですか・・・また霊夢に告白するんですか?」 「あー・・・それは無いと思う、彼女は俺を嫌ってるわけでも、好いてる訳でもないって解ったから」 だめだ、なかなかずばっ!っといえない、告白ってこんな緊張するものだったのか ○○さんはよく出来たなぁ 「○○さん・・・私は○○さんが好きです・・・霊夢の事が好きなのは承知してます、でも・・・言っておきたかったんです、すいません」 「鈴仙・・・そっか、ありがとう、でも君とは付き合えない、ごめん」 「いえ、断られるのは解ってましたから」 「・・・俺は君の事が好きだ、霊夢が駄目だったからとかそういうのじゃなくて君が好きだ・・・でもこんな半端な気持ちのまま、霊夢を引き摺ったまま君とは付き合えない」 「○○さん・・・」 「俺は君を好きだからこそ、こんなヘタレたまま君の好意に甘えるわけには行かない・・・だから」 「○○さん・・・私前にヘタレだとか甲斐性無しだとか、散々言いました、けど・・・○○さんは立派な人です、自信を持っていいと思います」 「いや、俺なんか」 「わたしは・・・私は自分の事で頭がいっぱいで、○○さんの気持ちも考えず告白しました、でも○○さんはそんなに深いところまで考えていたんですね・・・私、莫迦な女ですね」 「鈴仙・・・俺が霊夢を吹っ切れて、お前が好きだと、胸を張って言える様になったら、君に告白しに行っていいかな?」 「え、あ、は、はい!ずっと、絶対に待ってます!」 「ははは、責任重大だな、俺は莫迦だからさ、がんばるよ」 こんなに笑顔で、俺にこんな笑顔を見せてくれる彼女を、裏切らない為にも こんな俺を好いてくれる彼女のためにがんばろうと思う、期待は裏切れない、絶対彼女に告白してやる 永遠亭、縁側 一人のおばsげふんげふん少女が、心配そうに空を見ている 「あの子・・・今頃ふられているわね、そうじゃ無いと怒るわよ」 え?何でふられてないと怒るの? 「だって霊夢が駄目だからすぐにウドンゲをとる様な莫迦男にあの子は渡せないわ、まぁそんな奴ならウドンゲも好きになったりしないだろうけど」 夕日が沈みかけている、もうすぐ夜だ 今夜は満月、夜なのに辺りがよく見えるだろう、なんてね 心なしか嬉しそうな永琳であったとさ ~終~ うpろだ366 ─────────────────────────────────────────────────────────── 私こと『因幡 てゐ』は、〇〇とか言う男が気に入らない。 よく解らない所から来たくせに生意気にも永遠亭に住み始めたことが、 住み始めてから数日も経たない内にウサギたちと仲良くなってることが、 何よりも、うどんげと一番仲が良いことが気に入らない。 そんなある日、私は、とある事を思いついた。 二人に悪戯して、喧嘩させようというような簡単なことだ。 ――だけど、あの時の私には、あんなことになるなんて思いもよらなかった。 「ふぅ、今日の仕事は終わったぁ」 うどんげは、一日の仕事を終えて冬景色を見るために廊下にいるようだ。 その傍には、茶菓子と昆布茶が――二人分。 「……むぅ」 私と飲む為じゃなくて、〇〇と一緒に楽しむ為だろう。 だが、まだ〇〇が来る気配は無く、うどんげがお茶の準備をしているということは、 計画通り、ウサ。 「ぅ……うどんげぇ」 「なーに、て――てゐ? ちょ、どうしたのその血!?」 お腹を抑える私に、慌てて近寄るうどんげ。 ピンクのワンピースには、斬られた後とおびただしく流れてくる血――。 「コホッ、コホッ、包丁で刺された……こほっ」 「お腹は抑えて!! 早くお師匠様のところに……」 「〇〇に、刺され、コホッ」 「え――?」 血を吐きながら苦しそうに述べる言葉は、信憑性が無さそうな話でもそう思わせるには値する。 「なんで、〇〇が!?」 「嘘つきだって、ゴホッ、嘘つき兎は大ッ嫌いだって言って――」 大きな音を立てて、廊下にうつ伏せになりながら倒れる。 そして、口の中に仕込んだ血のりを思いっきり床に吐き出した。 「なぁ、うどんげ。なんか大きい音が聞こえたんだけど――って、てゐ!? どうした!!」 そう、大きな音を出して倒れたのは、後もう少しして来るはずの〇〇が駆けつけてくるからだ。 ここまで、上手くいくなんて、今日はツイてるのだろうか? 「てゐが、包丁で刺されたらしいの」 「誰に!?」 「貴方、でしょう? よくも、てゐを殺そうとしたわね?」 「……へ? いや、嘘だろ? おぃ、うどんげ……そんな目で、俺を、見るな――よ」 言い出すタイミングもバッチリだった――いや、はずだった、 『や~い、うどんげったら、また、騙されちゃって! 私は刺されてなんかいませんよ~だ! ちょっとは〇〇のことは、信用してあげたら?』 ――などと言おうと顔を上げるのと、パン、と乾いた音が響くのは同時だった。 そして鼻を刺すような硝煙のにおい。 〇〇が膝をついて、倒れる様子がスローモーションに見えた。 だから、見えた。〇〇の左胸におびただしい量の血が―― 「……え?」 〇〇はまるで私のように、うつ伏せに倒れていた。 違うのは二点だけ。声も出さず、動きもしないという、ただ、それだけ。 「……」 うどんげは、〇〇だけを見ているため顔すら見えない。 だけど解る、今の彼女の表情は鉄のようにピクリとも動いてもいないだろう。 「……ち、違う、違うの……うどんげ、これは、演技、だったの。 〇〇は私のこと刺してない――刺してなんかない、よ?」 ピクリとも動かない、〇〇とうどんげ。 あのままだったら、温かくて幸せだったはずなのに。 こんな風にしたのは……私、だ。 「ごめん、うどんげ――ただ、悪戯しようと思っただけなのに。 ウソ、嘘だよね? あ、あはは……嘘だって言ってよ、うどんげ……ごめん、ごめんなさい――!!」 知らず知らずの内に泣き出していることにも気付かないまま、謝り続けた。 何故、だろう。ただ人間が一人死んだだけで、こんなにショックなのは? 足元から、何かが崩れて行くのを感じるのは? 嫌だ、イヤだ、こんなの――こんなの、いやだ!! 夢だ、ただ夢の世界の私が〇〇に嫉妬して嫌がらせをしただけの夢なんだ!! 夢なら、覚めて、覚めて……!! 「はぁ……もぅ、てゐ? ごめんなさいを言うくらいなら悪戯は止めなさい」 「そうだぞ、てゐ。もう少し素直になれ」 「ごめん、ごめ……ふぇ?」 ……ため息を付きつつ笑顔のうどんげと、どっこいしょ、という掛け声と共になんでもないかのように立ち上がる〇〇。 涙を拭くのも忘れ、近くに寄ってきた二人を見上げる。 銃を片手に持ったうどんげと、胸から血を流した〇〇が――。 「まっ、〇〇、その――大丈夫なの?」 「ん? ペイント弾だからな。痛かったけど大丈夫だぞ?」 そう言って、ペイントで濡れたTシャツを示す。 心臓を撃たれていたならば派手に血が飛び出てるはずで、ただペイントがついてるだけに気付けないほど、私は慌ててた? 「いやぁ、最近、うどんげと話してたんだよ。『火曜サスペンス劇場ごっこをしないか?』って」 「そうそう。いきなりてゐが始めるんだから、驚いちゃった」 あはははは、と陽気に笑う〇〇とうどんげ。 ――逆に、ハメられた。 「そっ、そうだよ! 一緒にやってあげたんだから、感謝してよね!?」 「あぁ、てゐの泣く姿なんて、映画だったら主演女優賞は狙えるぜ? 感謝感激だよ」 「手伝ってくれて有難うね、てゐ」 わ、解ってて、こんなことを言うから卑怯だ――!! 「ふ、ふん。暇潰し程度には手伝ってあげたんだから、いつか返してよね!?」 明らかな負け台詞を残して、その場から去っていった。 ――いつか、騙してやるんだから!! 「……なぁ、うどんげ」 「どうしたの〇〇?」 「ちと、やり過ぎちまったか?」 「ふふ、それぐらいがちょうど良いのよ。てゐには」 「そっか」 雪景色を見ながら、二人で昆布茶を飲んでいる。 胸についたペイントがそのままなのが気になるが――ってか、洗濯して取れるかな、これ。 「でもよ、うどんげ。俺とうどんげの仲が良いから、てゐが不機嫌なわけだ。 ちょっとは、あいつとも遊んでやれよ?」 「てゐは、貴方の十数倍生きてるのよ? 貴方がお父さん面するなんて、百年早いわよ」 そんなことを言いつつ、茶を飲み始めるうどんげ。 別にそんな風に意識して、言ってるわけじゃないのだが。 「お父さん面って……じゃあ、お母さんはうどんげか?」 「――っ!?」 お茶を噴出しかけたらしい、変な顔をしてる。 月のウサギさんって、案外普通な奴なんだよな。最初に知ったときは、驚いたもんだ。 「だっ、誰が、貴方の――!!」 「そしたら娘は、てゐ。おばあちゃんが……永琳さん辺りかな?」 年齢的に一番年取ってるのあの人だし。 それに知識人だからな、いろいろな理由で適役だろう。 「へぇ、私が貴方たちのおばあちゃんね? フフ、なかなか面白いじゃない」 ――聞かなかったことにしたい。 襖の後ろから、気配を消すのは個人的にいけないと俺は思う。 ……言い直すことにした。 「あはは、訂正。おばあちゃん役は要らないな。嘘々」 「へぇ、私なんか要らない、って? 本当に面白い事を言うじゃない、〇〇」 ――誤解です。 俺の人生オワタ。 「そう言えば、さきほど、新しい薬できたのよ。 実験台が必要なんだけど――誰か、受けてくれる人はいないかしら?」 「……永琳さん、その役を引き受けさせて頂いても宜しいでしょうか」 「あら? 受けてくれるの。それじゃあ、今すぐ私の研究室に来て頂戴。 死ぬほど苦いから、そこら辺は気を引き締めてね」 『死ぬほど』は、本当に昇天しかねない勢いなんだろう。 ――おぉ、うどんげがトラウマがあるらしい。ガクガク震え始めたぞ。 と、知らないうちに永琳さんの気配が消えた。 「……おばあちゃんじゃなくて、従姉妹って言えば良かった、か?」 「ま、まぁ、頑張ってね……死なない程度に」 「――あぃよ」 討ち入りに向かう武士のように立ち上がろうとして――ふと、とある名案が浮かんだ。 「なぁ、うどんげ」 「早く行かないと、薬をもう一個追加されるわよ?」 あえてうどんげの話を無視。 真面目に早く行かないと、追加されかねん。 「いや、心理学上の話だがな? 人間、ご褒美があると頑張れるらしいんだ」 「それがどうかしたの?」 いや、さきほどの言葉が複線だって気づけ、馬鹿ウサギ。 「永琳さんの薬を飲んで生きて帰られたら、うどんげのファーストキッスは頂く」 「……はい?」 「だから、ご褒美!! 言ったんだから、絶対に貰うからな!!」 「いや、だから〇〇!?」 返事を聞かずに駆け出した。 そうしたら、義理堅いこいつのことだ。八割以上の確立でOK貰える――!! ――生きてればの話、だが。 俺が去った後、うどんげは呟いた。 「別に、ご褒美じゃなくても、良いのに……」 ~終わり~ うpろだ554 ─────────────────────────────────────────────────────────── 一日寝て起きて、そうしたら全部元通りになると思っていたのに。 初めは本当に下らないことだったのに。 本当に、どうにもならないくらいに下らないことだ、それもすごく今更の。 藤原妹紅と言い争いになったというだけのことだ、それは私ではなくて姫がだけれども。 当の本人たち以外はあまり気にしていないようだけど、私がまだここに来るずっと前に姫は藤原妹紅に対して何かをしたみたいで、 (それがいったい何なのかは私はぼんやりとしか知らないけど、そのことで姫が彼女から物凄く嫌われていることは分かっている) 「・・・・あ」 朝起きて、あまりお腹が空いていないけど珍しく師匠が用意してくれた朝食をとりに食堂へ行ったら、白いガーゼが目に入った。 どうして顔の傷や手当ての痕はあんなにも痛々しく見えるのだろう。 彼の色素の薄い白の肌に嘘っぽいガーゼの白が痛々しかった。 ふと、彼の瞳がこちらを向く。 「おはよう、鈴仙」 穏やかに○○はそう言って笑った。 いつもと同じきれいな笑顔なのに、その頬に張られた大きなガーゼはやっぱり痛々しく私の目に映った。 それだけじゃない、服で隠れているけどきっと腕のところにも、白い包帯が巻かれているだろう。 それらは私のせい、だ。 ごめんなさい、ちゃんとそう謝ろうって思っていたのに喉に声が引っかかって何も言葉が出てこない。 昨日の夜うやむやになった後自分の部屋で何度も何度も練習したというのに。 ごめんなさい○○。 たったそれだけの言葉がどうして出ない。 私はただ小さくなってスカートを握り締めることしか出来なかった。 ○○は絶対に私を馬鹿にしたり嘲笑したり、私が上手くものを言えなくたって怒ったりしないことは分かっているのに。 「鈴仙・・・・みんなもう朝食を終えたよ」 今はそれぞれ好きなことをしているんじゃないかな。鈴仙もあとで永琳さんのところに行くといい、ちゃんとご飯を食べてから。 私に毎日の朝食を、ちゃんととるように言ったのはこの人だ。 ちゃんと食べないといざというときに力が出ないから、無理だと思っても少しくらいは食べたほうがいい。 永遠亭の住人はどちらかといえば互いに干渉はなしで、みんないつも忙しいし、 人里に行ってもあまり人間と親しくしたりはしないけれど、○○だけはいつだって根気よく私に付き合ってくれた。 なのに私はありがとうも、ごめんなさいも、未だ何一つ言うことは出来ないのだ。 「・・・・・・うん」 か細い声で○○の言葉に答えるのが今の私には精一杯だった。 置かれていたのは師匠の最近の趣味なのかどうなのか、洋食だった。 いつも作る和食とは勝手が違うなと思いつつ口に運ぶ。 パンを一切れ、スープを半分、それからハムエッグとサラダを少しずつだけ食べて(ちゃんと全部きれいにしたのは紅茶だけだった)、 私はそそくさと師匠の実験室へ向かった。 師匠は大抵永遠亭の片隅にある離れで薬の調合などをしている。 私はいつもそこで彼女の手伝い、ときどき実験台。 言われるのは殆どどこそこにあるアレ持ってきて、だとかこれ適当に混ぜといて、だとか、簡単なことばかり。 自分で里に薬を配りに行ったり、拘束されて(気まぐれに)新薬試されそうになって逃げ出したり。 最後の一つはあんまり必要ない、というか止めてほしいのだが、これをしないとどうにもならないのよというか文句言うなと言われてしまえば私には泣く泣く頷くことしか出来なかった。 「・・・・ウドンゲ」 「何ですか師匠?」 「謝ったの?」 師匠の問いかけに私は詰まる。誰に、とは言わなかった。 該当者は一人だけ。 「早く謝っておきなさいね」 「・・・・はい」 私が言葉に詰まって答えあぐねていると、師匠はそれだけ言ってもう用は済んだとばかりにまた薬に取り掛かった。 結局のところ私は自分でどうにかするしかないのだ。 ○○の怪我は私のせいなのだから謝って当然だ。 治療するだけじゃ足りない。 私自身だってそう思うけれど、いざ○○の前に出ると上手く言葉が言えなくなる。 「・・・分かって、ます」 昨日の話。 藤原妹紅と姫がまた言い合いになっていたのが白熱してそれ自体は日常茶飯事というかそれなりによくあることで誰も気にしなかったのだけれど、 流石にスペルカードを取り出したときに○○が動いた。 彼女の撃った弾幕が、それを避けた姫の真後ろにいた私に当たりそうになったのだ。 その時藤原妹紅を怒鳴りつけた剣幕はいつも穏やかな○○にしてみればあり得ないほどで、私やてゐや姫、藤原妹紅どころか楽しんで見ていた師匠でさえ呆気にとられたのだった。 だから私には傷ひとつないのだけれど、私を庇って代わりに撃たれた○○は弾幕にかすって傷を残すことになった。 だから、今私は○○とどんな顔をして会えばいいのかが分からなくて、こうしてうだうだしていることしか出来ないのだ。 伸ばしかけた腕を引っ込める。 手の甲をドアに触れさせて、けれどその次の動作には移れずに何度も何度も降ろしては意を決して持ち上がるのだがその先には続かない。 何度となく同じ動作を繰り返しては諦めたように溜め息をついた。 けれどここで逃げてしまえば更に謝りづらくなるだけだと分かっている。 そうして更に時間は過ぎてうだうだしていると、不意に扉が迫ってきた。 否、開いたのだ。 「・・・・部屋の前に誰かいると思ったら・・・・どうかした、鈴仙?」 「あ・・・・○○、あの」 「うん?」 「・・・・ごめんなさい」 やっと言えたのはその一言だけだった。 庇ってくれてありがとうも、傷つけてしまったことも何も言えずに、何よりも言わなければと思い込んでいたものしか出てこなかった。 一瞬、○○は驚いたように瞳を開いて、それからすぐにゆるりと笑った。 ぽんぽん、と軽く頭を撫でられる。 「俺は別に男だし、こんな傷の一つや二つで大騒ぎするものでもないよ。 それより体が冷えるから、早く部屋に戻ってちゃんと寝て明日もちゃんとご飯食べて。そうしてくれた方が俺は嬉しい」 「う、うん・・・・」 「お休み、鈴仙。よい夢を」 「おやすみなさい」 部屋に戻る背中に声がかかる。 そんなに俺に侘びがしたいなら、明日は永遠亭のみんなで一緒に午後のお茶でもしようか。 他愛ない約束で全てを流してくれる○○はもういつもと同じで優しかった。 そのことが嬉しくて私はうんと頷いて、それから見上げた空には砂金を散らしたように満天の星があった。 きっと明日は、晴れになる。 うpろだ572 ─────────────────────────────────────────────────────────── 恋愛の形は人それぞれ、なんて言葉がある。 なるほど、今の永遠亭をあらわすのにこれ以上の言葉はあるまい。 「いやぁ、水も滴るいい男とはよく言ったものね」 「そういうてゐの方こそずいぶんと真っ白い肌をしているじゃないか」 「「ふふ、ふふふ……」」 今、私の前には一組の男女がいる。 すなわち頭から水をかぶった○○と小麦粉まみれのてゐである。 この状況を的確に表現するならお互いがお互いを同時に罠にはめた、とでも言おうか。 とにかくこの二人のせいでこの部屋は大変な惨状になっている。 正直に言うとこの色気もへったくれもない二人がどうして恋人と呼ばれる関係でいるのかいまだにわからない。 ただ対峙している二人の顔はどちらも不敵で、かつ親愛に満ちていることはわかるから私にはおよびつかない絆があるのだろう。 しかしそれに私を巻き込むのはやめてほしい。 「二人ともずいぶんとおもしろいことをしてるわね」 「「ひぃっ! え、永琳!?」」 ほら、まごまごしてるうちに来ちゃった。 「さて、言い訳はあるかしら?」 「えっとだな……。これは不可抗力というか何というか……」 「そ、そうウサ。 私たちは悪くないウサ」 「赤いのと青いのとどっちがいい?」 「い、いやぁーー! 青いのはダメー! 死ぬー! ていうか赤いのもやめてー!」 「ダ、ダメ! あんなに大きい針は入んないから。もう注射じゃなくて兵器だから!」 どうやら師匠の言葉は彼らのトラウマを問答無用でこじ開けたようだ。 「永琳さん! やめてください!」 と、この永遠亭にすむ男たちの中で一番人畜無害なのが出てきた。 「あら、邪魔をするの? ●●?」 「そうじゃなくて……。その……、僕にもやってください! できれば両方!」 そう、人畜無害ではある。ただのマ○でしかないのだから。 彼のおかげで師匠の私への仕打ちは減っているので感謝はしている。 けれど近寄りたくはない。 「そう。ならついでに黄色いのもやってあげるわ」 「ええ、ぜひお願いします!」 サ○の師匠と彼はいいコンビ、いやいずれはいい夫婦になるのかもしれない。 ただ私としては、どこか遠くでやってほしいと思う。 「ういーっす、ってまた何かやってるのか?」 上下にジャージをはいた、だらしない男がやってきた。 今来た男はこの中で一番のダメ男であり、いわゆるニ○トと呼ばれるやつである。 え? 姫も同じだって? 姫は働かないのが仕事でしょ。 ていうか、こいつを見たのは三日ぶりだ。まぁいつも姫と一緒にひきこもってるからな。 このダメ人間が四六時中姫とイチャついていると思うとムカムカしてくる。 いつかやつの顔面に鉛玉をぶち込みたい。 と、どうやら事態は最終局面へ向かっているようだ。 とばっちりが来ないうちに自分の部屋へ戻っていよう。 「さぁ、命乞いの準備は出来たかしら?」 「ひっ! め、めーりんめーりん助けてめーりん……」 「あ、や……やめて……ウサ」 「はぁはぁ……。もっと! もっとやってください!」 「なぁ、いったい何が起こってるんだ?」 もう一度言おう。恋愛の形は人それぞれである。 けれどせめて私だけは普通の相手と普通の恋愛をしたい。 これが今の私の切実な願いである。 11スレ目 35 ─────────────────────────────────────────────────────────── 永遠亭。一人の人間と一匹の月兎が縁側に座っていた。 「ほらほら~じゃんじゃん飲みなさいよ○○~」 「いやいや落ち着け鈴仙、お前大分酔ってるだろ。」 「なにお~!そ~いう○○こそ顔真っ赤で酔ってるんじゃないの~?」 四半刻ぐらい前からすっかり出来上がった鈴仙が指摘する。 「それはその、お前がそんなにくっついているからだな…」 「あ~○○照れてるんだ~、か~わい~か~あい~」 呂律が回っていないんだかなんだかよく分からない。 「とりあえず落ち着け。お前酔いすぎだ。頭冷やせ。」 夏だということで永遠亭メンバーで軽くプチ宴会でも開こうということになったのだが、ビールから始まり 焼酎になって、鈴仙が酔い始めたあたりで永琳師匠が、 「お邪魔虫は退散するから頑張ってね~」 と、まだ飲み足り無そうな輝夜さんとてゐを引きずって部屋へ引っ込んでしまった。 「べろべろの鈴仙を押し付けられただけのような気がするんだがな…」 「む、なんかいった?」 流し目でこちらを睨んでくる鈴仙。手には座や…ゲフンゲフン銃弾。何処にぶち込む気だ。 「イイエナンデモアリマセン」 「ならよろしい」 「早いとこ寝かしつけないとな…酔っ払いはどうも苦手だ…」 この前博霊神社の宴会にも行ったが、酔った白黒魔法使いや小鬼にからまれ、気づくと半分体をスキマに押し込まれて寝ていた。 「だから~酔ってないってば~」 「ウソつけ!じゃここにグラスが幾つあるか数えてみろ。」 ちなみに、今は鈴仙のグラスと俺のグラス、師匠たちが置いてったグラスで計五つある。 「えーっと一、二、三、四、五個あるわよ。」 鈴仙は一個一個触って確かめる。 姑息な手を使いおってこの月兎が。 「○○だって酔ってるんじゃないの?ほらほら、ピンクの象が見えてませんか~?」 おいおいそれはアル中の幻覚だろうって… 「うわ!わわ!」 「あはは~図星かなっ?」 んな馬鹿な。実際見えるったって俺はアル中じゃない。ちょっと待てまさか…鈴仙の目を見る。 「あっ、てめ、卑怯な!ビビったじゃねえか!」 「わはは。ばれたか~」 「ばれるわ!あーびっくりした~」 鈴仙は幻視を使っていた。波長をずらすとこんなことまで出来んのか。 「あーもうさっさと寝ろ!俺ももう寝る!」 「えーじゃあ最後に一つお願い~」 「なんだ、もう飲まないからな。」 「いやそうじゃなくてさ…」 鈴仙がなぜかもじもじしている。ええい何だ。 「早くしろ。俺はもう眠いんだ。」 「あの、そのさ。そ、添い寝とか…」 「はぁ?( ゚Д゚)」 今何と言った?わが耳がこの歳にして逝かれたか。 「だからその、添い寝を…」 「寝言だったら床についてから言ってくれ。」 しかし鈴仙は意識ははっきりしているようだ。 「じゃあせめて布団まで連れてって。」 まあ実現可能な願いのうちに聞いておこうと、鈴仙をお姫様抱っこする。 重くは無いがなんかこう、恥ずかしい。誰も見ていなくても。 「ほれつきましたよっと…」 部屋に着いて、鈴仙をおろそうとして気付く。 「す~す~」 「なんだ、もう寝てやがんのか…」 寝息を立てている。その寝顔を見て酒も手伝って少し理性が飛びそうになる。必死に押しとどめる。 「どっこら…よっと。」 少々爺臭い声とともに鈴仙を布団の中に転がす…ぼふっ。 柔らかい音とともに自分の体も布団の中に投げ込まれる。イヤボクナニモシテナイヨ? 「へへ~つかまえたっ!」 どうやら鈴仙に引きずり込まれたようだ。ちょっと待てまさか… 「添・い・寝」 「いやまて待てマテ!ヤバイって!酒入ってる!理性飛ぶ!かんべんして!」 必死にもがくががっちりホールドされて逃れられない。 「だいじょーぶそんなことしたら明日ぶち込むから。」 「いやそれ大丈夫じゃない!ぶち込むって何を!?」 「じゃおやすみ~」 その頃部屋の外。 「あらあら優曇華やるわね~」 「いいんですかししょー?あれあのまんまで。」 「大丈夫。なんかやりそうだったら少し物音出せば止めるわ。」 「理性飛んだら関係無いと思いますが…」 「あの~師匠とてゐさんそんな床でボソボソ話しこんでないで助けて~」 「「!!」」 「き、気付いてたの?」 「そりゃししょーこんなふーに話してりゃーねー。…撤退!」 「あ、てゐ!待ちなさい!自分だけ逃げるなんて…」 「そういって師匠だって逃げてるじゃないですか!たすけてえーりん!」 結局鈴仙が寝て少ししてから抜け出しました。 オチなし。 8スレ目 252 ─────────────────────────────────────────────────────────── はぁい!私は鈴仙・優曇華院・イナバ!れーせんって呼んでね(はぁと それはさておき、師匠に頼まれた薬の材料を探しに山に入ったのはいいんだけど 「迷った」 迷っただけならいいのよ、崖から落ちたら下が川で少し流されて此処は何処でしょう? 足も捻ったか折れたかで痛いんですよ、もう歩くのも億劫で 「誰かー!たーすーけーてー!」 こんな山奥になのに妖怪一匹いやしない、人間なんかいるわけもない もう・・・やだ(涙 もう今日は眠ろう、川が近いから水には困らない、妖怪に食べられないかが心配だけど ああ、ねむたくなってk 「お嬢ちゃん!?大丈夫かッ!?」 何か幻聴が聞こえるーなんだー? 私の意識は其処まで考えてきれた 「おっ!目が覚めたかい?」 あれ?ここは・・・ 「ここは俺の山小屋だ」 「嗚呼、私助かったんですね」 「森で人が倒れてると思ったら人じゃなかったし、どうしようか迷ったけどまぁ・・・」 何だこの男、きこり?某格闘漫画のキャラみたいな筋肉だ、ゆーじろーこえー 「ありがとうございました、迷って、怪我して・・・よかった」 「足は折れてはないみたいだ、一応応急処置はしておいたから」 足には包帯が巻かれていた、葉っぱか何かが当ててあるのか、薬草だろう 「しかしブレザーで山入るのはどうかと思うよ?スカートは危ないし」 「はい、今度から気をつけようと思います」 「ま、妖怪だから大丈夫か!そういえば君ってほんとに妖怪?」 「ん~まぁ妖怪です、一応」うさみみもーどですもん(違 「ふーん、あと少ししたら日が昇るから此処を出よう」 うっすらと空が白み始めてる、ああ、もう一日経っちゃったか、師匠怒ってるかなぁ おかゆをご馳走になった、美味しかった、やっぱ山菜と岩魚だね 「はい」 「はい?」 いきなりしゃがんで背中を向けられた、はい? 「おんぶ、その足で歩くのはよくない」 「いや、けど」 「遠慮するな」 結局おぶってもらいました、背中広い!筋肉! 一度里に下りて、其処から永遠亭まで送ってもらう事にした 「此処だったんだ、全く反対側・・・」 後ろから指差して指示を出し永遠亭まで・・・到着した 「此処でいいのか?」 「はい、ありがとうございました、いつか恩返ししますね!」 「兎の恩返しか・・・じゃあ一ついいかな?」 「はい、なんですか?」 「今度また・・・いや、止めておこう」 「?」 「今度は家に遊びにおいで、お茶ぐらいは出そう」 「は、はい・・・あの名前を聞いてなくて」 「俺ぁ○○、しがない山男だ」 何か複雑なポーズをとってた、こえー 「○○さん!此処にも遊びに来てくださいね!」 去っていく彼に、呼びかけた 彼は振り返らずに、手ふっていた 8スレ目 829 ─────────────────────────────────────────────────────────── 輝夜「因幡、最近○○を見ないのだけど」 優曇華「○○ならここに居ます」 姫「・・・え?」 う「私が喰べました。骨も煮て砕いて喰べました」 姫「な・・・喰べ・・・え?え?」 う「○○が、私に、『お前とずっと一緒に居たい』と言ったので、喰べました」 姫「な、なんてことするのよ!貴方も○○も私のペットよ!?それを・・」 う「姫様、さっきから何をうろたえていらっしゃるのです?○○は私が喰べたと ちゃんと申し上げたではないですか。即ち貴方の目の前に居るこの私が」 姫「・・・貴方が○○でもある、とでも、まさか」 う「私は月の妖怪です。○○は地上の人間です。異質でした。共に在るには他に手は」 姫「・・・そう、共に在るためには喰べればいいの」 う「如何にも」 姫「では私が貴方を喰べれば私も○○と共に在れるのね?」 う「ええ、勿論。ところで姫、○○はまだ5つの難題をクリアしていませんが」 姫「うわああああんえーりん!!!因幡に○○とられた!!」 9スレ目 205 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「こら、誰だか知らないけど待ちなさい!!」 「・・・・・」 永琳は竹林の中をすごい速さで飛んでいた。何かを追うように。 しかしちっとも捕まらない。追いかけられているほうはは竹林の中を知り尽くしているかのように素早く確実に逃げていた。 「なんで逃げるのよ!」 「・・・・・・・・・あなたの顔が怖いからですよ」 なぜ永琳はこんなことをしているのか・・・ 事の始まりは優曇華院の一言だった・・・・ 最近、永遠亭を尋ねてくる人が多い。 永琳が人里からの治療依頼が終わって永遠亭に帰ってきたとき、優曇華院の第一声はおかえりなさいではなくこれだった。 「多い?」 「はい。今日で40人ぐらいは来ていたと思います」 「目的はあったの?」 「いや・・・・・・尋ねてきた人間全員に聞いてみたらどうやら竹林で迷って、さまよっていたらここにたどり着いたらしいんです。」 「そう。おかしいわね。迷いの竹林なのに・・・」 永遠亭は迷いの竹林の抜けた先にある。 適当にさまよっているだけでは永遠亭にたどり着くことなど不可能である。 「他に何か言っていなかったの?」 「うーん・・そうですね・・・・・全員、何かに導かれた気がする、とは言っていました。」 「てゐの仕業ではないでしょうね?」 「さっき聞きましたけどそういうことはしてないそうです。自分なら人里のほうへ返すと言っていました」 因幡てゐは竹林で迷った人間を導き、少し幸運を分けて人里に返すのが最近の仕事である。 「ということは・・・・竹林になにかいるのかしら?」 「さっき見てきましたけど特に何も・・・・」 「そう・・・まぁほっときましょ。これがまだ続くようなら今度調べに行くわ」 そういって永琳は自分の部屋に戻っていった。 「あ、師匠、待ってくださーい・・・」 優曇華院も永琳のあとについていった。 「今日の晩ご飯は魚2匹と鳥1羽だけか・・・」 迷いの竹林のなか、それもかなり奥のほうに1人の少年がいた。 といっても、年齢的にはかなり長生きしてるのだが・・・・・・見た目が少年にしか見えない。てゐの男verみたいなものか。 「この生活も飽きてきたなぁ・・・」 少年は、竹林で迷った人間を、竹林を抜けた先にある家―――すなわち永遠亭である―――に導く役をしていた。 役といっても、誰かに仰せつかったわけではなく、少年が親切でやっているだけなのだが。 ちなみに、少年はその家が永遠亭だということを知らないので、どこか近くの家、という認識でしかない。 「そろそろ場所移動しようかな・・・」 少年がなぜ竹林で暮らしているか・・・・ 少年は元々人里に住んでいた。平凡な夫婦の、平凡な子としてこの幻想郷に生を受けた。 少年は心優しく、里でも人気があった。平凡に、幸せに暮らしていた。だが、ある歳を境に、少年は、全く外見が成長しなくなった。 なぜなら、少年は人間ではなく妖怪だったのである。というのは、母が半分妖怪の血液をもっていたのである。 それが強く遺伝したために、少年は妖怪として生まれてしまった。 そして、ある日、少年から羽が生えてしまった。 里の者は、少年が妖怪と知るやいなや、少年を精神的に追い詰め、里から追い出そうとした。 少年の両親は強く反対したが、村の長がこれを却下すると、少年の両親は村から追い出された。夜中の出来事である。 その翌朝、少年が目覚めると両親はいなかった。泣きながら里を駆け回っても両親はいない。 それどころか、里の人間がひとりもいなかった。もともと賢かった少年は瞬時に悟った。 この村は妖怪に襲われたのだと。自分は妖怪だったから襲われずに済んだのだと。 少年は走った。なにから逃げるまでもなく、ただ、ただ、走りたかった。何もかも忘れたかった。 どうしてこんなことになったんだろうと。なにが間違っていたのだろうと。そう考えながら、ひたすら走った。 気づけば少年は竹林の入り口にいた。入り口に人間が一人いたが、自分を見ると逃げていってしまった。 少年はこの竹林に隠れ住むことに決めた。不用意に外にいたら、人間を怖がらせてしまうという理由で。 心優しい妖怪も、いたものである。 そうして約2000年、少年は竹林で過ごしてきた。 時には妖怪と戦い、時には妖怪を退治しに来た人間から逃げながら。 竹林で迷ってしまった人間を、自分の姿を見せないように安全なところへ導きながら。 少年は、孤独ということ以外は平凡に暮らしていた。 「師匠、また人がきました」 「また?これで今日は30人目ぐらいかしら・・・・・やっぱり調べに行ったほうがいいかもね」 「お供しましょうか?」 「ウドンゲ、あなたはここで人の相手をしていなさい。めんどくさかったら波長を操って勝手に帰してもいいから」 そういい残して、永琳は竹林へ向かった。 竹林をしばらく歩くと、どこからか気配がする。 そして、優曇華院では気づかなかった違和感を、永琳は感じ取った。 「やっぱり何かいるわね・・・・どこなの?出てきなさい」 遠くで竹林を突っ切るような音がした。 それを確認すると、永琳は追うようにその音に飛んでいった。 「いい加減止まりなさい!悪いようにはしないから」 「・・・・」 かれこれ、2時間は追いかけっこが続いている。両方とも、人間の動体視力では捕らえきれないほど速い。 「しつこいなぁ・・・いい加減諦めて下さいよ・・・僕何もしてませんよ・・・」 「それはあなたの話次第よ!いいから止まりなさい!」 少年は気づかなかった。自分が竹林の出口へと向かっているのを。 そうして、少年は竹林から出てしまった。 「うッ!!」 太陽の日差しをまともに受けた少年は目が開けられなかった。少年はそのまま気を失って落ちていった。 竹林は日の光がさえぎられている。2000年も竹林に住んでいた少年は当然太陽の光の免疫が無かった。 「逃げる気ね・・・あら?」 永琳が竹林から出てくると、地面に倒れている少年を見つけた。 「もしかして・・・この子かしら」 羽が生えているし、竹林の葉っぱが何枚か服についている。 永琳はちょっと迷ったが、気絶していては話が聞けないので、永遠亭で休ませることにした。 「お帰りなさい、師匠。その子は・・・・妖怪?」 「わからないけど、人間をここに連れてきていたのは、多分この子よ」 そういって、少年をベッドに下ろした。 すこしたつと、少年は目覚めた。 「なんだか暖かいな・・・・・・・あれ?ここはどこ?」 「お目覚めのようね」 「!!」 少年は今話しかけたのがさっき自分のことを追いかけていた人間だとわかると、素早く部屋の隅に行った。 「ごめんなさい!僕食べてもおいしくないですから!見逃してください!食べないで下さい!」 土下座しながら言い始めた。 永琳は少年のことを少し叱ろうと思っていたが、そんな考えは吹っ飛んでしまった。 「クスクス・・・こら、誰が食べるだなんて言ったのよ」 「ええ!じゃあ飲むんですか!!?僕の血なんてまずいですよ!!」 なんだか勝手に考えが暴走しているようだ。 「こらこら、私は吸血鬼じゃないわ。私は聞きたいことがあるだけなの」 「え?」 少年はまさにポカーンという音が似合いそうな顔をしていた。 「そんなに意外?」 「いや・・・ごめんなさい。捕まったら本当に食べられると思ったんで」 そういって、少年は土下座の姿勢から正座のような姿勢になった。 「まぁいいわ、で、なんでこんなことをしていたの?」 「こんなことってなんですか・・・・・・僕悪いことしてませんよ」 「なんでここに人間を連れてきてたの?」 「え?ここあの家なんですか?」 「君がそう思うならそうね。で、なんでやってたの?」 少年は考え込んだ。理由なんかないから当然である。敢えて言うなら、親切である。 「理由なんて・・・ないですよ。僕は人間がかわいそうだから助けてあげようと思っただけで」 「人間・・・・って言い方をするってことは、あなた、やっぱり妖怪なのね」 少年はしまったという顔をしたが、永琳が逃げないのを見て、恐る恐る尋ねた。 「あの・・・怖くないんですか」 「あなたのことを?それなら、姫様のほうが別の意味で怖いわ」 「姫様・・・ですか」 状況がよくわからない少年は疑問が増えるばかりだった。 何故目の前の人は自分が怖くないのか。何故自分を助けてくれたのか。 「そんなことはいいわ。それで、あなたは何者なの?ここらへんじゃ見かけない顔だけど・・・」 「そりゃあそうです。今まで隠れてましたから」 「隠れる?なんでそんなことを」 「人間に・・・・・・見られないようにするためです」 「あなた、本当に妖怪なの?知り合いにもここまで人を想う妖怪なんていないわ」 ―――この人には妖怪の知り合いがいるのか。どおりで、僕を見ても怖がらないわけだ。 少年がそんなことを考えていると、部屋に誰かが入ってきた。 「えーりん、さっきのやつ起きたの~?」 入ってきたのはてゐだった。 「あ、君は・・・」 少年はてゐに見覚えがあった。 ある日、少年がいつものように人間を導こうとすると、先に誰かに導かれるように行ってしまったのである。 不思議に思っていると、少年のような小さいウサギの妖怪が、人間を導いていた。 僕のような妖怪もいるんだなぁ、と、少年はすごく満足し、その人間を名前も知らない妖怪に託したのだった。 少年の反応を見て、永琳は聞いた。 「ん?知り合いなの?てゐ?」 「んー・・・なんかみたことある気がする」 「あれ、見られてたかな・・・僕は竹林に住んでたんだけど」 そういうと、てゐは急に何かを思い出したような顔をした。 「・・もしかして私の仕事を手伝ってくれてる人?」 「あれは、君の仕事だったのかな?取ってしまってごめんね」 「ううん。そんなことないよ!むしろ減ってラッキーって感じだから!」 「てゐ・・・・あとで私の部屋に来なさい」 「あう、いつもの嘘ですよ!嘘!」 そういって、てゐは逃げるように部屋から出て行った。 「珍しい妖怪ですね・・・・」 「あなたほどじゃないけどね・・・・・そういえば名前を聞いてなかったわね」 「僕の名前は・・・自分の名前を言うのも久しぶりだな・・・○○、といいます」 「なんだか悲惨な過去があるみたいね・・・あ、別にいいわ話さなくても」 少年が自分の過去を話そうとするのを、永琳は止めた。 「自分の過去なんてそう簡単に話すものではないの。まぁ、それは置いといて、私は八意 永琳。医者みたいなことをやっているわ」 「ええ、以後お見知りおきを・・・・・といっても、次はいつ会えるかどうかわかりませんけど」 「あら、どうして?」 「隠れてるの見つかっちゃったし、もっと静かなところに行こうと・・・」 「行くあてはあるの?」 「無い・・・ですけど、何とかなりますよ」 「だったら、ここに住みなさい。竹林ほどじゃないけど、まぁ割と静かなところだから・・ね」 「ええ!?」 少年は本当に驚いた。妖怪である自分に、住む場所を提供してくるなんて夢にも思わなかったからである。 「なんでそんなに僕のことを・・・」 「他人には見えないから・・かな。ここ、永遠亭はね、過去に何かあったやつが結構いるのよ。それに」 永琳は一呼吸置いて言った。 「妖怪もすでに住んでるしね。ここは」 「そうだったんですか・・・」 「それに・・・・ね、あなたがしてたことは人間にとっては助かったことだったでしょうが、私たちにとっては少々迷惑だったの」 そういうと、永琳はいたずらっぽい笑みを浮かべた。 「その迷惑代として、ここで働きなさい。これは、命令ね」 少年は頭を抱えた。ここに住むついでに、働けといっているのだ。妖怪である自分に向かって。 「それは・・・強制ですか・・・」 「強制よ。ま、住む場所をあげるんだからありがたく思いなさい」 なにやらやっかいそうな人に捕まったな・・・そう少年は思った。 永琳は軽く咳払いした。 「ようこそ永遠亭へ、○○。永遠亭の代表として、歓迎するわ」 「はい・・これからよろしくお願いします。えーと・・・永琳さん・・・・と呼べばいいですか?」 「ええ」 ―――やっかいそうだけど、多分優しい人なんだろうなと思った。根拠も無く、そう思った。 そして―――これから始まる新しい生活に―――少し期待を覚えた。 その日の夜、永琳によって、少年・○○が永遠亭に住むことになったことが永遠亭で発表された。 最初は誰もが驚いたが、永琳が事情を話すと、皆、快く少年を歓迎した。 とくにてゐは、自分と同じぐらいの身長で、しかも自分と同じくらいの歳(といっても2000歳ぐらいだが)の少年だったからか、喜びようがすごかった。 二人はその日の夜すぐ仲良くなり、二人ともいい遊び相手のように見えた。 「師匠、本当は他に理由があるんじゃないですか~?」 「そおねぇ~。強いて言うなら・・・・・実験で男のデータが欲しかったから、かな♪」 優曇華院は、○○に少し同情した。 Q.イチャイチャはどこですか? ごめん、あらすじだけで本当にごめん Q.カップリングは誰よ? 決めてません。永遠亭のみんな大好きだから。ハーレムになるかも 「おはようございます、鈴仙さん」 「おはよう、○○」 笑顔で挨拶してくれるのでこっちもできるだけ笑顔で挨拶を返す。 「朝ごはん出来てますので食べて下さいね」 「わかったわ。お先に失礼」 ○○が永遠亭に住んでから早一年が経った。 ○○は最初はどこかよそよそしさが残っていたものの、最近は減ったようだ。 最近は私と一緒に師匠の仕事を手伝ったり、一緒に里へ薬を売りに行ったりしている。 里では、彼は人気である。最初は自分が妖怪であることを心配していたが、どの里の人も彼を歓迎してくれた。 そうして、その日以来、彼はある天狗娘によって幻想郷では割と顔が知れている存在になった。 ちなみに、○○は永遠亭の料理を担当している。 ○○が料理はできると言った瞬間、永遠亭全員から強制的に言い渡された。もちろん私も賛成した。 「おはよう○○~」 「おはよう、てゐ。」 「あとで賽銭活動するから一緒に来てね~」 「また?正直人を騙すのは気が引けるんだけどな」 廊下でてゐと○○がいつものやりとりをしている。断らないのが○○の優しさというかなんというか・・・。 「いいの。騙されるほうが悪いんだから」 「やれやれ・・・・」 二人は私から見ても本当に仲がいい友達以上の関係に見える。幼馴染みたいにも見える。 歳が大体同じだし、背も同じくらいだし。 でも恋人・・・というのにはちょっと違う気がする。 そう思うのは私が嫉妬してるからだろうか。 嫉妬・・・・か。私は○○のことが好きなのだろうか。確かに好印象はあるけど・・・・恋とはちょっとちがうような気がする。 ま、いいか。 「じゃ、竹林のいつものところに来てね~」 「はいはい」 てゐが駆け出した。 「あ、てゐ!朝ごはん先に食べてからだよ!」 「ご飯なんて食べなくてもいいじゃん。妖怪なんだし」 「ダメだよ。妖怪だっていつ何が起こるかわからないんだからね」 「頭固いね~」 「大きなお世話だよ。ほら、行くよ」 そういって、てゐの手を引っ張って食卓へ行ってしまった。 引っ張られてるてゐの顔はなんだか顔が赤い。○○は気づいてないのかな。 って、こんなこと考えてる場合じゃない。早く私も食卓に行かないと。 「おはよう、○○。よく眠れたかしら?」 「おかげさまで・・・危うく、永遠の眠りにつくところでした」 「大丈夫よ。そのときはとっておきの薬があるから」 「何事もなくてよかったです!」 食卓での師匠と○○のいつものやり取り。どうやら○○は師匠にいいようにこき使われてるらしい。 私が嫌だったらそういえばいいのにといっても、彼は嫌とはいわない。お人好しにもほどがある。 ちなみに姫様はまだ起きていない。いつも姫様は一番最後に起きてくる。何時に寝てるんだか。 「ウドンゲと○○。食べ終わったら、ちょっと私に付き合ってね。手伝ってもらいたいことがあるの」 「え?僕はちょっとこの後てゐとですね・・・」 師匠の動きが止まった。顔は笑っているが、心は笑っていない感じの表情である。 「あら、○○。私とてゐのどっちが大切かしら?」 「あの、そういうことを聞くのは反則だとおもい・・・」 「ど っ ち なのかしら?」 あ、師匠がちょっと怒ってる。 「あの・・・その・・・・永琳さん・・・・です」 ここでてゐと答えるやつがいたらそいつはよっぽど頭があっぱれに違いない。 「そうでしょう。わかったら二人ともこの後私の部屋に来てね」 「わかりました、師匠」 「ごめん、てゐ・・・・」 竹林での会話。 「・・・・というわけで、今日は無理だった」 「え~!!さっきついてきてくれるって言ったじゃない」 「仕方ないよ・・・・永琳さんは僕の恩人だし。・・・この埋め合わせはいつかするから、許してよ」 「ホント?今の言葉、嘘だったら許さないからね!」 「君がそのセリフを言うのかい」 。 「まぁいいわ、最近毎日つき合わせてたし。じゃ、またね」 「うん、ごめんね」 「はぁ・・・」 私は竹林を走っている。 いつもは今度は誰を騙そうかとワクワクしているところなのに、出るのは溜息ばかりだ。 「どうしたんだろ・・・私」 一人は慣れてる筈なのにな・・・・どうしてこんなにつまらなく感じるんだろう。 あれこれ考えながら、てゐはいつものように賽銭活動を始めた。 ただ、いつもの人たちが言うにはいつもより少々元気が無かったそうな。 「○○、ちょっとそこの取って~」 「これですかね?気をつけて持ってくださいよ~」 師匠の部屋で、私たちは薬を調合している。 師匠はなにか材料を取りに行ったらしく今は部屋にいない。 それにしても、○○は本当にすごい。 師匠の教えを、たった1年で完璧に理解し、私と同じ、またはそれ以上の薬の腕前になっている。 それに、○○はとても嬉しそうにに薬を作る。 以前、なにがそんなに楽しいのか聞いたことがある。そしたら、彼は言った。 「僕のような妖怪でも、人間を助けられるモノが作れるなんて、うれしくないわけがないですよ」 と、すごくいい笑顔で答えてくれた。本当に妖怪なのかな。 考え事をしていたのがいけなかったのか、うっかり試験管を落としてしまった。 パリーン! 見事に割れる。当然、入っていた薬品が飛び散る。でも、考え事をしていた私は気づかなかった。 次の瞬間、急に体が浮いて、その場から急速に動いた。なにが起こったのかわからないまま上を見ると、○○の顔があった。 「危ないじゃないですか!考え事なんてしてるから、落とすんですよ」 どうやら私はお姫様抱っこをされているらしい。当然、恥ずかしい。 「ちょ・・ちょっと!何してるの!」 「いや・・・だってあのままじゃ、直撃でしたし・・・・鈴仙さんも避ける仕草を見せなかったし・・・」 体が動かない。下りたいのに、なぜか金縛りにあったように体が動かない。 「・・・・」 顔が赤くなっていくのが自分でも分かる。○○は、やっと気づいたようだった。 「すみません、心遣いが足りなくて・・・・」 ○○が優曇華院を下ろそうとしたときだった。 「○○~ウドンゲ~調合は順調なの~?」 部屋に師匠が入ってきた。最悪のタイミングで来るもんだ・・・・。 「・・・」 「・・・」 「・・・」 部屋に入ってきた師匠が固まった。固まるのは今日2回目だ。 部屋には優曇華院をお姫様抱っこしている○○と、顔が赤い優曇華院。 君たちだったら、何を想像するだろうか? 「あんたたち・・・いったい何をやっているのかしら?」 「え!?えーと、これはその・・・・」 ○○が弁解を始めるが師匠は全く聞いていない。 私は体も口も動かなかった。それより、足と体に回されている彼の腕が気になって仕方が無い。 「仕事中にイチャつくなんていい度胸ね・・・・○○、こっち来なさい」 「いや・・・だから・・・これは事故で・・・」 ようやく○○は私をおろした。次の瞬間、師匠と○○の姿が消えた。 普通の人には消えたように見えただろうが、私には見えた。すごい速さで、師匠が○○をどこかへ手を引っ張って連れて行ったのを。 取り残された私は、とりあえず壊れた試験管の後始末をすることにした。 薬の調合をつづけようと思ったが、集中できなかった。さっきの出来事をどうしても思い出してしまう・・・ 「騒がしいわね・・・」 姫様が起きてきた。ちなみに今は14 00ぐらいである。 「おはようございます、姫様」 「おはよう、うどんげ。どうしたの?なんだか顔が赤いわよ」 「なんでもないです」 平静を装って答えた。 「それで、みんなは?」 「てゐは例の活動です。師匠と○○は・・・・・わかりません」 「どこか行ったの?」 「はい。でも師匠が連れて行ってしまったので、どこかはわかりません」 「そう、それよりもお腹が空いたわ。○○・・・は、いないんだっけ。うどんげ、なにか作ってちょうだい」 「自分で作って下さいよ・・・」 「やーよ。めんどくさい」 (怖い・・・怖いよ・・・・誰か、助けて・・・) 僕は博麗神社の縁で正座させられていた。向かいには永琳さんが黙って座っている。 なんで博麗神社なのか聞いたが、いい場所が見つからなかったそうである。 「・・・・」 「・・・・」 10分ぐらいこんな感じである。正直、いや、正直じゃなくてもすごく怖い。 それを、障子越しに見る影が二人。 「おい、あの二人何やっているんだ?」 「知らないわよ。帰ってきたら勝手にいたんだもの」 「さっきからどっちも動きが無いぜ・・・」 「おおかた、○○が何かやらかしたんでしょ」 「どうするんだ?あいつら」 「ほっときましょ。私が出ても意味ないだろうし」 障子から一つ、影が消えた。もう一つの影は、事態が気になるのか消える様子は無い。 「○○」 永琳さんがやっと口を開いた。 「はい・・・」 「あなた、私とウドンゲ、どっちが大切?」 「はい?」 言ってる意味がわからなかった。 「どうしてそんなこと聞くんです?」 「いいから、答えなさい」 声に凄みが増した。 怖い。これ選択肢ないよ・・・・ 「・・・・永琳さんです」 「そうでしょう。わかったらこれからは、軽率な行動は避けること。」 「助けただけなんですけど・・・・・・・・・すみません!僕が悪かったです」 睨まれてしまった。怖い。怖すぎるよ。 「まったく、これだけ言ってもわからないのかしら・・・鈍感ね。この子は・・」 「あの・・・何か言いまし・・・・なんでもないです」 また睨まれた。これ、狂気の瞳よりよっぽど怖いよ。 「まぁいいわ、反省してるようだし、これからは気をつけてね。」 「さっきみたいなことしなければいいんですか?」 「そういうこと。でも私にだったら、遠慮しなくてもいいわよ」 「え?それはどういう・・・」 なんで鈴仙さんはダメで、永琳さんはいいのだろう・・・・ 「・・・・修行が足りないわね。今日はこのまま博麗神社で修行していきなさい」 「え、何をですか?」 「色々と・・・・ね。あなたはもう少し他人の心を勉強すること。」 「????」 疑問が浮かぶばかりであった。そうこうしてるうちに、永琳さんは帰っていってしまった。 「・・・・・」 さて、どうしよう。今日はここで修行しろと言われたが、何をすればいいのか見当がつかない。 しかもここの巫女さんに許可取ってないし・・・・。 「よう、○○」 「ん?」 障子から誰か出てきた。いかにも魔法使いな格好をしているこの人は・・・ 「魔理沙さん、こんにちは」 「さんはいらないといつも言っているだろう・・・」 しょうがない。これは癖みたいなものだ。 「厄介なことになってるみたいだな」 「はは・・・。いったい何が何なのかわからないけどね・・・」 「何を言われたんだ?」 「ここで修行しろだとさ。今日は永遠亭には帰れないらしい」 「何を修行するんだ?」 「それがよくわからないんだ・・・他人の心?を勉強するんだとかなんとか・・・」 「あら?さっきの話は終わったのかしら?」 また誰か出てきた。今度は巫女さんである。 「霊夢さん、お邪魔させてもらってます。」 「霊夢でいいわ。それで、さっきのは終わったの?」 「うん、さっきのは終わったけど・・・」 「?」 霊夢に、永琳さんが言っていたことを伝えた。 「心を勉強・・・か。たしかに、あなたは妖怪だし、そこらへんわからないかもね」 「何をすればいいんだろう・・・・」 「とりあえず、本を貸すわ。これでも読んでなさい。」 そう言って、渡されたのは、心理の本だった。 「今日は泊まっていきなさい。寝るところないんでしょ?」 「いいの?ごめんね、なんか僕が不甲斐ないせいで・・・よくわからないけど」 「○○、ここに泊まるのか?」 「うん、寝るとこないし。まぁ、いざとなったら、竹林でも寝れるけどね」 「じゃあ、私もここに泊まるぜ」 「はあ?」 霊夢が驚いた。 「ちょっと、なんであんたまで泊まる必要があるのよ」 「いいじゃないか、別に。一人ぐらい増えたって変わらないぜ」 「変わるわよ!主に食費が」 なんか二人とも言い争いを始めた。ひょっとして僕が原因? 「喧嘩しないでよ、二人とも・・。僕が出て行けばいいんでしょう?じゃ、霊夢、読み終わったらこの本返すね」 「「え?」」 二人の声がハモった。 そういって、○○は竹林に飛んでいってしまった。 「・・・・・・・・」 「・・・・・・・・」 場を支配するのは沈黙。それはそうである。 二人とも、目的の人物(妖怪)がいなくなったのだから。 「・・・・・・・・・・で、あんた、泊まるの?」 「・・・・・やっぱりいい」 霊夢と魔理沙は理解した。○○は人の心を理解できていないのは本当だと。 果たして、○○がそれが自分に向けられた好意だと気づくのは、いつになるのやら。 その日の永遠亭の夜。 「あら?今日は○○が作ったご飯じゃないのね・・・残念だわ」 姫様がガックリと肩を下ろす。ちなみに今日作ったのは○○が来る前に料理を担当していた因幡ウサギ達である。 彼女(彼)らも報われないな。 「師匠、○○はどうしたんですか?」 「うふふ・・・ちょっと人の心を勉強させてるわ。心配しないの」 「どこでですか?」 「例の巫女がいるの神社よ。見たところ、あの子たちは○○に恋しちゃってるみたいだから、ね♪」 初耳だ。霊夢や魔理沙が○○のことを好きだなんて・・・・・・なぜか胸がチクリとした。 「師匠は・・・なんとも思わないんですか?」 「あら、どういう意味?」 「いや・・・だから・・・その・・・・なにか間違いが起きないのかなって・・・・」 言ってて顔が赤くなってきた。いったい何を言っているのだろう、私は。 師匠はクスクス笑うだけで何も言ってくれない。 なんだか妙に気恥ずかしさが来た私は逃げることにした。 「おやすみなさい!師匠、姫様!」 そういって、居間から飛び出て、自分の部屋に急いだ。 「あらあら・・・これは・・・・ややこしいことになってきたわね♪」 永琳が誰にも言うわけでなく楽しそうに呟いた。 「○○~早く帰ってきて~。私にご飯作ってよ~」 ・・・・ダメなお姫様もいるものである。 「どうしたんだろ・・・私」 ベッドに横になっても頭に出てくるのは彼の笑顔、体に残っている彼の腕の感触ばかり。(なんかこの書き方、エロいな これじゃとてもじゃないけど眠れない。 「散歩でもしようかな・・・・」 そう決めた私は、竹林で散歩することにした。 夜の竹林は不気味である。 もともと昼でも日の光が入らない竹林なので、夜は周りが全く見えない。 妖怪は、この暗さが心地よいらしいんだとか。 その竹林を、優曇華院が歩いていた。 「落ち着くわね・・・ここは。彼がここに住んだ理由もわかるかも」 散歩しても出てくるのはやっぱり彼のことだった。私は気づかないフリをしていた。 すると、向かいから何かが飛んでくる音が聞こえた。 「ん・・・・?誰かしら」 「やれやれ・・・・あの本どこに落としちゃったのかな・・・」 それは、聞き覚えがある声だった。 「○○・・・?」 「あれ・・・・鈴仙さん、こんなところで何やってるんです?」 「なんでここに・・・?」 それはこっちのセリフだったが、今は何故か彼に会えたことが嬉しかった。 私の顔が赤くなっているような気がするが、暗くて見えないだろう。 「博麗神社にいるんじゃなかったの?」 「そうだったんですけど・・・なんか二人が喧嘩しはじめちゃいましたからここにしました」 「そう・・・・」 今なら、彼女たちが喧嘩する理由が分かる気がした。 「じゃ、また朝会いましょう、鈴仙さん。今は永遠亭に帰れませんし。おやすみなさい」 「あ・・・・」 そう言って、飛んでいってしまった。 「おやすみ・・・・なさい」 彼が消えた後で言っても意味が無い。 もうわかった。今のでわかってしまった。 私は――――――○○に恋をしていると―――――― 変わってしまった。好意が、恋に。 それが、吉なのか、凶なのか・・・・・ 今の私には、わからなかった。 Q.主人公はウドンゲなの? A.なんか書いてたらウドンゲが主人公になっちゃいました。でもどうなるかわかりません。 Q.霊夢と魔理沙の扱いに全俺が泣いた。 A.彼女たちは今回はサブ・・・のつもりです。 でもひょっとしたらひょっとすると・・・かもしれません 11スレ目 32 96 ─────────────────────────────────────────────────────────── ベタですまないが単刀直入に言わせてもらおう。 鈴仙、君が好きだ。愛している。 11スレ目 1000 ─────────────────────────────────────────────────────────── 鈴仙「○○~お汁粉できたよー」 ○○「おぅ、ありがと。んー時間がたってもこの餅すごくやわらかくてうまいな」 鈴仙「餅つきは兎の専売特許ってね。あ、ほっぺにお餅ついてるよ」 ○○「えっ、どこどこ?」 ――ちゅっ 鈴仙「えへへ、○○のために特別につくったお汁粉だからすごく甘いね」 ○○「――――(赤面)」 12スレ目 56 ───────────────────────────────────────────────────────────
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技表必殺技 スペルカード 各種早見表必殺技レベルアップ効果 射撃技早見表 フレームデータ 更新履歴 技表 必殺技 コマンド系統 技名 使用場所 攻撃属性 備考 マインドエクスプロージョン 地上 射撃 マインドベンディング 地上/空中 射撃 マインドドロッピング 地上 射撃 ホールド可能(爆発待機)一定時間後に爆発し小弾を振り撒く特殊弾 フィールドウルトラレッド 地上 - フィールド内に相手がいると、鈴仙が見えなくなり射撃が当たらなくなる フィールドウルトラバイオレット 地上 - フィールド内に相手がいると、鈴仙の分身が現れ攻撃を受ける アンダーセンスブレイク 地上 射撃 イリュージョナリィブラスト 地上 射撃 アイサイトクリーニング 地上/空中 射撃 ホールド可能(攻撃待機+コーン拡大)コーン内の相手が居る位置へ攻撃コーンの外周は相殺判定だけを持つ リップルヴィジョン 地上/空中 射撃 ホールド可能(ヒット数増加+弾拡大) ディスビリーフアスペクト 地上 射撃 分身を設置して攻撃させる ディスオーダーアイ 地上/空中 射+打 分身が飛び出す部分は射撃分身が戻ってくる部分は打撃 アキュラースペクトル 地上 - 方向キーを入れた位置の鈴仙が実体となる移動技どこにも入れない場合は前方の鈴仙が実体となる スペルカード コスト 技名 使用場所 攻撃属性 備考 1 惑見「離円花冠(カローラヴィジョン)」 地上/空中 射撃 弱心「喪心喪意(ディモチヴェイション)」 地上 射撃 ヒット時、相手の手札を1枚破壊する 2 毒煙幕「瓦斯織物の玉」 地上 - 地上付近に居ると継続ダメージを受ける特殊フィールドを生成 長視「赤月下(インフレアドムーン)」 地上 - フィールドウルトラレッドと同じフィールドを画面全体に生成 3 幻爆「近眼花火(マインドスターマイン)」 地上/空中 磨耗射撃 幻惑「花冠視線(クラウンヴィジョン)」 地上 射撃 喪心「喪心創痍(ディスカーダー)」 地上 射撃 ヒット時、相手の手札を1枚破壊する 生薬「国士無双の薬」 地上 - 使用する度に攻撃力と防御力が増加する4度目の使用で強化効果解除+自爆攻撃(ガード不能) 短視「超短脳波(エックスウェイブ)」 地上 射撃 ヒット時、フィールドウルトラバイオレットと同じ分身を生成 4 赤眼「望見円月(ルナティックブラスト)」 地上 磨耗射撃 5 「幻朧月睨(ルナティックレッドアイズ)」 地上/空中 射撃 各種早見表 必殺技レベルアップ効果 コマンド 技名 レベル毎追加効果 Lv1 Lv2 Lv3 LvMAX マインドエクスプロージョン 爆発の範囲拡大 マインドベンディング - 爆発の持続時間延長爆発の範囲拡大爆発の弾速上昇 爆発の弾速上昇 爆発の持続時間延長爆発の範囲拡大爆発の弾速上昇 マインドドロッピング - 最大ホールド時間延長散弾の弾数+2 最大ホールド時間延長散弾の弾数+2 最大ホールド時間延長散弾の弾数+2 フィールドウルトラレッド フィールド持続時間延長 フィールド持続時間延長 フィールド持続時間延長 フィールド持続時間延長 フィールドウルトラバイトレット - フィールド範囲拡大 フィールド範囲拡大分身生成数+1 フィールド範囲拡大 アンダーセンスブレイク - 発生加速 出始めにグレイズ付加 イリュージョナリィブラスト B版の発生加速 C版の発生加速 B版の弾拡大 C版の弾拡大 アイサイトクリーニング - 走査線の射出周期短縮 走査線の射出周期短縮 走査線の射出周期短縮 リップルヴィジョン - 残像に射撃判定付加 ディスビリーフアスペクト 弾数+1 弾数+1 弾数+1 ディスオーダーアイ - B版の弾数+4C版の弾数+2 アキュラースペクトル - 硬直軽減 空中可に 空中版の硬直軽減 ※レベル毎にダメージが10%ずつ上昇する効果は省略 射撃技早見表 +射撃技早見表を展開 通常技 技名 ヒット数 相殺関連 グレイズ耐久数 備考 強度 回数 B系射撃(立B、+B、屈B、JpB、Jp+B) 1 C 2回 1回 通常版は3弾出るホールド版は5弾出る C系射撃(立C、JpC、Jp+C) 弾頭部分 1 B 1回 無制限 1弾出る一定時間経過or接触or相殺で爆発部分へ移行 爆発部分 3 B 4回 無制限 ホールド版・C系射撃(ホールド立C、ホールドJpC、ホールドJp+C) 弾頭部分 1 B 1回 無制限 5弾出る一定時間経過or接触or相殺で爆発部分へ移行 爆発部分 3 B 4回 無制限 屈C 1 - - 無制限 1弾出る 必殺技 技名 ヒット数 相殺関連 グレイズ耐久数 備考 強度 回数 マインドエクスプロージョン 弾頭 1 B 1回 無制限 1弾出る接触or相殺で爆発に変化 爆発 4 B 4回 無制限 マインドベンディング 弾頭 1 B 1回 無制限 1弾出る一定時間経過か接触or相殺で爆発に変化 爆発 1 B 1回 無制限 弾頭1弾から8弾出る マインドドロッピング 弾頭 - - - - 1弾出る攻撃判定を持たない一定時間経過orホールド解除で散弾に変化 散弾 1 B 1回 1回 Lv1時は弾頭1弾から6弾出るLvアップで弾数増加(6-8-10-12弾)接触or接地で爆発に変化 爆発 1 C 1回 1回 アンダーセンスブレイク 5 - - 5回 1弾出る イリュージョナリィブラスト 8 B 無制限 無制限 1弾出る相殺で攻撃回数が減少しない アイサイトクリーニング 外周 - B 無制限 - 2弾出る攻撃判定を持たず、相殺判定のみ持つ 走査線 - B 1回 - 一定周期で2弾ずつ出る攻撃判定を持たず、相殺判定のみ持つB版は周期が短く、C版は周期が長いLvアップで走査線の生成周期短縮 攻撃光 7 - - 7回 サイト内に相手が居るときにホールド解除で発生 リップルヴィジョン 通常版 1 B 3回 無制限 1弾出るLv4時、軌跡に攻撃判定を持つ残像を生成 ホールド版 3 B 3回 無制限 1弾出るLv4時、軌跡に攻撃判定を持つ残像を生成 残像 1 B 1回 無制限 弾本体の軌跡に一定周期で生成され続ける通常版は周期が長く、ホールド版は周期が短い ディスビリーフアスペクト 分身 - - - - 1弾出る攻撃判定を持たない一定時間後に弾丸を射出 弾丸 1 C 1回 1回 Lv0時は4弾出るLvアップで弾数増加(4-5-6-6-7弾) ディスオーダーアイ 分身(往路) 1 - - 1回 Lv1時、B版は2弾、C版は4弾出るLv4時、B版もC版も6弾出る一定時間後に分身(復路)に変化 分身(復路) 1 - - - 打撃判定 スペルカード 技名 ヒット数 相殺関連 グレイズ耐久数 備考 強度 回数 カローラヴィジョン 5 B 5回 無制限 1弾出る ディモチヴェイション 1 - - 3回 1弾出る マインドスターマイン 弾頭 - - - - 18弾出る攻撃判定を持たない一定時間後に爆発に変化 爆発 1 A 3回 無制限 磨耗射撃属性弾頭1弾から爆発1弾出る攻撃判定消失で消滅しない クラウンヴィジョン 1 B 1回 無制限 10弾出る ディスカーダー 弾頭 1 A 3回 無制限 1弾出る接触or相殺で爆発に変化 爆発 1 - - 3回 弾頭1弾から爆発1弾出る 国士無双の薬 自爆攻撃 1 A 1回 - 特別射撃属性1弾出る エックスウェイブ 7 - - 7回 1弾出る ルナティックブラスト 23 B 無制限 無制限 磨耗射撃属性1弾出る ルナティックレッドアイズ 1 B ?回 無制限 16弾出る フレームデータ フレームデータ/鈴仙 更新履歴 10/05/10スペルカード一覧をver1.10仕様へ。 10/04/14必殺技レベルアップ効果をver1.10仕様へ。 09/08/18技表を必殺技分だけ作成。スペルカードはコメントアウト中 早見表に必殺技レベルアップ効果の雛形だけ作成。他はコメントアウト中
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←マダム・プリン 阿頼耶識ゆま→ 鈴仙 ■性別:女 ■攻撃力:1 ■防御力:2 ■体力:3 ■精神力:4 ■狂気の瞳:20 ■所持プリン:3 ■特殊能力名 インビジブルフルムーン ■特殊能力内容 [発動率42% 成功率100%] 効果:攻撃値⇔精神値入れ替え(敵) 範囲:隣接4マスの4マス目(天井方向) 対象:敵1体 時間:2ターン 制約:女性のみに有効 制約:自分永続行動不能 付属:【術者死亡で解除】 付属:【全地形貫通】
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| /‐- 、O > ‐  ̄ ̄´⌒ヽ \ | }_ >'´ ⌒ヽ \ ヽ } |_>'´ \ \ ‘、. / !⌒ / 、 ヽ \. } / } / | \ \ ヽ ‘, \ j. / / / / { !\ _ _ ヽ -ヘ ハ ハー─‐' ′ / / { { i ト、 斗-ヘ ハ ‘, ト ハ '. { イ { 」斗ハ「 ‘、 !孑芹芋ミ、 | |ハj ! 八 / { ‘, V孑=ミ `、 i V /}∧八j } i \ イ 八 ‘, 〈 V ノ! ヽj V ツ } | | l  ̄ { ∧ ヽ ∧. Vリ , 八 リ /! ! ‘、 {∧ ト { _ -┐ / / / | | 〉'//\ |ヽ 込. V ノ .イ / / | ! //////,\! / / ≧=- -く / / /} ! l. ////// / 厶 〈 / /r‐7 / /7| | { |! ///// / ////>='‐ァ〈 {./ / ///! ! | |i //// / /////////厶'イ / ////! ト、 | | !. /'/ // /////////イ/ / /V///| |∧ ! ! ! イ /// ////////// / //////,| |'/,〉 | | | / , ///{ /////////// /j///////,| |// | | ! / / . //! 厶=-ァ7 ̄{'// ///////////! !/ ! ! |【鈴仙・優曇華院・イナバ】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫┃■ステータス■┃【統率】1 【武勇】11 【情報】12 【政治】2┃┃■武勇内訳■┃【力】9 【体】10 【速】10 【技】17 【魔】9┃┃■成長率■┃【統率】D 【武勇】A 【情報】A 【政治】D┃┃【力】C 【体】C 【速】C 【技】B 【魔】D┃┃■成長ポイント■┃【56点】┃┃■雇用コスト■┃資金2/ターン┃┃■特性■┃◎サジタリウス/中衛┃ 前衛も後衛もこなせる射手。弩が得意だが、格闘戦も不可能ではない。┃ 他に前衛を務められるキャラが居る場合、自身の好きなステータスを+2する。┃ また、前衛を務める場合にも【技】ステータス+2を得る事が可能。┃┃■能力■┃┃◎トリガーハッピーver2.0┃ 敵(撃って良い相手)が多ければ多いほど歓喜する困ったちゃん。┃ 小規模戦闘時、敵の数が2体以上ならば最終勝率に+(敵のキャラ数-1)×7%。┃ クラード・群体など、複数人で1キャラ扱いの相手がいる場合、更に+12%。┃ これは『武術』の変則上位スキルであり、競合する。┃┃◎コミュ障┃ このキャラクターは【政治】や【統率】を扱う判定に参加した場合、成功率を-10%してしまう。┃┃◎波長を操る程度の能力┃ 波長を操る事により、能動・受動を問わず生体ソナー、レーダーのような事が出来る。鈴仙特有の特殊魔術。┃ また、相手の波長を狂わせて視覚・平衡感覚を微妙に狂わせる事も可能。┃ 索敵や戦闘に関わる方面での【情報】判定に限り、自身の【情報】ステータスを+3する。┃ 更に小規模戦闘時、『全ての敵と』【情報】判定で対決。1つ勝利する毎に勝率に+4%の補正を得る。┃ これは直感力と罠の複合スキルであり、競合する。┃┃○情報力ver2.0┃ このキャラクターが【情報】ステータスを用いる判定に参加する場合、その成功率を+10%する。┃┃○探索士ver3.0┃ ダンジョン探索に参加している場合、判定に成功した後で得られる探索度を+3。┃┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛▼――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――▼『鈴仙』 今作の仲間キャラの中で最も面倒臭い過去と最も破綻した人格を持つキャラ。 銃が無いととても気弱で、銃を持てば好戦的というのは、とある同人誌で見た設定だった―――筈。 初出は知らぬ。 元々は気弱ながらもコミュ障ではない範囲の性格の人物であり、優秀な兵士だった―――のだが。 メガザル篇における、アーカードによる船舶破壊工作に巻き込まれ、深刻なトラウマを負う。 現在では半ば分裂症に近い性格になっており、仲間が殆ど死んだのに自分が生き残った後ろめたさから 普段のコミュ障レベルの気弱さが生まれている。 その一方で自分があれくらい強ければ仲間が死ななかったという願いと、アーカードのように強い存在に なりたい(というか、ああなれば死なないで済む)という深層心理からか、弩を持った時の好戦的な性格が 生まれた。 当人は自分の現状の難儀さは理解しており、それ故に冒険者という生き方を選択している。 軍人を続けなかったのは、この性格で軍人を続ける事の難しさも理解していたから。 本質的には元々気弱で、依存心の強い性格。 だが気弱さゆえの警戒心の強さと鋭さがあり、それが高い情報値という形で表現されている。 成長限界値も情報の方が武勇より高い他、情報系固有スキルも覚える事が可能。 また、軍人時代に学んだ医療技術から、医療系固有スキルも覚えられる。 ちなみに年齢は20代前半。アーカードの船破壊事件の時に、10代後半くらいだったと裁定した結果である。 20代でブレザー装備―――アリじゃね? ▲――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――▲ /"  ̄ 、 / _ \ 〃,/////>、 \ .‐ ∥///// ー -.ヽ,, } /. ∥////i },, ノ / レ"" \-‐ニニ二 ̄ ̄` 、 / / ; ' ィ \ ヾ///////////ム \ / ./ </| / / ヽ 、 ̄ ̄ マ//ム \ / /≧ト /| / _;/-} ハ } ヽ///j / { イf抃ミル`リ /| / ノ リV マ// } . ハ レイ セ; ンヾ レ !ィ気ミ V / / / イ V ! セン リ Y " / / / | 从 ゝ 从 人 < _ / __. < 厂≧zミ リ リ ` _ イ イ ヽ _. -‐ / _ _ ノ/>///ヽ 从\> ‐ イ 八 ! トミ . 、 ‐-= / //////////ハ .!/Ⅳr;;y\ i / ヽ ! | ` ≧=-‐ ________z≦ _ 彡ィェ<///////////// . i// Y;;\Kレ } | . / ⌒ヾ=rニュ三三三三三三三! |三上ニ7i/////////ハ///} レ/7 ヾ;;;;〉<zx ルイ .、 〃/;;;;)) }三三三三三三三三三 ノ三ニエユ////////////ル///>、 Y ///ム 人 ≧.、 ∥(;;;;;彡' /二二二二二二ニニニ//ニ⊆⊇/</////人///////////// レ/////j ` ミ ノ  ̄ / ___ __二二ニ//////// ヽ/////////////b/////v ( ◯ /-ー=== ̄ ̄ヽゝv"つンノ;; " ̄Y ヽ//∨( Y/////////≧{z=-//V  ̄ / ¨ ̄〈 ̄つ;ゝイ } }/∨ ヽ /////////////ゝp//Y 〈_ ̄フ;;;;;/ ン //∨ ヽ Y////V///////‐z≠//{ { /ゝニ ;;;/ィ ̄//// ! 人/////////////b///∧ ヽ ` ̄ ̄/ Y/// レ }/>////////〈//////>▼――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――▼『鈴仙・優曇華院・イナバ』 できない夫の仲間にして、ロックの恋人でもある、トリガーハッピーな元軍人の亜人娘。 兎の獣人であり、その高い感知能力を以って、できない夫やその仲間たちとの冒険では安定した活躍をした。 特にダンジョン探索には欠かすことの出来なかった人材。 元々は軍人であったが、PTSDを受け軍を退役。冒険者になったという経歴を持つ。 しかしヤン・バレンタイン討伐後は徐々にそのPTSDを克服。 コミュ障気味だった性格も大分緩和されていったようである。 スペシネフ戦においては、スペシネフの創った地下迷宮の突破に尽力。 縁の下の力持ちとでも言うべきいぶし銀の活躍を見せた。 戦後は恋人であるロックとともに、テイガーの周辺で裏社会に関わって生きていくことを選んだ。 トリガーハッピーだったのはPTSDも何も関係ない地の性格だったらしく、荒事になれば嬉々として武器をぶっ放す彼女の 姿が、スラム街ではしばしば見られたようだった―――▲――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――▲
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鈴仙 加入条件:ステージ開始時に加入 初期装備:はがねの槍・てつの剣 初期能力 Lv クラス HP 力 魔力 技 速さ 幸運 守備 魔防 移動 武器レベル 2 ソシアルナイト 18 6 0 5 7 4 6 2 9 剣E 槍D 成長率(%)【ユニットデータファイルより】 HP 力 魔力 技 速さ 幸運 守備 魔防 90 50 0 80 60 60 40 1 成長率(%)【試行回数100回】 HP 力 魔力 技 速さ 幸運 守備 魔防 89 43 0 74 52 55 46 1 ステータス上限 クラス HP 力 魔力 技 速さ 幸運 守備 魔防 パラディン 60 25 ? 28 25 30 25 ? 特徴 加入当初はあまり強くない印象だが、全キャラの中でも屈指の成長率を誇り、レベルが上がるとガンガン強くなる。 魔力と魔防以外の複数のステータスでカンストが期待できるほどで、安心して最前線に送り出せる。 もちろんナイトキラー持ちに誤って突っ込ませないよう注意。 また、支援相手に優秀なアーチャーである永琳がいるのも強み。 序盤で登場するので育てやすいうえ、育てるとすさまじい強さになるためバランスブレイカーと呼ばれることもある。 支援会話 永琳 (レベル3MAX時) てゐ (レベル3MAX時) 輝夜 (レベル3MAX時)
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☆このページでは、霧雨の野望における鈴仙・優曇華院・イナバについて詳細に解説しています。 東方Projectでの鈴仙・優曇華院・イナバについて詳しく知りたい方は東方wikiなどの鈴仙・優曇華院・イナバを調べてください 鈴仙・優曇華院・イナバ(れいせん・うどんげいん・いなば)(劇中では優曇華院鈴仙で登録)(? - ) 各地を騒がせている異能の者の一人。月の兎。 主人の蓬莱山輝夜、師匠の八意永琳に付き従って筒井家の客将となっていた。 筒井家が織田に滅ぼされてからしばらく行方が分からなくなっていたが (逃げ遅れて織田勢に捕縛され、捕虜または登用されていたと推測される) 姉小路家が織田を滅ぼした際、岸和田城の庭先に転がっているところを発見される。危うく魔理沙に兎鍋にされるところだった。 姉小路の家臣団に加わり、姉小路が足利家を破ったことで輝夜たちと再会できた。 結局自力で探し当てることはできなかった為、永琳の小間使いに降格の罰を言い渡される。 ☆出生・家族構成 生年不明、月生まれ。数十年前に地球に亡命してきた。 幻想郷の竹林にある館「永遠亭」に、蓬莱山輝夜、八意永琳、及び 因幡てゐを始めとする妖怪兎たちと共に住んでいる。 ☆官位・役職 ☆参加合戦 洛南会戦、姫路城の戦い、亀山城の戦い、清洲城の戦い 革新能力 統率59 武勇86 知略75 政治49 義理75 足軽C 騎馬C 弓B 鉄砲B 計略C 兵器C 水軍D 築城D 内政D 戦法:斉射、早撃ち、罵声、鼓舞、混乱 (Act70現在) うp主解説 永夜抄5ボス。座薬で人は殺せますか?統率は大した事ないが武勇は高め、 そしてほどほどの知力に「混乱」を持ちと副将要員としては申し分が無い。 「混乱」は彼女の赤眼の能力を表現するためだけに入れたので、計略特性 そのものは低めだったりする。 緑の人解説 「狂気を操る程度の能力」 月に棲む兎という。眼を見た者に幻を見せる能力を持ち 永琳を師匠と呼び従う。本名はレイセンで他は綽名に近い
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D鈴仙 タイプ:岩毒 スキル1.狂気を操る程度の能力:ターン終了時、10%の確率で相手を混乱させます。 スキル2.狂気の赤い瞳:自分が状態異常になると、相手にも同じ状態異常を引き起こします。 重複弱点(3倍):地 弱点(2倍):水/理/鋼 抵抗(1/2倍):無/炎/風/虫 重複抵抗(1/3倍):毒 無効: 種族値・同タイプ比較 (タイプ) HP 攻撃 防御 特攻 特防 速度 合計 D鈴仙 130 30 90 110 105 80 545 スペル スペル名 属性 分類 威力 命中 消費 詳細 アイドリングウェーブ 理 特殊 80 100 0 30%の確率で、相手を混乱させます。 インビジブルハーフムーン 岩 特殊 80 100 15 30%の確率で、自分の特攻が1段階上がります。 マインドベンディング 鋼 特殊 90 100 25 30%の確率で、相手の特防を1段階下げます。 インビジブルフルムーン 岩 特殊 100 100 30 30%の確率で、相手の特防を1段階下げます。 瓦斯織物の玉 毒 特殊 100 100 15 相手を毒にします。 フィールドウルトラレッド 理 変化 - - 20 5ターンの間、特殊攻撃のダメージを半減します。交代しても効果は継続します。 テレメスメリズム 理 変化 - 75 15 相手を眠らせます。このスペルは属性の影響を受けません。 インフレアドムーン 理 変化 - - 20 先攻で使用します。使用時のVPにより、使用ターンのみ回避率が上昇します。(3/4以上:+1000、3/4未満:+2倍、1/2未満、+20) 考察 基本評価 運用方法 BP振り 装備候補 コメント欄 名前
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~間もなく、二十一番線にはやて二十五号が到着します~ 「鈴仙、こっちこっち」 「うん、あ、私窓際!」 「はいはい、最初からそのつもりだよ。 ほら、荷物上に載せるからこっちに渡して」 「えへへ、お願いね」 神無月の里帰り、俺と鈴仙は新幹線と特急を乗り継いで北海道を目指す。 …飛行機を使わないのかだって? 飛行機じゃ、ゆっくり酒が飲めないだろ? まあ、本当のところは、紫さんとの約束のせいだ。 …鈴仙の波長を、神無月の間スキマ送りにして、月にバレないようにしてくれることと交換で。 その条件が『行きは電車で、車内販売と乗換駅のみやげ物を買い漁ること!』だったのだ… まあ、景色を楽しめるし、これはこれで。 「ねぇ○○、さっき紫さんと何を話してたの?」 「ん、あー、これだ…」 俺は胸ポケットから、一枚のメモを取り出した。 そこに書かれているのは、都内某所の住所だ。 「なにこれ?」 「土産はここに送れば、幻想郷に送っといてくれるってさ。 さすがにイナバ達の土産なんて、持って帰れる量じゃないだろ?」 「確かに…小物でも相当な量になるものね」 「しかし何というか、痒いところに手が届くというか… 外でボーダー商事とか経営してないだろうな…」 「ボーダー商事?」 「ん、気にするな」 「???」 波長云々の話は、言うべきでは無いだろう。 鈴仙自身が気付いたなら、その時にすればいい。 そんな話をしているうちに、新幹線は走り出した。 外に映るのは、都市の風景。 「ここ、凄い数の人が住んでるのね」 「うーん、住んでいるとは言い難いかな。 郊外からの通勤者が半分以上とか聞いたけど」 「そうなの?わざわざめんどくさいことしてるのね」 「人が一箇所に集まる方が都合がいいことが多いのさ」 「そんなものなの?」 「そんなものなんですよ」 しばらくして、大宮駅。 窓の向こうから、こちらを覗く人がやけに多い気がした。 そうだ、すっかり忘れていたが、鈴仙には『耳を隠して』としか言っていなかった。 つまり、髪と眼がそのまんま… 「…鈴仙、耳は見えないようにしてるんだよな?」 「うん。流石に目立つからね」 「いやその、何だ…」 「私の髪と眼も目立ってるんでしょ?」 「うむ…すっかり慣れてて忘れてた」 「そう思って、一応他の人には黒髪、黒目に見えるようにしてるわよ」 「そうか…んじゃ、やっぱジロジロ見られる理由は、可愛いからか」 「えっ、そ、そうかな?」 「俺自身、一目ぼれだったしな。 初めて竹林で見たときは、一瞬女神かと思ったから」 「もう、誉め殺しも大概に…って、一瞬だけ? それってどうなの?」 「いやまぁ、外の学生服みたいな格好だったからなぁ。 『いやいや女神はブレザー着ないだろ!』って脳内でセルフツッコミしてたよ」 「あー、そういえばそんなこと言ってたっけ。 …地上の学校かぁ…ちょっと通ってみたいかな…」 「駄目だ」 「分かってるわよ…外で生活できるわけ無いじゃない」 「変な男が初日から軽くダース単位で寄って来るから、絶対に駄目だ」 「浮気とか心配?」 「学校に行くぐらいなら、家で俺の帰りを待っていて欲しいね」 「さらっと何言ってるのよ、もう…」 つん、と軽く肘でつつかれた。 瞬間、自分の台詞が異常に恥ずかしくなってくる。 完璧にプロポーズじゃないか、これ。 鈴仙を見ると、顔が赤い。 恐らく、俺の顔も同じぐらい赤くなっているんだろう。 照れ隠しに、鈴仙の頬にキスしようとした。 鈴仙も同じことを考えていたのか、結果的に向き合って、普通にキスしていた。 御互いに少し笑いあって、手を繋ぐ。 鈴仙は頭をこちらに預けてくる。 俺にしか見えない耳が、顔を撫でる。 陸路でのんびりするのも、好いものだ。 新幹線は再び走り出した。 次は仙台。 ───────── ~仙台通過~ 「このへんは建物が殆ど無いのね」 「田舎だからね」 「幻想郷の人里あたりと、あんまり変わらないわね」 「そうだなぁ…まあ、違うといえば電線ぐらいか」 「そのうち、河童と神様が引いちゃうんじゃない?」 「うーん、景観が悪くなるから、最初から埋設工法にして欲しいなぁ」 何でも、山の神様が地底で核融合炉を稼動させているとか… それを外でやってりゃ、それこそ信仰がっつり稼げた気もするんだが。 そんなことを考えていると、車内販売のワゴンが回ってきた。 「すいません、弁当二つとビール二つ」 「こんな時間から飲むの?」 「こんな時間だから飲むんだよ」 「それも一理あるわね」 二人で違う弁当を選び、つつきながら酒を飲む。 「ん、牛タンおいし♪」 「あ、俺にも頂戴」 「はい、あ~ん」 「あ~ん」 うん、牛タンはハズさないな。 でも俺は色々入った弁当を選んだ。 車内飲みのつまみには、幕の内なんかの多様なおかずが入った弁当がいいのだ。 「○○、その卵焼き頂戴」 「ほら、あ~ん」 「あ~ん♪」 「鈴仙って、卵焼き好きだよな」 「うん、三番目ぐらいに好きかな」 「へぇ、二番は?」 「にんじん!」 「あれ、一番が人参じゃないのか?」 「違うわよ、一番は」 ちゅ 「れ、鈴仙!?」 「えへへ…一番は○○」 「……なぁ……」 「……ごめん、自分でやっといて、めっちゃくちゃ恥ずかしい……」 「ビール一本でそれじゃあ、これ以上飲んだらどうなるやら…」 「あはは…」 「すいませーん、ビール二本下さい~」 「え!?」 「どうなるのか、楽しみだなぁ、鈴仙?」 「もう、ほんとに知らないわよ?」 「俺もどうなるか分からないぜ?」 「そこは御互い様、ってことね」 「ああ、御互い様だ」 再び鈴仙と唇を重ねる。 ビールを持ったまま、居心地悪そうに余所見をする売り子をそのままに。 次は八戸で乗り換えて函館まで。 ─────── ~次は終点、函館です~ 「あ、○○!海が見えた!」 「おー、久々に海を見たなぁ」 「ほんと、何十年ぶりかしら…」 「幻想郷には海が無いからなぁ…。 鈴仙は、幻想郷からは一度も出てなかったんだっけ?」 「うん、ずっと竹林に居たわ。 人里だって、永夜異変以前は行った事が無かったもの」 「退屈じゃなかった?」 「ううん、全然! 毎日師匠の手伝いとてゐのいたずら、それに姫の気まぐれに付き合う日々だもの! 退屈する暇なんて無かったわ!」 本当に楽しそうに、鈴仙は笑顔で語る。 「そっか、それは確かに退屈してる暇はないな。 むしろ体が持つかどうか心配だ」 「あはは、ほんとよね。 まあ、最近はてゐのいたずらも落ち着いたけどね」 「へぇ…」 そうか…伊達に兎をまとめてないな。 鈴仙に月のことを忘れさせてやるのも、兎の長としての役割ってことか。 …少し御土産サービスしてやるか。 「あ、そういえば、向こうでは○○の実家に泊まるの?」 「いや、ホテルを紫さんに頼んだよ。 実家への連絡が取れなかったからね」 「そっか、ちょっと残念かな」 「まあ、急に帰って来られても困るだろうし。 それに、ホテルは温泉付きだぜ?」 「あっ、私温泉初めてかも!」 「そういや、幻想郷の温泉っていうと、霊夢のとこに最近沸いたのぐらいしか無いのか」 「うん、でも、まだ行ったこと無いのよね。 最近、ちょっと忙しかったし」 「季節の変わり目は体調崩す人多いからなぁ…」 皆さんも、体調管理には気をつけましょう。 体調を崩しても、鈴仙や八意先生のような美人に出会える確率は0に等しいですから。 「ん、そろそろ青函トンネルだな」 「トンネルって、景色が無くて寂しいのよね…耳は痛いし」 「ここで残念なお知らせだ」 「え…?」 「青函トンネルは、世界最長のトンネルでございます」 「うー、聞きたくなかった…」 「ま、後は終点まで寝ちゃうのも手だね」 「そうしよっかな…」 ぽふっ 「ま、そうなるよな」 「えへへ、肩貸してね」 「喜んで」 もたれかかってくる鈴仙の感触を味わいながら、俺は今までのことを思い出していた。 幻想郷に迷い込み、闇雲に歩いていた竹林で初めて鈴仙に出会ったこと。 結界の不安定さと紫さんの冬眠が重なって外に帰れず、人里で暮らし始めたこと。 その家が隣家の火事で燃えて途方に暮れたこと。 住み込みで、永遠亭の支店として作られた薬局で働くことになったこと。 その縁で、鈴仙と再会したこと。 時を重ね、思いを重ねた日々のこと。 そして、とんでもなく恥ずかしい告白のこと。 「…一つの奇跡だよな…」 「…ふぇ?」 何気なく呟いた言葉だったが、鈴仙を起こしてしまった。 「ああ、ごめん、起こしちゃったか」 「ん、いいよ。 …それで、奇跡って何?」 「聞こえてたか…」 「うん」 「…鈴仙と、二人で旅行するような仲になるまでを思い出してたんだよ」 「色々あったわよね…。 もっとも、あの恥ずかしすぎる告白でほとんど霞んでるけどね」 「あれは、その、なんだ…うん…」 「○○、真っ赤だよ?」 ニヤニヤしながら、鈴仙が俺の顔を覗き込んでくる。 「うるさいなぁ、そんなうるさい口は」 ちゅ 先に塞がれた。 「塞いじゃうよ?」 「塞がれちゃいましたよ」 「ふふ…。 ねぇ○○、初めて私と会った時のこと、覚えてる?」 「ああ、俺が幻想郷に迷い込んだのが竹林だったからな。 あの時、鈴仙を見て、声一つ掛けられずに固まってたんだよな」 「…違うよ、○○」 「え?」 「あの時、○○は一言、喋ってたよ」 「え…何て?」 「ふふっ、教えな~い!」 「ぐあー、めっちゃ気になる! 頼むから教えて!」 「教える必要はないもの。 ○○は、ちゃんと覚えてたから」 「え…」 「ねぇ、私は○○にとって、どんな存在かな?」 「どんなって…あ…」 ああ、あの時、俺は『思った』んじゃ無かったんだ。 呟いていたんだ。 「そうだな、女神様、かな。俺だけの」 「ほら、覚えてた」 そう言うと、鈴仙は再び唇を重ねてくる。 俺もそれに応える。 …願わくば、この女神と末永く添い遂げられますように。 ~次は函館~ ─────── ~終点、函館です~ 「ん~、やっと着いたな」 「流石にちょっと疲れたわね」 「座りっぱなしだったしなぁ…」 やっと到着、北海道。 さすがに気温もかなり低い。 俺はバッグから上着を取り出す。 「鈴仙、上着は?」 「う…こんなに寒いと思わなかったから…」 「説明不足だったか…とりあえず俺のを着ててくれ」 「ごめんね、○○」 「いいから、そこらへんのデパートで上着探そう」 「うん」 俺の上着は、鈴仙にはちと大きい。 肩幅は違いすぎるし、袖は長くて指先がちょっとだけ出る感じだ。 …これはこれで可愛かったりする。 とりあえず、駅の目の前のデパートで上着探し。 が、ちょっとここで別行動だ。 「鈴仙、ちょっと先に行っててくれるか?」 「どうかしたの?」 「車内で買った土産、全部スキマ送りにしてくるわ」 「そうだね、ちょっと買いすぎたものね。 それじゃあ、売り場に居るから早く来てね」 「おう」 「ナンパされる前にね」 「ちょっと光速超えてくる」 急いで宅配便に荷物を預け、売り場へと走った。 が、どうにも鈴仙が見当たらない。 「ありゃ…どこだ?」 「○○、こっちこっち」 「おー、って、そっち紳士物だぞ」 何で紳士物の方に居るのかと… そして、何故に紳士物を持ってるんですかこの子は。 「はい、○○の」 「俺のって…何故?」 「○○の上着、気に入ったから頂戴?」 「んー、それは構わないけど、でかすぎるだろ?」 「いいの、○○の匂いがするから…大好き」 「…鈴仙、あんまり可愛いこと言うな、照れる」 「いいじゃない、すぐ赤くなる○○も可愛いわよ」 「ぐ…からかいすぎだぜ…」 「さっ!上着も買ったし、ホテル行こ!」 腕を絡ませてくる鈴仙を連れて、外のタクシー乗り場へと向かう。 …今日は暑いな。 「湯の川の、このホテルまで」 「あいよ、いいねぇ、綺麗な彼女連れて温泉かい」 「ああ、羨ましいだろう?」 「いやまったく、これだけの美人はめったに見ないよ。 兄ちゃんは並なのになぁ」 「一言多いぜ、運ちゃん…気にしてんだから」 「ははは、こりゃ失礼」 田舎特有なやり取りも終わり、紫さんが予約してくれたホテルのメモを見た運転手は迷い無く走り出す。 「ねぇ○○」 「ん?」 「私は○○の優しい顔、大好きだよ」 「だから、あんまり照れることを言うなと…」 「それじゃ、旅行中はずっと真っ赤な顔かもね?」 「……」 無理矢理鈴仙を抱き寄せる。 これで俺の顔は見えないだろう。 「これなら顔を見られないから大丈夫だな」 「そう?心臓がすっごいドキドキしてるけど?」 「う…」 むしろこっぱずかしかったりしたわけで。 「…(致さないだけマシだが、この空気は勘弁してほしいわ、ほんと…)」 そしてその空気は、運転手が苦笑いするぐらいには甘かったようだ。 「はい着いたよ」 「お、ここか。 はい、釣りはとっといて」 「毎度、良い旅を」 ホテルに到着した俺と鈴仙は、とりあえずチェックインを済ませるためにフロントに向かった。 「予約していた○○ですけど」 「はい、お待ちしておりました。 こちらにサインをお願いします」 「はい…っと、これでいいかな」 「それでは、そちらのボーイがご案内いたします」 「あの…」 「はい、何でしょうか?」 「鍵が一つみたいですけど…」 「ご予約はダブル一部屋と承っておりますが…」 「ああ、そう…」 やられた、スキマじゃ!スキマの仕業じゃ! …いや、予感はしてたんだが…ツインじゃなくてダブルですか。 つまり寝るときは鈴仙と同じベッドでございますですことよ? KENZENな男に我慢ができるとか思ってやがるんですか紫さん! いいや思ってないからダブルにしただろ絶対! 「ねぇ○○、ホテルの用語って知らないんだけど、ダブルって?」 「あー、部屋のベッドのタイプだよ。 ダブルは二人用が一つ」 「…そう…そっか…うん…」 「あー…その、別に部屋取ろうか?」 「ううん、いいよ」 「……そっか」 それ以上、言葉が続かないまま、部屋の前に到着した。 「こちらの御部屋になります」 「どうも」 「では、失礼致します」 素っ気無い挨拶だが、素早く戻っていくところを見ると、空気を読んでくれたのだろう。 部屋の中に入ると、本当にダブルベッドが一つだった。 手前がベッドのある洋室で、奥には和室がある。 なかなか良い部屋だ…普通、ツインあたりにして、ダブルにはしないような間取りだが。 「さてと、とりあえず温泉かな」 「……うん」 「クローゼットに浴衣があるから、着替えて行こう」 「うん…あ…」 「ん?……あっ、俺、バスルームで着替えてくるわ!」 「あっ、ご、ごめんね、○○…」 慌ててバスルームに入り、浴衣に着替える。 …着替える時どうするかすら、まともに考えられないぐらい緊張してるとは、情けない。 温泉で落ち着こう… 「○○、もういいよ」 鈴仙の声が聞こえたので、バスルームの外に出た。 そういえば、鈴仙が和装してるのって初めて見たような… 「……」 「…○○?」 「あ、いや、綺麗だと思って、ちょっと見とれてた」 「ふふ、ありがと」 「さぁて、温泉に入ろう。 電車のせいで、体がガチガチだ…」 「うん!」 部屋を出て、大浴場に向かう。 途中、男どもの視線が非常に痛かった。 大浴場の前に着き、俺と鈴仙はロビーで待ち合わせることにして、各々男湯と女湯に入った。 体を洗い、露天風呂で手足を思いっきり伸ばす。 固まっていた体がほぐれていき、気持ちも大分落ち着いてきた。 「…そういや、家族には何て言えばいいんだろう…」 一応、幻想郷に留まることになった際、手紙程度の物ならば外に出せるということで頼んではいたが… その手紙には当然、連絡先なし、何をしているのかも書かれていない物だった。 更には俺が筆不精であることを、当然家族は知っている。 下手をすれば、誘拐か何かと間違われて捜索願が出ているかも知れない。 「まあ、何とかなるか…」 陸の孤島で医療関係の手伝いをしているとでも言えばいいか… …実際、嘘じゃないんだよな、これ。 鈴仙は、普通に彼女だって言えばいいな。 『人間の』彼女じゃないけどな。 月の兎だとか言ったら、病院に連れて行かれそうだし。 月を見上げ、大きくため息をついて俺は湯船から上がった。 「さすがにまだ居ないか…」 ロビーにはまだ、鈴仙の姿は無い。 まあ、女の風呂は長いものだ。 鈴仙は髪も長いしな。 自動販売機で飲み物を買い、ゆったりとしたソファでくつろぐ。 しかし…さすがに…疲れた…ねむ… ……………………………………… ぺとっ 「ひゅいっ!?」 「ぷっ、何よその声、変なの!」 「れ、鈴仙…首筋にジュースは止めてくれよ…」 「だって、呼んでも起きないんだもの…」 「ん…そんな深く眠ってたのか…」 「疲れてるなら、もう寝ようか?」 「いや、一眠りしたせいか、頭はすっきりしてるよ。 それより、腹が減った…」 「じゃあ、部屋にご飯運んでもらって来るね。 ○○は先に戻ってて」 「ああ、ありがとう、鈴仙」 言われるがままに、部屋に戻り、鈴仙を待つ。 和室の方から外を見ると、一面の海と、ぽっかりと浮かぶ月。 「…鈴仙の故郷…か…」 とても俺が行ける場所では無い。 いや、鈴仙も帰ることは… トントントン ドアをノックする音が聞こえる。 鈴仙が戻ってきたんだろう。 和室からドアへ向かい、鍵を開ける。 「おかえり、鈴仙」 「ただいま、○○。 三十分ぐらいしたら運んでくるって」 「そっか、それまではのんびりしとくか」 「うん」 再び和室に戻り、足を伸ばす。 鈴仙は座椅子にもたれかかり、月を見上げている。 「明日は○○の家に行くのよね?」 「ああ、そのつもり。 驚くだろうな、こんな可愛い子連れて急に帰ってくるんだから」 「どこからさらってきた!とか言われたりしてね~」 「…ほんとに言われそうだ…」 「その時は『羽衣を無くしてしまって』とか言おっか?」 「どこのサタデーナイトフィーバーな人だよ!」 「あの人も天女とは違うわよ?」 「あれ、そうだっけ?」 「って、けーねが言ってた」 「ぉぃ」 「ふふっ」 トントントン いつものようなくだらない会話をしていると、ドアをノックする音がした。 「おっ、お楽しみが来たな」 ドアを開けると、二人のボーイが食事を中に運んでくれた。 …なんだそのでかいホットプレートは。 「こちらは鮭のチャンチャン焼きです。 このまま十分ほどしましたら出来上がりになります。 鮭の身を軽くほぐして、野菜と混ぜて御召し上がりください」 …二人で半身かよ。 とりあえず、ボーイは帰っていった。 「でっかいね、これ…」 「軽く四人前はあるはずだぞ、これ…」 「ああでも、いい匂い…」 「さて、焼けるまで、他の物でも…」 「海産物がいっぱい…幻想郷じゃ絶対食べられないわね」 「ああ、たっぷり食って帰ろうぜ。 次はいつ来れるかわかりゃしないしな」 「うん!」 久々に堪能した海産物はどれも美味しかった。 鈴仙も同じ様子で、一口ごとに顔をほころばせていた。 「○○、美味しい物食べて育ってたんだね~」 「さすがに毎日こんなに豪華なのは食ってないけど、まあ、食い物は美味かったな。 鈴仙のとこはどうだった?」 「…こっちに来て、覚えた言葉で表現すると 『兵隊の料理は、インディアンよりも多くの兵を殺す』ってとこね…」 「……苦労してたんだな」 「まあね…」 料理を堪能し、満腹になった俺たちは、のんびりとお茶を飲んでいた。 食器類も片付けられ、後はもう寝るだけだ。 「っは~!満腹!」 「美味しいから、ちょっと食べ過ぎちゃったね~」 「あ、鈴仙、おなかのとこ膨らんでる」 「嘘!?」 「嘘」 「ぶ~!」 皆へのおみやげは何にするだとか、どこを見に行こうだとか、そんな話がしばらく続いた。 時折月を見上げる鈴仙。 その顔に憂いの影は見えない。 むしろ少し微笑んでいるようにも見える。 さっきうっかり月での話を振ってしまったので、少し不安だったのだが大丈夫なようだ。 「さてと、そろそろ寝よっか、○○」 「ん、ああ、もう11時過ぎてたのか。 それじゃ、寝るか」 和室から洋室へ移動して、さて寝ようかと思ったが。 「「あ」」 俺も鈴仙も固まってしまった。 そうだった、ダブルだった、この部屋…。 「…鈴仙、一緒でいいか?」 「……うん」 二人でベッドに入る。 あれ…枕が、一人用が一つしかないぞ… 「ま、枕ちっちゃいね…」 「そ、そうだな…」 二人とも頭を乗せようとすると、自然に横向きになる。 御互いの方を向いて。 「鈴仙…」 「○○…」 どちらからともなく唇を重ねた。 いつもの軽いキスではない、互いを求めるようなキス。 気が付けば、俺は鈴仙を抱きしめていた。 細くて小さくて、強く抱きしめれば折れてしまいそうなその体を。 「鈴仙、いいか…?」 「うん…」 返事を確かめると、再び唇を求め合う。 俺は鈴仙の浴衣をゆっくりと脱がし は~い~そっこっまっでっよ~♪(某DQの宿屋の音で) 朝だ。 外はすっかり明るくなっている。 既に鈴仙は起きているようで、シャワーの音が聞こえてくる。 まずい…鈴仙の顔がまともに見れそうに無い。 …シャワーが止まった。 今は体を拭いているところだろう。 しばらくして、カチャリとバスルームのドアが開く。 先に声を掛けよう。 あんまりうろたえていたんじゃ、情けない。 …俺を受け入れてくれた鈴仙にだって、悪いしな。 「おはよう、鈴仙」 「おはよう、あ・な・た♪」 「ぶっ!?」 「あははははは! すごいすごい!あっという間に真っ赤になった!」 「……」 「あははは…○○?」 「……」 「あ…怒った?」 「……」 「な、何か言ってよ、○○…」 俺は一気に間合いを詰め、唇を塞ぐ。 「んっ!?」 「ぷはっ…うるさい口は塞ぐに限る」 「ふふ、今日は塞がれちゃったね」 「さ、今日は俺の実家に行くんだ。 とっととメシ食って出発するぞ」 「うんっ!」 「ま、ちょっと予定は変わったけどな…」 「何かあったっけ?」 「彼女じゃなくて、嫁を紹介することになったなって」 「…本当にいいの?私で…」 「『あなた』とか呼んでおいて、今更それは無しだぜ? 俺は鈴仙以外を嫁にする気は無いんだからな」 「…私だって、○○じゃなきゃ嫌だからね!」 そう言って微笑む鈴仙を、朝日が照らす。 長い髪がきらきらと輝くその姿は、とても綺麗だった。 ──────── ~実家前~ 「さてと、ここが俺の家だ。 まあ、何の変哲も無い普通の家だな」 「ご家族は何人?」 「ああ、俺以外は両親に兄貴だ。 多分まだ結婚はしてないだろう」 「お兄さんがいたんだ?」 「そういや、家族の話ってしたこと無かったか。 まあ、親はまともだから大丈夫だ」 「…お兄さんは?」 「たまにハイテンションモードに突入して帰ってこなくなる」 「そ、それは何とも…」 「さてと、いつまでも家の前に居ても仕方ない、入ろうぜ」 「うん」 引き戸をガラガラを開け、中に入る。 奥で人が動く気配があった。 「は~い、どちらさま~?」 「俺~」 ドタドタドタドタドタドタ! ものすごい勢いで走ってくる両親。 鈴仙の耳が、ぴーんと立ってしまっている。 そりゃびびるよな… 「○○!あんた、あんな手紙一つで行方くらまして!今までどこ…」 「○○!はお前をこんな親不孝者に…」 怒声がぴたりと止まった。 その視線は、隣にいる鈴仙に注がれている。 「ああ、紹介するよ。 『嫁』の鈴仙だ。まだ籍は入れてないけどな」 「はじめまして、鈴仙と言います」 「あんた…」 「お前…」 「驚いたかい?」 「「どこからさらってきた!この犯罪者めが!」」 「怒鳴るなハモるな息子を信じろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」 「…ぷっ…あははははははははははは」 「鈴仙も笑ってないで何か言ってくれよ…」 「すいません、実は大事な羽衣を○○に隠されてしまって仕方なく…」 「ほんとにそのネタ使うなよ!」 「あーらあら、息ぴったりねぇ」 「うーむ、こんな美人の嫁を見つけてくるとはなぁ…私がもっと若ければ…」 「親父、手出したら髪の毛全部毟るからな」 「出すか、馬鹿者。 まあ、立ち話も何だ、早く上がりなさい」 「それじゃあ、お邪魔します」 「遠慮はいらないぞ、ここも自分の家なんだからな?」 「そうそう、何でも言ってね! うちのダメ息子と一緒になってくれるなんて、ほんと神様みたいな子ねぇ」 「いやまったく、こんなダメ息子のどこがいいんだか…ありえないくらいの美人だというのに…」 「おまえらが育てた結果がこれだよ!」 馬鹿みたいな親子の会話を、にこにこと見ている鈴仙。 …まあ、いいのかな? 家の中に入り、居間で一息つく。 荷物も特に無いので、母さんは茶を淹れに行った。 鈴仙が手伝おうとしたのを、俺と親父と母さんの三人で止めた。 その時、三人で『いいからいいから』と思いっきりハモったのに、鈴仙が吹き出したりした。 「あはは、ほんとに家族、って感じね」 「こればっかりは、どうにもならないなぁ…」 「はっはっは、まあ親子の証明みたいなもんだ。 鈴仙ちゃんの家はどんなだい?」 「あ、えっと…」 「親父」 「ん…おおそうだ、昨日作ったチョコケーキがあったな、持ってこよう」 「えっ、お父さんが作ったんですか?」 「何故か菓子作りが上手いんだ、この親父は…」 「母さんが美味い料理を毎日作ってくれるのに、何も出来ないのも情けないと思ってなぁ。 作り始めたらハマってしまったんだよ、これが」 親父は笑いながら、台所にケーキを取りに行った。 「すごいね、お菓子って難しいのに…」 「確かにな…市販の菓子とかも普通に食ってたけど、結局親父の菓子に落ち着いたもんな」 「ねぇ○○」 「ん?」 「○○は、私に何か作ってくれる?」 「んー…作れる物は一つあるけど、今は内緒」 「どうしても内緒?」 「びっくりさせたいから、内緒」 「それじゃ、びっくりさせてくれるの、待ってるからね」 「おう」 奥から母さんと親父が出てきた。 お茶とケーキを楽しみながら、これまでのことを話していた。 無論、幻想郷を僻地に置き換えて、だが。 ガラガラと戸の開く音が聞こえた。 恐らくは兄貴だろう。 「ただいま…って、○○、帰ってたのか! …ちょっとまて。 何だその子は…」 「!」 兄貴が何故か訝しげな顔で鈴仙を見た。 鈴仙が一瞬、びくりと体をふるわせた。 次の瞬間、鈴仙は耳の無い、黒髪黒目の姿になっていた。 「ああ、俺の嫁の鈴仙。美人だろ?」 「あ、ああ、そうだな…」 「鈴仙、これが兄貴。 って言っても、双子なんだけどな」 「は、はじめまして、お兄さん」 「ど、どうも…」 やはり何かおかしい。 待て、鈴仙が俺にも黒髪黒目に見えるということは… 「あ、○○、ちょっといい?」 「ん、おう」 鈴仙に連れられて、居間の外に出る。 この様子だと恐らくは… 「○○、お兄さんなんだけど…」 「波長が俺と同じ、だな?」 「う、うん。咄嗟に波長変えたけど、どうしよう…」 「このまま通す。 それしかないだろ」 「うん…わかった」 「とりあえず、トイレ行って来い」 「へ?何で?」 「他の家族には聞きづらいことだし、俺を連れ出した理由になるだろう?」 「了解」 「ところで鈴仙」 「何?」 「その姿もいいな」 「…誉めても何も出ないからね」 「傍に居てくれれば、それでいいよ」 「もう…こんな時まで…」 そうは言いつつも、鈴仙は少し笑っていた。 鈴仙がトイレに入るのを見届け、俺は居間に戻る。 「おかえり、どうかしたの?」 「さすがに聞きづらいだろ、トイレの場所は」 「ああ、うむ、確かに」 「…○○、あの子はどこの出身だ?」 「そういや出身は知らないな。 都会の方だとは言ってたけど」 「変わった髪の色だったからさ」 「…兄貴」 「何だ?」 「日本人はほとんど黒髪だぞ?」 「耳は横に生えてるもんだぜ」 「兄貴、そりゃそうだろ…。 何か変なゲームにでもハマってるのか?」 「…いや、いい」 親父と母さんは、不思議そうな顔で兄弟の会話を聞いている。 無理も無い、二人には最初から黒髪黒目の鈴仙しか見えていないんだから。 鈴仙が戻ってきた。 午前中に軽く観光してきたので、そろそろ夕方になる。 今日は家で食事をすることになった。 というか、そのつもりで午前中は観光していたんだが。 「それじゃあ、私とお父さんは買い物に行ってくるからね」 「今日は私も腕を揮わせてもらうかな、はっはっはっは」 親父と母さんは買い物に出かけた。 つまり、ここに居るのは、俺と鈴仙、そして、兄貴。 「…邪魔なのが居なくなったから率直に聞くぞ。 鈴仙さん、あんた人間じゃないね?」 「……」 「兄貴、まじで頭大丈b」 「誤魔化すとき、最初に『兄貴』って呼ぶ癖はそのままだな」 「……双子だもんな、ごまかしは無理か。 紫さんに何て言われるか…」 「…鈴仙さん、やっぱり、人間じゃないんだね?」 鈴仙は、波長を戻したようだ。 紫がかった銀髪が、目に眩しい。 「……はい、私は玉兎、月に住む兎です」 「そうか…で、何故弟を誑かす?戯れに家族離散でも演出するつもりか?それとも心臓でも喰らうか?」 「いい加減にしろ兄貴! 俺と鈴仙は…!」 身を乗り出して、兄貴の胸倉を掴む。 俺のどこにそんな力があったのか、兄貴の体が一瞬浮き上がる。 「○○、待って。 私から、全部話すから…」 鈴仙の言葉に、仕方なく手を話す。 兄貴は少し咽ていたが、すぐに呼吸を正す。 「殊勝だね…化け物なのに」 「兄貴…!」 「○○、抑えて…お願い。 …ええ、確かに地上の人間からすれば、私は化け物です。 でも、私は同時に人間から逃げ出した逃亡兵です。 月と人間が争ったときに、恐れをなして逃げ出した…情けない逃亡兵です」 「……」 「…鈴仙」 「私は地上で信頼できるある方と出会い、その方に匿われました。 その人の下で薬の勉強をしながら、生活していました。 …○○と出会ったのは、それから数十年経った、これといって何も無い日でした。 竹林に迷い込んだ人間…○○が居たので、気まぐれに竹林の外まで誘導しました。 …その時、○○が言った言葉が耳から離れないまま、ある日○○と再会した時、そこからです。 私の心から、○○が消えなくなったのは」 「鈴仙……」 俺も初めて聞く、当時の鈴仙の心境。 兄貴は、目を閉じて何も言わない。 「当時○○が住んでいた家が燃えて、○○が困っていた時です。 永遠亭の出張所としての薬局が完成したのは。 御互いの利害の一致ということで、○○は薬局に住み込みで勤めることになりました。 私は、永遠亭から薬の補充に、その出張所に通うことになりました。 そこに行けば○○に会える。 いつからか、それが目的になっていました」 鈴仙の独白が続く。 その表情は、寂しげで、嬉しげで、何とも不思議な表情だった。 「私の薬の勉強の目的が、いつのまにか師を超えることから、別の目的に変わっていました。 ○○が私と同じ時間を過ごせるように…そう、変わっていました。 当時まだ、○○の気持ちを確認できていない時でしたから、ただの一人よがりでした。 人間と玉兎の寿命の差、それを埋める事のできる薬…それが今の目標になっています。 私は、自分勝手な兎です。 ○○の意思なんて分からないのに、そんな勉強を続けています。 …○○が好きだから、添い遂げたいから…」 鈴仙の目から涙が溢れる。 気が付けば、俺は鈴仙を抱きしめていた。 強すぎるくらいに。 「…兄貴、文句があるなら、殴る」 「……馬鹿野郎が…」 「……」 「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! こんな可愛い子とデキてるとかふざけんな○○ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! しかも人外!?兎さん!?さらには一途な乙女で美人だぁ!? ふざけんじゃねぇぞゴラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」 「ふぇ!?何?何!?」 「いやちょっと待て兄貴!とりあえず落ち着け!」 「落ち着けと申したか?落ち着けと申したか!? この異常事態に落ち着けるかボケナスがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 双子だぞ!?ほとんど同じなんだぞ!?何でお前だけこんなパーフェクトな女性と!? おかしいだろ?おかしいだろ!俺には彼女だって居ないんだぞ!? なのに、なんで、お前、○○だけ、銀髪で、うさみみで、美人で、スリムビューティな彼女が居る!? さぁ答えろ!さぁ応えろ!答えは?何だ?ファイナルアンサー!?」 「……そんなテンションじゃ、女の子は皆逃げますよ…」 「げふうっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 鈴仙のファイナルアンサー。 こうかはばつぐんだ。 俺と兄貴の違いは、確かにこのハイテンション程度なものだ。 そして、それが正に境界となっていることを、鈴仙がさくっと言ってしまった。 俺も黙ってたのにね…。 「…兄貴、大丈夫か?」 「あっはっはっは…ある意味大丈夫だ」 「ご、ごめんなさい、まさか、そこまでショックだったなんて…」 「いや、むしろありがたいよ。 今まで誰一人言ってくれなかったしね。 ここに気をつければ、彼女ぐらいできそうだ…」 「どう足掻いても鈴仙以下だとは思うけどな」 「やかましい! …くそう、お前じゃなくて俺がそっちに行っていれば…」 「そのテンションは向こうでもドン引きだわ」 「まじで?」 「まじで。」 「……あっはははははははははははは!」 「…鈴仙?」 「ご、ごめん…くっ…ふふふふふふふふふ」 鈴仙はすっかり笑い転げてしまい、とても会話できそうに無い。 …そんなに面白かったか…? 「兄貴、俺は鈴仙を」 「言うまでもねぇよ。 立場が逆なら、って考えたらな」 「誰にも言うなよ?」 「俺が病院送りになるだろうが」 「まあな」 「…こっちには帰らないんだろ?」 「ああ、悪いけど、親父と母さんは頼むわ」 「分かった」 「一時帰省も、いつ出来るか分かんないんだ」 「今回は特別ってことか」 「すまない」 「その子、大事にしろよ」 「言われなくても」 「鈴仙さん」 「はっ…はい…」 まだちょっと笑いすぎて苦しそうな鈴仙に、兄貴が声を掛ける。 「弟を、よろしくお願いします。 それと、できれば甥か姪の顔を見たいので…」 「ちょ、兄貴!?」 「はい!頑張ります!」 「鈴仙!?」 「え!?…甥とか姪……あっ!?」 「あっはっはっはっはっは! それじゃあ、楽しみにしてるぜ! それとも、既にお楽しみでしたか?」 「あい、いや、えと、その…」 「ああ、お楽しみだぜ?」 「……それは羨ましいわ、まじで」 「ま、○○っ!」 鈴仙のぽかぽかぱんちが連続ヒットする。 その様子を、兄貴が羨ましそうな顔で見ていた。 結局、最初のフリは、あまりにも妬ましいのでついやってしまったのだそうだ。 よくよく考えてみれば、双子だけあって女性の好みは二人ともほぼ一緒だったのだ。 羨ましくないはずは無いわけで。 ちなみに人外大歓迎らしいが、紹介する気は全くないと言ったら本気で凹んでいた。 しばらくして、親父と母さんが帰ってきた。 台所に向かい、料理を始めようとする二人を鈴仙が手伝おうとしたので止めた。 今度は四人で『いいからいいから』と見事にハモり、再び鈴仙が吹き出したのであった。 「はー美味かった。 久々に母さんの唐揚げも食えたし、満足!」 「うん、ほんと美味しかった! 私ももっと勉強しないと駄目ね…」 「そうか? 鈴仙の料理はかなり美味いぞ?」 「そういえば、差し入れのお弁当残したことないよね?」 「正直、ちょっと量は多いけど、それでも食えるぐらい美味しいってことさ」 「ふふ、そう言ってくれると嬉しい」 「毎週のお楽しみだからな、鈴仙の弁当は」 「ありがと、でも、やっぱり何か覚えたいな…。 お母さん、私に唐揚げの作り方、教えていただけませんか?」 「お母さんか…いい響きねぇ…ええ!それじゃ、明日教えてあげるわ! あと何日かはこっちに居るんでしょ?」 「はい、お願いします!」 「いいねぇ、若い娘さんは…」 「…ほんとにいい嫁貰いやがって、ど畜生めが…ううっ…」 お母さんと呼ばれてご満悦の母さん、満足げな顔をしている親父、俯いてしまって顔の見えない兄貴。 反応はそれぞれだが、鈴仙のことを快く迎えてくれている家族。 感謝をしつつも、次にいつ戻れるとも知れぬ自分の親不孝ぶりに少し罪悪感を持った。 「さてと、そろそろホテルに戻るか」 「帰るの面倒じゃない?泊まっていってもいいのよ?」 「おまえ、若い二人には二人だけの時間が必要なんだよ」 「いやここは俺が○○の変わりに鈴仙さんと「殴るよ?」ゴメンナサイ」 「あはは…すいません」 「明日は朝から来るよ。 鈴仙が唐揚げ作ってる間に、頼まれた土産だけ買って送ってくるわ」 「あー、何かすごい量頼まれてるんだっけ?」 「ああ…ものすごい量、な」 「安心しろ○○、明日は俺が鈴仙ちゃんに「手出したら墓場な」スマンカッタ」 「実力行使は私がしますね♪」 「鈴仙ちゃん!?」 「はっはっは、いや、なかなかに頼もしい」 そんな会話をしていると、タクシーが到着したようだ。 俺と鈴仙はタクシーに乗り、ホテルへと戻った。 「ふう、何か無駄に疲れたなぁ…兄貴のせいだな、うん」 「あはは…でも良かった、いい人達で」 「そう言ってくれるとありがたいよ。 …最初は本気で殴りかかりそうになったけどな」 「…ありがとう、○○」 「ん?」 「あの時、本気で怒ってくれたとき、ちょっと嬉しかったの。 …もしかしたら、○○にもそんな目で…って、少し考えちゃって」 「それは未来永劫無いから安心してくれよ。 でもさ…鈴仙があそこまで想っててくれるってのが分かったのは、ある意味兄貴のおかげかな」 「あ…」 「薬、できれば早いとこ作ってくれよ? 俺だって、鈴仙を残してこまっちゃんの世話にはなりたくないからな」 「うん、頑張るけど…出来たとして、本当に飲んでくれる?」 「当たり前だ。 鈴仙がずっと一緒にいてくれるなら、って条件は付くけどな」 「…○○」 鈴仙が俺の背中に手を回してくる。 俺も鈴仙の背中を優しく抱く。 「鈴仙は暖かいな…」 「○○もあったかいよ…」 そうして、御互いのぬくもりを確かめ合う。 異なる種族、違いすぎる寿命。 でも、このぬくもりは、変わらない。 しばらくして、どちらからともなく体を離す。 …少しぶっちゃけると 「さすがに暑いね、冬服で抱き合うと…」 「だな…ちと汗かいた」 「私、温泉入ってくるね」 「ああ、俺も鈴仙の上がりに合わせて入ってくるわ」 「それじゃ、ロビーでね」 そう言うと、軽くキスをして鈴仙は温泉に向かった。 「さてと、俺も浴衣に着替えるか…」 プルルルルル プルルルルル 「電話…何となく予想はつくというか、どのみち話さないとならんしな」 ガチャ 「はぁい、ゆうべはおたのしみでしたわね」 「ええ、紫さんが『特注』してくれたダブルベッドのおかげですね」 「あら、やっぱり気付いてた?」 「家具の配置が少し不自然に感じたんで。 で、どうしましょう…」 「今回は不慮の事故だし、お兄さんの記憶を少しだけいじるわ」 「すいませんが、お願いします」 「お代は松前漬けでいいわよ」 「了解です。 あ、スキマ運送で無理なことって何かあります?」 「何も心配しなくても良いわよ。 量もいくらでも、保存温度も完璧にしておいてあげるから、一杯送って頂戴」 「分かりました。 じゃあ人参百キロと昆布七百枚と鮭とば五十匹分とかも大丈夫ですね?」 「…永遠亭直送で良いかしら?」 「姫様の部屋直送で」 「ふふ、任せて頂戴。 それじゃあ、いい夜を」 「はい、おやすみなさい」 ガチャ …覗きはアレだが、こういう時は話が早くて助かる。 さてと、とりあえず問題は片付いたな。 懸案事項も片付き、気が抜けた俺はどさりとベッドに体を放り投げる。 それにしても疲れたな…。 明日も大変だからな、主に買い物の量が。 人参百キロ、昆布七百枚、鮭とば五十匹分、スルメ百匹分、いか徳利にいかジョッキに… ……あと……何だっけ… 「やっぱり寝ちゃってたんだ、○○…」 ベッドで眠ってしまった○○の頭を、鈴仙が優しく撫でる。 「いつもは撫でてもらってばかりだし、たまには…ね」 しばらくして鈴仙も寝ようとしたが、ここで少し困ったことが。 ○○が、掛け布団の上で寝ている。 どうしようかと考えた結果、掛け布団がかなり幅広なのを利用して、逆向きに包まることにした。 「ふふ、私達、みのむしみたいよ、○○」 鈴仙が○○の頬にキスをして 「おやすみ、○○」 長い一日は終わった。 ───────── カーテンの隙間から差し込む日の光で目が醒めた。 時計は七時を少し回ったあたりだ。 鈴仙は大丈夫だろうかとベッドを見ると、既に居ない。 …変なとこで寝てないだろうな。 着替えを済ませ、顔を洗い、居間に行く。 居間には親父一人、台所には母さんが居るようだ。 「おはよう~」 「おお、○○、早いな」 「朝日が目に当たってさ…。 そういや、鈴仙は?」 「台所で母さんと一緒に料理中だ。 あれだけ飲んだのに、ケロッっとしてるとは大したもんだなぁ」 「そっか」 鈴仙はどうやら元気らしい。 玉兎は二日酔いしないんだろうか。 「兄貴は?」 「…お前と鈴仙さんが居るうちは、出てこないんじゃないか?」 「あー…」 兄貴、正直すまんかった。 ぼーっとTVを見ていると、奥から鈴仙がお盆を持って出てきた。 今朝は、昨日残った唐揚げを卵で閉じたのとサラダのようだ。 「おはよう、○○。 昨日はごめんね…」 「ん、たまにはいいんじゃないか? 二日酔いもしてないみたいだし」 「でも…思い出すと…ちょっと…」 「あー、記憶、あるんだ…」 それは恥ずかしいだろう。 家族の前でアレだもんな…。 食卓が整い、四人で朝食。 兄貴は母さんが起こしに行ったのだが、本気で眠くてまだ起きてこないそうだ。 「鈴仙、今日はどこに行こうか?」 「うーん…○○とならどこでもいいんだけどなぁ…。」 「それじゃ、赤レンガ倉庫の方に行こうか? あっちじゃ見ない景色だし、店も多いし」 「うん!」 「五稜郭もオススメだぞ」 「おう、兄貴起きたか。 いきなり五稜郭を勧めるあたり、目はしっかり醒めてるみたいだな」 「五稜郭って?」 「カップルは行っちゃいけない所さ」 「ち、知ってたか」 「当たり前だ」 「???」 五稜郭はカップルで行くと別れるという話がある。 とはいっても呪いやら祟りじゃなく、五稜郭は正直タワーから景色を見るぐらいしか無い場所だ。 そんなとこに連れて行ったら、そりゃ、なぁ。 桜の季節なら、また話は違うけど。 「兄貴、一つだけ言っておく」 「何だ?」 「馬に蹴られて死ね」 「正直すまんかった」 「……何が何だかわかんない……」 知らなくていいよ、鈴仙。 食事も終わり、出かける準備を済ませる。 「今日はホテルに泊まるわ。 温泉にも入りたいし」 「あらそう?分かったわ」 「ま、若いんだしな」 「羨ましい…」 「お前ら少しは文面どおり受け止めろ!」 「……(なんかもう慣れちゃった)」 いつものやり取りを終え、やって来たのは赤レンガ倉庫。 古いレンガ作りの倉庫の中に、色々な店が並んでいる。 ちなみに、全部が全部そうなったわけではなく、今でも普通の倉庫として使われている物もある。 「へぇ、何か日本ぽくないのね…紅魔館なんかとも違う感じ」 「貿易港だった所は、大体こんな感じの場所があるね。 横浜とか」 「ふーん…あれ、これ倉庫じゃなくてお店なの?」 「中を改装していろんな店が入ってるんだ。 適当に覗いてみようか」 「うん!」 端から順に店を覗いていこうかと思ったら… …鈴仙さん、あなたはいきなりソフトクリーム食べたいとかこの寒空に何を…って、中は暖かいからいいか。 「ん、おいし♪」 「まさかいきなりソフトクリームとはな…」 「いいじゃない、幻想郷じゃ見かけないんだもん。 ほら、美味しいよ?」 鈴仙は、食べていたソフトクリームを差し出してくる。 …折角なので、ちょっと舐めるか。 「ん、美味しいな。 そういや、いつ以来だろうな、ソフトクリームなんて」 「○○って、甘い物は自分で作ってるよね?」 「まあ、幻想郷で売ってる菓子の大半が親父の手作り以下だからな。 それより美味しいといったら、紅魔館ぐらいでしか食えない気がする」 「あー、分かる分かる! あのチョコケーキ、すっごく美味しかったもん!」 「だろ?だから、俺も自分で作っちゃうんだよ。 いくらか親父に習ってたからね」 「そっか、どうりで手作りでも買って来たものでもハズレが無いわけね。 毎週の楽しみだし、○○のところで食べるお菓子♪」 「それは何より」 ソフトクリームを食べ終えて、倉庫の中を歩き始める。 土産物屋でまりもっこりを見せたら軽く小突かれた。 姫様に送った荷物にも混じってるが、やばいだろうか…。 …何故だか普通のおもちゃ屋とかもある。 多分、子供がねだるのを狙ってるんだろうな。 しばらく見て回っていると、天然石のアクセサリを売っている店があった。 そういえば、きちんとしたプレゼントって、今まで何もあげてなかったな…。 「わぁ、綺麗…」 「…(鈴仙には何が似合うかな…ベタにムーンストーンにするかな…)」 「あ、これ可愛いなぁ…」 「…(ペンダントかな…チョーカーの方が…いや、バレッタか…)」 「ねぇ○○、どれが似合うと思う?」 「…(ああでも、鈴仙の髪なら少し暗い色の石がいいか?)」 「……○○?」 「…はじめてのプレゼントだしな…」 「……♪」 とんとん 鈴仙に肩を叩かれて我に返る。 「ん?ああ、いいのあった?」 「○○が選んでくれるなら、何でもいいよ?」 「でも、俺のセンスでいいのか? やっぱり鈴仙が選んだ方が…」 「ううん、○○に選んでもらわないと…」 「それじゃあ…」 俺が選んだのは、ムーンストーンのネックレスと黒水晶のバレッタ。 ……センス的にどうなのかは知らん。 「あ、プレゼント用に包んでください」 「はい、かしこまりました」 買ったアクセサリをプレゼント用に包装してもらう。 鈴仙は、ニコニコしながらそれを見ている。 包装されたアクセサリを受け取り、それを鈴仙に手渡す。 「はい、今更初めてのプレゼントってのも何だけど…」 「ありがとう、○○…」 「次は指輪かな…」 「えっ?」 「なんでもない」 「……ねぇ」 「ん?」 「待ってるから」 「……ありがとう」 その後も色々と店を見て回った。 …さっきの店から、鈴仙が俺の右腕から離れないまま。 うん、幸せだ。 一通り見て回る頃にはお昼になった。 俺と鈴仙は、ビアホールで昼食を取ることにした。 ここ限定のビールもあるので、きっちり飲んでおこう。 「○○、何にしよっか?」 「とりあえずメニューにあるビール一つづつと…」 「それと北海浜のちゃんちゃん焼きとラムの黒胡椒焼きをお願いしますわ」 「ゆ、紫さん!?」 「ふぇ!?いつの間に!?」 「ふふ、とりあえず注文してから、話はそれからでいいでしょう?」 「「……(多分、食べたかったから来ただけだ……)」」 とりあえず注文を済ませ、先に運ばれてきたビールに口を付ける。 「んー、ビールまで美味しいわねぇ、北海道は♪」 「それにしても、何でここに?」 「美味しい物が食べたかったからよ?」 「まあ、そんな気はしてました。半分だけ」 「彼氏さんはどうしたんですか?」 「……食べすぎでお腹壊して寝てるわ」 「…気持ちは分からないでもないですけどね。 外の方が食べ物は美味しいですし」 「あら、それじゃあ外に残る?」 「鈴仙が一緒でいいなら」 「それは残念、ちょっと無理そうね」 「ですよねー」 「???」 「ま、そういうことで、貴方達はあと三日で戻って貰うわ。 流石に疲れちゃったのよね」 「すいません、本当に…」 「ねぇ○○、話が見えないんだけど…」 「ああ、実はな…」 鈴仙が月から発見されないようにしてもらっていたことを説明中。 「…そうだったんだ…ありがとうございます、紫さん。 でも、○○も言ってくれれば…」 「話すと遠慮されそうな気がしてな。 鈴仙、俺にわがまま言わないから…」 「いいのよ、その分御土産は山のように貰ってるから♪」 「あ、電車で買ってた御土産って…」 「そ、全部私の所の。 その為に陸路を使って貰ったんだもの♪」 「あはは…」 「だから気にするな、その分の仕事はしてるからさ」 料理が並び、食べ始める。 魚介もそうだが、幻想郷で羊って見たこと無いな、そういえば。 …なんか紫さんが鈴仙に耳打ちしてる…。 「そういえば兎さん…」 「は、はい!」 「○○とはどこまでいったの?」 「!?げほっ!げほっ!」 「ゆ、紫さん…ちょっとそれは…」 「ふふふ、ダブルベッドはお楽しみいただけたみたいねぇ」 「!?」 鈴仙が真っ赤になってるけど…何言ったんだよ…。 料理をつつきながら、ビールをガンガン飲む紫さん。 …ちと早くないか? 「紫さん、ちょっと飲みすぎじゃない?」 「別にいいじゃない、美味しいんだから」 「……彼氏は何て言ってたんですか、出てくるとき」 「今の私にそれを聞く度胸は素晴らしいわね…。 …俺は動けそうにないから、一人で観光してきてくれって。 俺は夜までおとなしく寝てるから…なんて言って…。 看病ぐらいするって言うのに、妙に頑固に断ってくるし…。 …それで私も売り言葉に買い言葉で『それじゃあ夜まで貴方はひとりぼっちね!』なんて言って出てきちゃって…」 「女心のわかってない人ね! 好きな人の看病ぐらい、喜んでするに決まってるのに!」 「そうよね! 惚れた男に尽くさない女なんて居ないに決まってるじゃない! なのに彼ったら…ふぇ~ん…」 「あー…紫さん。 ちょっとだけスキマ開いて、ベッド覗いてみて」 「なによぅ、どうせうんうん唸って寝てるだけよ…」 「いいからいいから」 「…しょうがないわね…」 ちょびっとスキマを開いて覗き込む紫さん。 その顔に明らかに驚きが見える。 「……居ないわ」 「やっぱり」 「…どういうこと?」 「大方、買い物でしょう」 「…あっ…」 「一緒に居ると出来ないこともあるんですよ、紫さん」 「……ごめんなさい、私帰らないと…」 「ふぇ?随分急ですね」 「だって、仕事が出来たんですもの。 彼の帰りを待って、戻ってきた彼を抱きしめるっていう仕事が」 「「おお、熱い熱い」」 紫さんはにこにこしながらスキマを開く。 「それじゃあ、失礼するわ。 ごちそうさま、○○、兎さん♪」 「あ、紫さん」 「ん?何かしら?」 「レシピと材料、送っておきます」 「ふふふ、ありがとう。 それじゃあ、外を満喫して帰ってらしてね」 そう言って紫さんはスキマに消えていった。 「○○、気が利くのね」 「本当は二人で食べたかっただろうしね」 「…そういえば、○○は一人で行動してたとき…」 「内緒」 「やっぱり?」 「バラしていい?」 「あっ…だめ」 「耳がうずうずしてるぞ?」 「うー、この話終わり!」 「ははは、ま、そのうち分かるさ」 「……あ……もしかして……」 「え?」 「ふふ、早く欲しいな♪」 鈴仙は、そう言いながら左手の薬指にキスをした。 …普段は結構鈍いのに、そういうとこだけ鋭いのな。 食事も終わり、外に出る。 それからは適当に市内散策。 路面電車に乗って旧い建物を色々と見て回った。 函館八幡宮にも行ったが、よく考えたら神様が居るはずも無い。 そこで、あえて願い事を書いた紙に賽銭を包んで放り込んでみたり。 「ねぇ、○○は何をお願いしたの?」 「内緒~」 「それじゃ私も内緒!」 鈴仙をそっと抱きしめる。 「…ずっとこのままなら、間違いなく願いは叶うんだけどな」 「……なんだ、願い事は一緒なのね」 すっかり日も暮れたのでホテルに戻ろうかと思い、タクシーを止める。 「湯の川まで」 「はいよ」 「……あー、やっぱり山頂に変更」 「ああ、分かりました」 「山頂って、あの山?」 「そ、函館山。 まあ行けば分かるさ」 タクシーは山頂を目指して走って行く。 「夜に山に登るなんて、向こうだったら酔狂でしか無いわね」 「ここは夜に登らないほうがおかしいけどな」 山頂に到着し、俺と鈴仙はタクシーを待たせて展望台に。 「綺麗…」 「函館に来て、これを見ないってわけにはいかないからな。 他には大した物の無い故郷だけど、これだけは誰にでも自慢できるな」 目の前に広がる、美しい夜景。 独特の地形が、それを際立たせている。 「星空が大地に落ちてきたみたい…」 「天上の月、大地の星か…」 「…月は大地の星にに惹かれてその身を落とし」 「…月に焦がれていた星は、その月を受け止めた」 ………… 「……私から初めておいて何だけど、滅茶苦茶恥ずかしい……」 「そして普通に返した俺もものすごく恥ずかしい……」 「じゃあ、おあいこ!」 「そうだな、おあいこ!」 そう言って、御互いに顔を近づける。 俺と鈴仙の唇が、自然と重なる。 何度しても良いものだ、キスというのは。 唇と言うのは厳密には内臓だと聞いたことがある。 もしかしたら、互いの内側を触れ合わせることで、人は心も触れ合わせているのだろうか。 しばらく夜景を眺めながら、今日回った場所や俺の家を探したりした。 そのうち、寒くなってきたのでそろそろ戻ろうかという話になった。 「それじゃタクシーに戻ろうか」 「うん」 当然のように、右腕に絡み付いてくる鈴仙。 そうだ、幻想郷に帰ってしまえば、今のように毎日イチャつくなんて無理なんだ。 今のうちに、たっぷりとこの感触を堪能しておこう。 …それにしても、着やせするよなぁ、鈴仙って… 特に言葉も交わさずに、ホテルに到着した。 鈴仙をずっと右腕に繋いだまま。 「んー、すっかり体冷えちゃった。 私、温泉行ってくるね」 「ああ、しっかり温まってこいよ」 「はーい、○○もちゃんと体温めたほういいよ?」 「俺も後で行くよ」 「それじゃ、ロビーで?」 「いや、また寝そうだから部屋で」 「うん、分かった。 それじゃ後でね」 浴衣に着替えた鈴仙は、温泉に入りに行った。 …今日は、着替える時に風呂場に入ったりしなかったが、向こうを向いててと言われて、背を向けていた。 だが、俺が窓側に居て、鈴仙が内側に居るという位置関係。 …ガラスに鈴仙の姿が映っていたわけで… つい見とれていると、ガラスの鈴仙と目が合った。 鈴仙はその時、少し微笑んでいた。 俺は慌てて目を逸らしたが…鈴仙は何も言わなかった。 温泉に浸かり、体をしっかり温めて部屋に戻った。 まだ鈴仙は戻っていない。 …髪が長いのに、お風呂好きなんだよなぁ、鈴仙。 黎明薬湯なんかに連れて行ったら、いつまでも楽しんでそうだ。 ビールでも飲むかと思い、冷蔵庫に手をかけようとすると、鈴仙が戻ってきた。 「ただいまー」 「おかえりー…あれ」 「ふふ、早速バレッタ使ってみたの。 似合うかな?」 髪を簡単にまとめているだけだったが、鈴仙の髪に黒水晶のバレッタが映えていた。 くるりと回ってみせる鈴仙が、とても可愛く、綺麗だった。 …そして、この間見た浴衣姿と違う場所。 うなじ。 それは普段髪をフリーにしている姿では見えない場所。 「…綺麗だよ、鈴仙」 「ありがと、○○…」 俺は鈴仙を抱きしめ、そのままベッドに押し倒した。 「ごめん…我慢できなくなった」 「もう、仕方ないなぁ…」 そう言いつつも、鈴仙は微笑んでいた。 少し、朱に染まった顔色で。 朝になり、俺と鈴仙は身支度を整える。 ガイドブックを見ながら、今日の予定をあれこれと考えていた。 「ねぇ、今日はどこに行こうか?」 「そうだなぁ、大沼にでも行こうか? 紅葉が見頃らしいし、あっちには美味しい地ビールもある」 「うん、それで決まりね! 早くいこ、○○!」 「おいおい、焦らなくても大沼は逃げないぞ?」 「駄目駄目!明後日には帰らなきゃならないんだもの、少しの時間だって惜しいじゃない!」 「いや、今飛び出してもバスの時間はまだ先だぞ?」 「あ、そっか」 「まったく、あわてんぼうな兎さんだなぁ」 「○○は、あわてんぼな兎は嫌い?」 「世界で一番大好きだけど?」 「…さすがに、ちょっと照れちゃうな…」 「照れてる兎さんも大好きだよ」 「私も、いつもやさしい顔で見つめてくれる○○は大好きだよ」 「……ものすごく照れてしまって鈴仙の顔が見れません」 「それじゃあ、無理矢理にでも見てもらおっかな」 鈴仙は俺の頬に両手を添え、顔を近づける。 「ね…○○…」 「鈴仙…」 「好きだよ」 「俺も、好きだよ」 互いの唇を触れ合わせ、互いの心を触れ合わせる。 この幸せが、いつまでも続くことを願いながら。 ─────── 鈴仙と一緒に、大沼を散策している。 幻想郷で大きな湖と言ったら、紅魔館近くの湖か、妖怪の山のどちらかだ。 紅魔館近くの湖は、いつも霧が立ち込めていて紅葉など楽しめない。 妖怪の山は、そもそも立ち入り禁止だ。 …入れないこともないが、ブン屋に借りが出来そうで嫌だ。 紅葉は幻想郷も非常に綺麗なのだが、湖と紅葉を楽しむのは困難だ。 初めのうちは幻想郷でも紅葉は見れるし、つまらないだろうかと思ったが…。 「綺麗ね…」 「そうだな…」 言葉少なに、ほとりを歩く。 鈴仙は、俺の右腕を抱きしめるようにしている。 こっちに来てから、何となくこれが普通になってしまった気がする。 …幻想郷では、外を歩くときに手を繋ぐだけでもすぐにからかわれたものだが。 「…○○さ、やっぱりこっちに残りたい?」 「その答えは昨日してると思うんだけど…」 「だって…○○は『外は自然が無くて息が詰まる』なんて言ってたけど、ここの景色は幻想郷にだって無いぐらい綺麗じゃない。 幻想郷にあって外に無い物なんて、何も無いじゃない…」 「鈴仙…」 「……」 「答え分かってて、恥ずかしい台詞言わせようとしない」 「ちぇ、残念♪」 ぺろっと舌を出して、微笑む鈴仙。 俺も釣られて微笑む。 その時、風がさっと走り抜けて行った。 風がどこからかさらって来た、紅葉しきった紅い葉が鈴仙の髪に刺さる。 「あっ、髪に…」 「へぇ、上手い具合に刺さったなぁ。 髪飾りみたいで可愛いぞ?」 「本当?それじゃあ、しばらくこのままにしておこうかな。 ふふ、秋の神様の贈り物かな?」 「いや、今は出雲だろ…」 「んもう、何でそこで真面目に答えるかなぁ」 「あーいや、最近神様が身近過ぎたからつい…」 ぷーっと頬を膨らます鈴仙が、とても可愛い。 頬をつつきたくなるが、さすがに我慢した。 そろそろお昼。 どこか適当な店に入ろう。 「うーん…」 「どうした、鈴仙?」 「お弁当作って来た方が良かったかなって。 景色もいいし、外で食事したくなっちゃう」 「でも少し寒いぜ?」 「そうなのよね…今度は夏に来たいなぁ」 「夏か…紫さんに頼んでみるか」 「言い出す前に、扇子でぺちってはたかれそう…」 「うん、俺もそんな気がした」 結局、外にあるテイクアウトの店で食事を済ませた。 こういう開放的な場所だと、ごく普通の食べ物でも思いのほか美味しく感じるものだ。 食事を終え、ベンチで少しのんびりしていると、鈴仙がガイドブックで何か見つけたらしい。 「ねぇ、これ…」 「ん?『イクサンダー大沼カヌーハウス』…? ……いや、あの人とは関係ないだろ」 「…だよね?」 衣玖でサンダーとか、ネタにされそうな名前だ…。 そういえば、遊覧船にまだ乗ってなかったな。 「そうだ、遊覧船に乗ろうか?」 「うん!」 遊覧船乗り場から、遊覧船に乗り込む。 「○○、こっちこっち!」 「おいおい、はしゃぐなはしゃぐな」 「だって、船に乗るの初めてなんだもの!」 「分かったから落ち着けってば」 十分後 「う゛~…」 「鈴仙、大丈夫か?」 「あんまり…」 「まさか船酔いとはな…電車は大丈夫だったのに」 「えう…電車はこんなに揺れなかったもの…」 「少し風に当たるか?」 「うん……少し浮いていい?」 「駄目」 「うー…」 鈴仙を支えながら、外に出る。 まさか、ここまで船に弱いとは思わなかった…。 何せ、空をアクロバティックに飛ぶのも日常茶飯事な兎が船酔いなんて、ねぇ。 「ごめんね、○○…」 「鈴仙と密着してる状態に不満は何一つ無いけど?」 「……私も、ちょっと幸せだったりするけど」 「なら何も問題はないな。 …少しは落ち着いたか?」 「うん、風に当たったら大分すっきりしたわ。 今度は酔い止め持ってこないと駄目ね」 「最初から酒に酔ってると平気らしいぞ?」 「あ、それ手軽でいいわね」 鈴仙は大分回復したようだ。 景色を見る余裕も出てきたようで、さっき二人で歩いた所を見つけてはしゃいでいた。 ほとりから見る景色と、湖から見る景色の違いを楽しみながら、俺たちは遊覧船を堪能した。 「ふー、そろそろ帰るか」 「そうね、まだ日は高いけど、ちょっとはしゃぎすぎちゃた」 「うん、楽しんでくれて何よりだったよ。 最初は幻想郷よりも見劣りするかと思ってたからなぁ」 「それどころか、幻想郷よりも素敵だったと思うわ。 湖と紅葉、この二つをまとめて楽しんだのって初めてだったもの」 「あっちじゃ妖怪の山に登るしかないもんな…。 鈴仙は強行突破できそうなもんだけど、俺がついていけないや」 「じゃあ、強行突破しつつ○○を連れていけるように頑張らないと!」 「やめて永遠亭vs妖怪の山とか幻想郷壊滅しちゃう」 「ふふっ、冗談冗談、そんなのじゃゆっくり楽しめないじゃない」 「まあなぁ。 …あ、ケロちゃんあたりに頼めばいいのか」 「あー…でも…」 「ん?」 「一度フルボッコされてるのよね、あの神様に」 「まじか」 「まじで」 ホテルに到着し、部屋に戻る。 「ふー、今日はちょっと疲れたなぁ」 「そうね、随分歩いちゃったし…。 私、温泉入ってくるね」 「ああ、いってらっしゃい」 ベッドに腰掛けていた鈴仙が立ち上がって歩き出した瞬間、よろよろとふらつく。 「おい!」 「あ…」 咄嗟に鈴仙の体を支える。 軽い体なので俺に負担は無いが…鈴仙に力が入っていないように感じる。 そういう雰囲気でもないというのに、体重を完全に俺に預けてしまっている。 「鈴仙、大丈夫か? 体に力入ってないだろ?」 「ごめん、ちょっと横になるね…」 「もしかして、船酔いで…」 「うん、そうみたい…。 まだちょっと景色が揺れてるみたいで…」 「そういうことは早く言ってくれよ?」 「でも…せっかくの旅行だし…迷惑かけたくなくて…」 「鈴仙が苦しんでるのを見るぐらいなら、旅行なんかしたくないよ。 …俺は、鈴仙が居てくれれば、それでいいんだから」 「○○…。 私、○○が見て来た世界を、もっと見ておきたいの。 ……悪いけど、こっちに居る内は無理してでもいろいろな所に行くから」 「おいおい…」 「…ねぇ、○○」 「ん?」 「甘えても、いいんでしょ?」 「……鈴仙って、聞いてないようで聞いてるよな…」 「ふふふ、おっきな耳は伊達じゃないでしょ?」 「まったくだ」 「だから、私のことを支えてね?」 「わかったよ、鈴仙」 鈴仙の満面の笑みに、俺は少し苦笑していた。 まあでも、こっちに居る内だけだ。 帰ったらゆっくり休ませればいいか。 「あ、ところでさ、○○」 「うん?」 「お風呂に入れてくれない?」 「は!?」 「だって、一人だと転びそうだし、かといってお風呂に入らないのも気持ち悪いし…」 「あー…まぁ…いいけど…うーん…」 「それじゃあ、たっぷり甘えさせてね♪」 結局、部屋のお風呂で混浴することに…。 この状況で紳士で居られる奴、挙手。 はい、今手を挙げた人、真ん中の棒も挙がるように頑張れ。 風呂から上がり、鈴仙をベッドに座らせて、ドライヤーで髪を乾かす。 しかし、長い髪というのは、本当に手入れが大変だな…。 「鈴仙、髪の手入れって大変じゃないか?」 「うーん、もう慣れちゃった。 それに、私より姫様の方が大変よ?」 「確かに…長さは同じぐらいだけど、ボリュームあるしな…」 「黒髪だから、つやの維持も大変なのよ、姫様」 「俺には分からない苦労だな…」 「○○も伸ばしてみる? 案外似合うかもよ?」 「やめてくれ、絶対似合わないから」 「今度かつらでもかぶってみる?」 「姫様と先生のおもちゃにされるからマジやめて…」 「えー、着せたかったなぁ、私と御揃いのミニスカート」 「やめてマジやめて」 鈴仙の髪もすっかり乾いた。 さすがに疲れたのか、その頃には鈴仙は半ば船を漕いでいた。 そのまま鈴仙を寝かせ、おやすみのキスをする。 自分も寝ようかと思ったのだが、少し体を動かしたせいか、まだ眠気が来ない。 寝酒でも飲もうかと思い、ホテルのバーへ行くことにした。 カウンターに腰を下ろし、ウイスキーをストレートで頼む。 一口含み、ごくりと流し込む。 強いアルコールの刺激と、心地よい香りが喉の奥から広がる。 「ふう…」 酒を呷ると、気が抜けたのか急に疲れが出てきた。 心地よい疲れだ。 「あら、一人酒?」 「愛しい彼女はどうしたの?」 「え…って、静葉様に穣子様…? 出雲にいらしてたんじゃないんですか?」 「新日本三景って言われてる、大沼を観に来たのよ。 そしたら、貴方達がいるじゃない」 「髪飾りは気に入っていただけたかしら?」 「あっ…本当に秋の神様の贈り物だったんですか… ありがとうございます」 「まあ、私達は出雲じゃ末席だし、こっちで綺麗な景色でも観るほうが有意義ってものよ」 「穣子、余計なこと言わないで…」 「はは、まあ、とりあえず御二柱も一杯いかがです?」 「それじゃあ、芋焼酎を貰おうかしら」 「穣子、バーにそんなのあるはずが…」 「いや、結構豊富にあるみたいですよ?」 「嘘!?」 「ふふん」 秋の神様たちと、軽口を叩きながら飲み交わす。 神様とはいえ、外の世界のそれと違って見ることも出来れば触れることもできる。 身近過ぎるその存在は、幻想郷と外の違いの最たる物ではないかと、ふと思う。 穣子様は、芋焼酎の多さに気を良くし、すっかり酔っている。 それでも飲みつづけるのは流石神様と言ったところか。 俺は静葉様と話しながら、ちびちびと飲んでいた。 「それで、上手くいってる?」 「ええ、とても。 …と、自分は思ってるんですけどね」 「なら大丈夫ね」 「そうですか?」 「一人身の終焉を感じてるもの」 「そんな終焉も司ってるんですか!?」 「驚いた?」 「ものすごく。 結婚運のおみくじでもやれば信仰倍増しそうですよ?」 「それは面白そうね。 …残酷な結果も一杯出ることになりそうだけど」 「それはあれですよ、幻想郷一正確なおみくじとしてウリにすれば」 「万一、白黒や紅白に無残な結果が出たらと思うと、ちょっと手が出ないわね」 「……夢想マスター封印スパークとか洒落にならんですね」 軽く飲んで引き上げるつもりが、少々長居してしまった。 明日もあるのでと断りを入れ、秋の神様たちと別れて部屋に戻ることにした。 去り際、静葉様に『くれぐれも彼女を大事にしなさい』と念を押された。 やけに神妙な面持ちで。 鈴仙が寝ているであろう暗い部屋に、音を立てないように戻る。 ……声がする…鈴仙、起きてるのか? 「……○…○…いかないで……見捨てないで……嫌……」 ベッドで上半身を起こした鈴仙が、泣いていた。 気が付けば俺は、鈴仙の体を揺すっていた。 「鈴仙、俺はここにいるぞ、鈴仙、鈴仙!」 「う……あ……○○……!」 俺にしがみついて泣き出す鈴仙。 目が醒めたら俺が居ないから不安に……? それにしては、少し大袈裟すぎる気がするが。 鈴仙の頭を撫でながら、優しく話し掛ける。 「鈴仙、大丈夫か? 俺はここにいるから……どこに行っても、必ず戻ってくるから……」 「○○……うん……○○は、私じゃないもん……」 「え?」 「なんでもない……」 それっきり、鈴仙は何も言わず、泣きながら眠ってしまった。 俺も鈴仙を抱きしめたまま、眠っていた。 目が醒めると、鈴仙は既に起きていた。 …ただし、俺にしがみついたままだ。 「おはよう、鈴仙」 「おはよ、○○」 昨夜のことは、聞かないことにした。 …月から逃げたことは、今でも鈴仙の心に引っかかっているのだろう。 「○○…」 「ん?」 「……何でもない」 「そうか。 ……鈴仙、話してくれるまでいつまでも待ってるから。 百年でも、一万年でも」 「…ありがと。 って、その前に薬完成させなきゃ駄目じゃない、その年数!」 「当てにしてるからな、鈴仙」 「う…そこはかとないプレッシャーが…」 「あんまり時間掛かると、何も出来ないじじいになっちまうぞ」 「わ、若返りの薬も準備しないと…」 「ははは、ま、いざとなったら蓬莱の薬でも先生に貰うか」 「軽いなぁ、○○…」 「まあ、人生なるようになるさ。 今はとにかく、鈴仙と一緒に居たい。それだけだ」 「○○…。 ところで……○○から普段と違う匂いがするんだけど……。 …浮気、してないよね?」 「してないしてない…。 でも、匂いって……あ、そういや昨日バーで静葉様と穣子様に会ったけど、それかな。 秋の匂いがするし」 「そんな…○○は秋の神様が…」 「いやちょっと待て。 そういうんじゃなくてたまたま会っただけだぞ?」 「出雲に居るはずの神様が、何でわざわざこっちに来るのよ…。 ううっ……○○に捨てられる……」 「だから、そんなんじゃなくて…。 ……鈴仙、分かってて言ってないか?」 「…………てへ♪」 「あーもうこの焼きもち焼きめっ!」 「きゃん♪」 外は冷たい風が吹いていた。 二人で体を寄せ合い、互いの温もりを求める。 「ねぇ○○、今日はどこに行こうか?」 「そうだなぁ…」 別にどこだって構わない。 鈴仙と一緒なら。 ……ただし、鈴仙がつまらなそうにしない場所なら、な。 ─────── 函館周辺の観光地をほぼ制覇し、いよいよ幻想郷に帰る日が来た。 「元気でね、○○。 お酒飲み過ぎたりしないようにね」 「うん、なるべく気をつけるよ」 「病気には気をつけるんだぞ、一応医療関係者なんだからな」 「分かってるさ、薬局で病気移されたなんて洒落にもなんないからな」 「鈴仙ちゃん、大事にしろよな。 そんな可愛い子、知り合えるだけでも奇跡なんだからよ」 「ああ、兄貴もいい子見つけろよ」 「ほっとけ」 「鈴仙ちゃん、不束な息子ですけど、よろしくお願いしますね」 「はい、大事にします…いえ、それ以上に大事にされてますから」 「鈴仙さん、こいつが血迷うことがあったら、思いっきり殴っていいですからね」 「いやちょっと待て親父」 「はい、浮気なんてしようものならキャメルクラッチです!」 「はっはっは、胴体引きちぎる勢いでいいからね!」 「どこのラーメンマンだよ!」 「鈴仙さん、そいつに飽きたらいつでも俺に」 「それはないのでご安心下さい♪」 「…今ほど空中に(´・ω・`)という顔文字を描けないことを悔やんだことは無い」 「兄貴乙」 家族との別れを終え、空港へとタクシーで向かう。 「色々あったけど楽しかった~」 「鈴仙、体は大丈夫か? 船酔いって結構引きずるからな」 「あ、もう平気。 やっぱり、根本的につくりが違うしね♪」 「まあ、確かに」 「…優しい家族と綺麗な故郷だったわ」 「だろ?」 「ねぇ○○…」 「でも鈴仙一人に及ばないのは残念な話だよな」 「……」 何も言わずに、強く俺の腕にしがみついてくる。 垂れている耳が、俺の頬を撫でる。 その耳をふにふにしたら、軽く頭突きされた。 飛行機に乗るために空港にやってくると、外に馴染んだ服を着た紫さんと藍さんが待っていた。 「あれ、東京駅に居るんじゃなかったんですか?」 「どのみち二人だけだから、こっちで待つことにしたのよ。 さあ、もう思い残すことはないかしら?」 「ええ、もう特に…あ」 「はいどうぞ」 「これをお願いできますか?」 「封筒ねぇ…藍、あなたお願い」 「はい、紫様。 どれ、中を拝見…ふむ…」 「すいません、ちょっと手に入らなかったので…」 「ふむ、最近はネットで何でも買えるかと思ったが」 「いや、納期までは縮まらないですから…」 「なるほど、そういうことか。 分かった、確実に届けよう」 「お願いします」 「○○、何を頼んだの?」 「んー、そのうち分かるよ。 鈴仙の分も頼んだし」 「え、私のも?」 「うん、一応、だけどね。 要らない気もするし」 「???」 「さ、それじゃあ快速特急スキマ八号、出発の時間よ。 お乗り遅れ無きようにお願いいたしますわ」 紫さんはスキマを開き、そこに俺と鈴仙を招き入れる。 数秒の後、俺と鈴仙は見慣れた竹林に居た。 「快速特急スキマ八号をご利用くださり、まことにありがとうございます~。 終点、迷いの竹林、迷いの竹林です~」 「永遠亭のすぐそば…さすが快速特急。 ありがとうございました、紫さん、藍さん」 「色々御手数おかけしました」 「ふふ、それじゃあ私はまた向こうに戻るわね。 そうそう、御土産は指定した場所に『全部』送ってあるわよ」 「はい、ありがとうござい…え、指定した場所?」 「それじゃ、またね~」 「え、あの、ちょっと…」 「……私は止めたんだがな……」 紫さんと藍さんは、スキマへと消えてしまった。 さて、これはいよいよもってやばい。 紫さんにああいう冗談を言った俺が馬鹿だった…。 「ねぇ○○、指定した場所って、どこ?」 「それは私が教えてあげるわ、鈴仙」 永遠亭のある方から、今一番聞きたくない声が聞こえた。 ざんねん、おれのじんせいはここでおわってしまう! 「あ、姫様。 ただいま戻りました」 「おかえりなさい、鈴仙。 さて○○、遺言くらい聞くわよ?」 「まさか本気にされるとは思わなかったんで…すいません」 「あなたの冗談のおかげで、私の部屋は生臭くて海草臭くて土臭くてそれはもう……。 運び出した今も匂いが抜けきらないのよ! どうしてくれるのよ、○○!」 「ふぇ!? ○○、まさか、あの量の御土産ぜんぶ姫様の部屋に!?」 「う、うん…」 「○○…私、○○のこと、忘れないから…」 「鈴仙、生まれ変わったら、また幻想郷に来るよ…」 「好きだったよ、○○…」 「俺も鈴仙のこと、好きだったよ…」 俺と鈴仙は、互いを強く抱きしめあった。 最後の思い出に…。 「鈴仙、キスしたい…」 「うん…」 唇を激しく重ね合わせる俺と鈴仙。 柔らかく、暖かいその感触を自分の身体に刻み込む。 「……それで、あなたたちはいつまでそうやってるつもりかしら?」 「いやぁ、ちょっと最後の別れっぽいことやってみたいなーと…」 「こういうのも悪くないね、○○♪」 「とりあえず覚悟は出来てるようで何よりね。 さぁ、私の新しい難題、その身に刻み込んであげるわよ!」 「ぎゃー!」 とりあえず生きている…というか、外傷はほぼ無い。 喰らったのはただ一発。 難題『蓬莱の玉砕き』…つまりは男の証を…。 再起不能になることは無かったが、一瞬意識が飛びかけた。 とりあえず、それで放免となり、休む間もなく土産物の整理をすることになった。 「鈴仙、乾物はどこにしまえばいい?」 「勝手口から出てすぐの倉庫の奥よ。 あ、てゐ、にんじんはイナバ達に配っちゃっていいわよ」 「はいよ~」 意外にも人型イナバ達がみんな手伝ってくれているので、すぐに終わりそうだ。 いつもぺたぺたくっついてくる兎型イナバは、てゐの配っているにんじんに夢中だし。 結局、一時間とかからずに土産物は片付いた。 「あら、意外に早く終わったのね」 「みんな手伝ってくれましたから」 「あらそう、イナバ達が命令無しで手伝うなんて珍しいわね。 ○○、あなた、人間向けじゃなくイナバ向けのフェロモンでも出てるんじゃない?」 「どんなフェロモンですかそれ」 「少なくとも、一匹はやられちゃってるじゃない」 「いやまぁ、うん」 姫様がお茶にするというので、土産の菓子とお茶を用意して居間に持っていく。 既に四人がこたつでぬくぬくしている。 俺はとりあえず菓子をこたつの上に置き、お茶を淹れることにした。 その時、姫様が湯飲みを二つ持っていってしまった。 「姫様?」 「あなたたちはこれじゃないでしょ?」 そういって姫様は二つの別の湯飲みを持ち出してきた。 …夫婦の湯飲みだ。 「こっちの方が御似合いよ?」 「…ありがとうございます」 「姫様、これを私達に送るということは…」 「私も永琳も二人の仲は認めてるわ。 ただし、あなたたちの間の問題はあなたたちで解決しなさい」 「意味は分かるわね、ウドンゲ」 「……はい、頑張ります」 その後は土産話に花が咲き、あっというまに時間は流れていった。 もう薬局に戻らないとまずい頃合だ。 明日からは通常営業しなくてはならないため、少し早めに帰らなくては。 「じゃあ鈴仙、また…次は週末か…」 「うん…長いね…」 「あら、それじゃあ薬局で同居すればいいじゃない?」 「姫様…いえ、それじゃあ薬が作れません。 私には、師匠の教えがまだまだ必要ですから」 「そのとおりよ、ウドンゲ。 ○○の寿命を延ばす薬を作る。 それは、それを望む者が為すべきことよ」 「はい、師匠」 「……先生、俺」 「はい○○、初心者用の本よ」 「用意いいですね…」 「人生経験豊富ですもの。 あなたの想像もつかないぐらいに、ね」 「ごもっとも」 「○○、一緒に頑張ろうね」 「そうだな、俺がじいさんになってからじゃ遅いしな」 「うん、ナイスミドルで長生きしてもらわないと!」 「えっ!? 鈴仙そっちの方が趣味なの!?」 「ふふっ、嘘嘘、なるべく早く作ろうね」 「あ、ああ」 鈴仙とキスを交わし、人里へと帰る。 歩いて二時間の道程だ。 俺と鈴仙の距離、二時間。 永い寿命を手に入れるまでは、我慢の時間だ。 もっとも、しばらくすればだいぶ時間は短縮できる予定だが。 帰る直前、藍さんに頼んだのはノーパンクタイヤの自転車二台。 舗装路の無い幻想郷にうってつけの乗り物だ。 こいつがあれば、平日でも何とか顔を見るぐらいは出来るだろう。 ……まあ、体力的には厳しいけど。 二台頼んだのは、鈴仙と一緒にサイクリングしたいからだ。 帰り道に空を見上げると、綺麗な満月が出ていた。 今度は俺が、鈴仙の故郷の景色を見てみたい。 だが、それは恐らくは叶わない夢だろう。 普通の人間が月に行くなど、とても無理な話だろう。 それに、鈴仙は逃亡兵…あまり月に居た頃は思い出したくはないだろう。 鈴仙の心の傷を抉るような真似は、俺にはとても出来ない。 そんなことを考えていると、いつのまにか里のすぐそばに着いていた。 日は丁度落ちるところで、夜道を歩く羽目にはならずに済んだ。 薬局へと帰り、荷物を降ろす。 こっちで配る土産を持ってきたので、少々量が多い。 それらを仕分けして、渡す相手の名前を書いた札を付ける。 これらは明日にでも配りに行くとしよう。 残りは来店した人にでも配るとするか。 片付けも終わり、腹が減った。 土産を一つ持って、夜雀の屋台へと繰り出す。 「あら、いらっしゃい。 外から帰って来たんだね」 「まあね、はい、御土産。 店用に昆布、みすちー本人には外のお菓子。 あ、俺には蒲焼とご飯頂戴」 「ありがとう、今日は御代サービスにしとくねー」 「悪いね」 「それで、ご両親の許可は出たの?」 「……ちょっと待った、何で知ってる?」 「文々。新聞よ? 外に出た人の動向が、最近は毎日載ってるわ」 「あの天狗、外に行かないと思ったら…って、あれ? どうやって取材を…?」 「はい今日の朝刊。 まだ油きりに使ってないから読めるわよ」 「えーと…『本日、永遠亭の鈴仙・優曇華院・イナバと、その薬局に勤める○○が帰省より戻る予定…』 って、そんなん新聞に書く必要ないだろ…。 あ、取材協力に紫さんの名前が…」 「そりゃスキマさんぐらいしかいないわよねー」 「まあそうだな…気にしても仕方ないか」 「そうそう、どうしようもないことは諦めて、歌でも歌えばいいのよー。 はい蒲焼とご飯、お待ちー」 「そうだな、気にしな……『いくところまでいったこの二人、結婚は秒読みか?』だと……?」 「ほんと熱いわねー、おふたりさん。 二人っきりになったらもうこんなに進んじゃうんだものー」 「あの天狗……!」 その時、少し強い風が吹いた。 「噂をすればー。 あれ、何飲んでるの○○、三本も」 「ああ大丈夫、屋台からは離れるから」 「毎度、清く正しい射命丸ですー。 お、○○さんじゃないですか! どうでした、外は?」 「ところで、この新聞を見てくれ、この部分の記述をどう思う?」 「すごく、正確です……」 俺は文の頭を思い切り鷲づかみにする。 「あややややややや!? ちょ、痛っ!? てか人間なのに振りほどけないってなんで!?」 「こんな恥ずかしいことを新聞にしてくれた御礼だよ」 懐から、四本目の『国士無双の薬』を取り出し、天狗を店から離れた場所に引きずる。 「えっ、それって、あれですよね、三本目までは身体強化されて、四本飲んだら本人スッキリ回りどっかーんっていう…。 ああっ、カウンターに三本の空き瓶!? ちょ、待って、メディアに対する言論弾圧ですか!?」 「自由には責任が伴うんだよ、文ちゃん」 「自己責任ってやつですかー!?」 「イエス!」 俺は四本目を飲み干した。 天狗は空の星になった。 そして平和は訪れた。 屋台を後にし、薬局へと戻る。 自室で道具箱から赤い宝石を取り出し、眺める。 鈴仙に送る指輪に使う為に手に入れたルビーだ。 指輪を自分で作り、それをもってプロポーズしたい。 外に出ることが決まったときに、最初に考えたことだ。 材料と道具を手に入れ、準備は出来た。 なるべく早く作り上げて、鈴仙に……。 「頑張るか、薬も指輪も……」 「……やっぱり寂しいな」 一人呟いて、久しぶりに一人だけの布団に潜り込み、目を閉じる。 「そうよね…ずっと二人で寝てたんだし」 「ああ……いやちょっと待て」 「えへへ、来ちゃった…」 「大丈夫なのか?」 「師匠が『薬の残りを確認をしておいてちょうだい』って言って、私をこっちに寄越したの。 私達が居ない間、ここは他のイナバ達が留守番してたから、残りが分からないって」 「なるほど…じゃあ一緒に寝ようか?」 「うん」 鈴仙と一緒に布団に入る。 が、そもそも一人用の布団なので非常に狭い。 そのため、自然と抱き合う形になる。 「それじゃ、おやすみ、○○」 「おやすみ、鈴仙」 明日からはまた、この薬局での日常が始まる。 いつもよりも、少し幸せな気持ちで。 新ろだ51、59、80、96、109、147、210、249 ───────────────────────────────────────────────────────────
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~間もなく、二十一番線にはやて二十五号が到着します~ 「鈴仙、こっちこっち」 「うん、あ、私窓際!」 「はいはい、最初からそのつもりだよ。 ほら、荷物上に載せるからこっちに渡して」 「えへへ、お願いね」 神無月の里帰り、俺と鈴仙は新幹線と特急を乗り継いで北海道を目指す。 …飛行機を使わないのかだって? 飛行機じゃ、ゆっくり酒が飲めないだろ? まあ、本当のところは、紫さんとの約束のせいだ。 …鈴仙の波長を、神無月の間スキマ送りにして、月にバレないようにしてくれることと交換で。 その条件が『行きは電車で、車内販売と乗換駅のみやげ物を買い漁ること!』だったのだ… まあ、景色を楽しめるし、これはこれで。 「ねぇ○○、さっき紫さんと何を話してたの?」 「ん、あー、これだ…」 俺は胸ポケットから、一枚のメモを取り出した。 そこに書かれているのは、都内某所の住所だ。 「なにこれ?」 「土産はここに送れば、幻想郷に送っといてくれるってさ。 さすがにイナバ達の土産なんて、持って帰れる量じゃないだろ?」 「確かに…小物でも相当な量になるものね」 「しかし何というか、痒いところに手が届くというか… 外でボーダー商事とか経営してないだろうな…」 「ボーダー商事?」 「ん、気にするな」 「???」 波長云々の話は、言うべきでは無いだろう。 鈴仙自身が気付いたなら、その時にすればいい。 そんな話をしているうちに、新幹線は走り出した。 外に映るのは、都市の風景。 「ここ、凄い数の人が住んでるのね」 「うーん、住んでいるとは言い難いかな。 郊外からの通勤者が半分以上とか聞いたけど」 「そうなの?わざわざめんどくさいことしてるのね」 「人が一箇所に集まる方が都合がいいことが多いのさ」 「そんなものなの?」 「そんなものなんですよ」 しばらくして、大宮駅。 窓の向こうから、こちらを覗く人がやけに多い気がした。 そうだ、すっかり忘れていたが、鈴仙には『耳を隠して』としか言っていなかった。 つまり、髪と眼がそのまんま… 「…鈴仙、耳は見えないようにしてるんだよな?」 「うん。流石に目立つからね」 「いやその、何だ…」 「私の髪と眼も目立ってるんでしょ?」 「うむ…すっかり慣れてて忘れてた」 「そう思って、一応他の人には黒髪、黒目に見えるようにしてるわよ」 「そうか…んじゃ、やっぱジロジロ見られる理由は、可愛いからか」 「えっ、そ、そうかな?」 「俺自身、一目ぼれだったしな。 初めて竹林で見たときは、一瞬女神かと思ったから」 「もう、誉め殺しも大概に…って、一瞬だけ? それってどうなの?」 「いやまぁ、外の学生服みたいな格好だったからなぁ。 『いやいや女神はブレザー着ないだろ!』って脳内でセルフツッコミしてたよ」 「あー、そういえばそんなこと言ってたっけ。 …地上の学校かぁ…ちょっと通ってみたいかな…」 「駄目だ」 「分かってるわよ…外で生活できるわけ無いじゃない」 「変な男が初日から軽くダース単位で寄って来るから、絶対に駄目だ」 「浮気とか心配?」 「学校に行くぐらいなら、家で俺の帰りを待っていて欲しいね」 「さらっと何言ってるのよ、もう…」 つん、と軽く肘でつつかれた。 瞬間、自分の台詞が異常に恥ずかしくなってくる。 完璧にプロポーズじゃないか、これ。 鈴仙を見ると、顔が赤い。 恐らく、俺の顔も同じぐらい赤くなっているんだろう。 照れ隠しに、鈴仙の頬にキスしようとした。 鈴仙も同じことを考えていたのか、結果的に向き合って、普通にキスしていた。 御互いに少し笑いあって、手を繋ぐ。 鈴仙は頭をこちらに預けてくる。 俺にしか見えない耳が、顔を撫でる。 陸路でのんびりするのも、好いものだ。 新幹線は再び走り出した。 次は仙台。 ───────── ~仙台通過~ 「このへんは建物が殆ど無いのね」 「田舎だからね」 「幻想郷の人里あたりと、あんまり変わらないわね」 「そうだなぁ…まあ、違うといえば電線ぐらいか」 「そのうち、河童と神様が引いちゃうんじゃない?」 「うーん、景観が悪くなるから、最初から埋設工法にして欲しいなぁ」 何でも、山の神様が地底で核融合炉を稼動させているとか… それを外でやってりゃ、それこそ信仰がっつり稼げた気もするんだが。 そんなことを考えていると、車内販売のワゴンが回ってきた。 「すいません、弁当二つとビール二つ」 「こんな時間から飲むの?」 「こんな時間だから飲むんだよ」 「それも一理あるわね」 二人で違う弁当を選び、つつきながら酒を飲む。 「ん、牛タンおいし♪」 「あ、俺にも頂戴」 「はい、あ~ん」 「あ~ん」 うん、牛タンはハズさないな。 でも俺は色々入った弁当を選んだ。 車内飲みのつまみには、幕の内なんかの多様なおかずが入った弁当がいいのだ。 「○○、その卵焼き頂戴」 「ほら、あ~ん」 「あ~ん♪」 「鈴仙って、卵焼き好きだよな」 「うん、三番目ぐらいに好きかな」 「へぇ、二番は?」 「にんじん!」 「あれ、一番が人参じゃないのか?」 「違うわよ、一番は」 ちゅ 「れ、鈴仙!?」 「えへへ…一番は○○」 「……なぁ……」 「……ごめん、自分でやっといて、めっちゃくちゃ恥ずかしい……」 「ビール一本でそれじゃあ、これ以上飲んだらどうなるやら…」 「あはは…」 「すいませーん、ビール二本下さい~」 「え!?」 「どうなるのか、楽しみだなぁ、鈴仙?」 「もう、ほんとに知らないわよ?」 「俺もどうなるか分からないぜ?」 「そこは御互い様、ってことね」 「ああ、御互い様だ」 再び鈴仙と唇を重ねる。 ビールを持ったまま、居心地悪そうに余所見をする売り子をそのままに。 次は八戸で乗り換えて函館まで。 ─────── ~次は終点、函館です~ 「あ、○○!海が見えた!」 「おー、久々に海を見たなぁ」 「ほんと、何十年ぶりかしら…」 「幻想郷には海が無いからなぁ…。 鈴仙は、幻想郷からは一度も出てなかったんだっけ?」 「うん、ずっと竹林に居たわ。 人里だって、永夜異変以前は行った事が無かったもの」 「退屈じゃなかった?」 「ううん、全然! 毎日師匠の手伝いとてゐのいたずら、それに姫の気まぐれに付き合う日々だもの! 退屈する暇なんて無かったわ!」 本当に楽しそうに、鈴仙は笑顔で語る。 「そっか、それは確かに退屈してる暇はないな。 むしろ体が持つかどうか心配だ」 「あはは、ほんとよね。 まあ、最近はてゐのいたずらも落ち着いたけどね」 「へぇ…」 そうか…伊達に兎をまとめてないな。 鈴仙に月のことを忘れさせてやるのも、兎の長としての役割ってことか。 …少し御土産サービスしてやるか。 「あ、そういえば、向こうでは○○の実家に泊まるの?」 「いや、ホテルを紫さんに頼んだよ。 実家への連絡が取れなかったからね」 「そっか、ちょっと残念かな」 「まあ、急に帰って来られても困るだろうし。 それに、ホテルは温泉付きだぜ?」 「あっ、私温泉初めてかも!」 「そういや、幻想郷の温泉っていうと、霊夢のとこに最近沸いたのぐらいしか無いのか」 「うん、でも、まだ行ったこと無いのよね。 最近、ちょっと忙しかったし」 「季節の変わり目は体調崩す人多いからなぁ…」 皆さんも、体調管理には気をつけましょう。 体調を崩しても、鈴仙や八意先生のような美人に出会える確率は0に等しいですから。 「ん、そろそろ青函トンネルだな」 「トンネルって、景色が無くて寂しいのよね…耳は痛いし」 「ここで残念なお知らせだ」 「え…?」 「青函トンネルは、世界最長のトンネルでございます」 「うー、聞きたくなかった…」 「ま、後は終点まで寝ちゃうのも手だね」 「そうしよっかな…」 ぽふっ 「ま、そうなるよな」 「えへへ、肩貸してね」 「喜んで」 もたれかかってくる鈴仙の感触を味わいながら、俺は今までのことを思い出していた。 幻想郷に迷い込み、闇雲に歩いていた竹林で初めて鈴仙に出会ったこと。 結界の不安定さと紫さんの冬眠が重なって外に帰れず、人里で暮らし始めたこと。 その家が隣家の火事で燃えて途方に暮れたこと。 住み込みで、永遠亭の支店として作られた薬局で働くことになったこと。 その縁で、鈴仙と再会したこと。 時を重ね、思いを重ねた日々のこと。 そして、とんでもなく恥ずかしい告白のこと。 「…一つの奇跡だよな…」 「…ふぇ?」 何気なく呟いた言葉だったが、鈴仙を起こしてしまった。 「ああ、ごめん、起こしちゃったか」 「ん、いいよ。 …それで、奇跡って何?」 「聞こえてたか…」 「うん」 「…鈴仙と、二人で旅行するような仲になるまでを思い出してたんだよ」 「色々あったわよね…。 もっとも、あの恥ずかしすぎる告白でほとんど霞んでるけどね」 「あれは、その、なんだ…うん…」 「○○、真っ赤だよ?」 ニヤニヤしながら、鈴仙が俺の顔を覗き込んでくる。 「うるさいなぁ、そんなうるさい口は」 ちゅ 先に塞がれた。 「塞いじゃうよ?」 「塞がれちゃいましたよ」 「ふふ…。 ねぇ○○、初めて私と会った時のこと、覚えてる?」 「ああ、俺が幻想郷に迷い込んだのが竹林だったからな。 あの時、鈴仙を見て、声一つ掛けられずに固まってたんだよな」 「…違うよ、○○」 「え?」 「あの時、○○は一言、喋ってたよ」 「え…何て?」 「ふふっ、教えな~い!」 「ぐあー、めっちゃ気になる! 頼むから教えて!」 「教える必要はないもの。 ○○は、ちゃんと覚えてたから」 「え…」 「ねぇ、私は○○にとって、どんな存在かな?」 「どんなって…あ…」 ああ、あの時、俺は『思った』んじゃ無かったんだ。 呟いていたんだ。 「そうだな、女神様、かな。俺だけの」 「ほら、覚えてた」 そう言うと、鈴仙は再び唇を重ねてくる。 俺もそれに応える。 …願わくば、この女神と末永く添い遂げられますように。 ~次は函館~ ─────── ~終点、函館です~ 「ん~、やっと着いたな」 「流石にちょっと疲れたわね」 「座りっぱなしだったしなぁ…」 やっと到着、北海道。 さすがに気温もかなり低い。 俺はバッグから上着を取り出す。 「鈴仙、上着は?」 「う…こんなに寒いと思わなかったから…」 「説明不足だったか…とりあえず俺のを着ててくれ」 「ごめんね、○○」 「いいから、そこらへんのデパートで上着探そう」 「うん」 俺の上着は、鈴仙にはちと大きい。 肩幅は違いすぎるし、袖は長くて指先がちょっとだけ出る感じだ。 …これはこれで可愛かったりする。 とりあえず、駅の目の前のデパートで上着探し。 が、ちょっとここで別行動だ。 「鈴仙、ちょっと先に行っててくれるか?」 「どうかしたの?」 「車内で買った土産、全部スキマ送りにしてくるわ」 「そうだね、ちょっと買いすぎたものね。 それじゃあ、売り場に居るから早く来てね」 「おう」 「ナンパされる前にね」 「ちょっと光速超えてくる」 急いで宅配便に荷物を預け、売り場へと走った。 が、どうにも鈴仙が見当たらない。 「ありゃ…どこだ?」 「○○、こっちこっち」 「おー、って、そっち紳士物だぞ」 何で紳士物の方に居るのかと… そして、何故に紳士物を持ってるんですかこの子は。 「はい、○○の」 「俺のって…何故?」 「○○の上着、気に入ったから頂戴?」 「んー、それは構わないけど、でかすぎるだろ?」 「いいの、○○の匂いがするから…大好き」 「…鈴仙、あんまり可愛いこと言うな、照れる」 「いいじゃない、すぐ赤くなる○○も可愛いわよ」 「ぐ…からかいすぎだぜ…」 「さっ!上着も買ったし、ホテル行こ!」 腕を絡ませてくる鈴仙を連れて、外のタクシー乗り場へと向かう。 …今日は暑いな。 「湯の川の、このホテルまで」 「あいよ、いいねぇ、綺麗な彼女連れて温泉かい」 「ああ、羨ましいだろう?」 「いやまったく、これだけの美人はめったに見ないよ。 兄ちゃんは並なのになぁ」 「一言多いぜ、運ちゃん…気にしてんだから」 「ははは、こりゃ失礼」 田舎特有なやり取りも終わり、紫さんが予約してくれたホテルのメモを見た運転手は迷い無く走り出す。 「ねぇ○○」 「ん?」 「私は○○の優しい顔、大好きだよ」 「だから、あんまり照れることを言うなと…」 「それじゃ、旅行中はずっと真っ赤な顔かもね?」 「……」 無理矢理鈴仙を抱き寄せる。 これで俺の顔は見えないだろう。 「これなら顔を見られないから大丈夫だな」 「そう?心臓がすっごいドキドキしてるけど?」 「う…」 むしろこっぱずかしかったりしたわけで。 「…(致さないだけマシだが、この空気は勘弁してほしいわ、ほんと…)」 そしてその空気は、運転手が苦笑いするぐらいには甘かったようだ。 「はい着いたよ」 「お、ここか。 はい、釣りはとっといて」 「毎度、良い旅を」 ホテルに到着した俺と鈴仙は、とりあえずチェックインを済ませるためにフロントに向かった。 「予約していた○○ですけど」 「はい、お待ちしておりました。 こちらにサインをお願いします」 「はい…っと、これでいいかな」 「それでは、そちらのボーイがご案内いたします」 「あの…」 「はい、何でしょうか?」 「鍵が一つみたいですけど…」 「ご予約はダブル一部屋と承っておりますが…」 「ああ、そう…」 やられた、スキマじゃ!スキマの仕業じゃ! …いや、予感はしてたんだが…ツインじゃなくてダブルですか。 つまり寝るときは鈴仙と同じベッドでございますですことよ? KENZENな男に我慢ができるとか思ってやがるんですか紫さん! いいや思ってないからダブルにしただろ絶対! 「ねぇ○○、ホテルの用語って知らないんだけど、ダブルって?」 「あー、部屋のベッドのタイプだよ。 ダブルは二人用が一つ」 「…そう…そっか…うん…」 「あー…その、別に部屋取ろうか?」 「ううん、いいよ」 「……そっか」 それ以上、言葉が続かないまま、部屋の前に到着した。 「こちらの御部屋になります」 「どうも」 「では、失礼致します」 素っ気無い挨拶だが、素早く戻っていくところを見ると、空気を読んでくれたのだろう。 部屋の中に入ると、本当にダブルベッドが一つだった。 手前がベッドのある洋室で、奥には和室がある。 なかなか良い部屋だ…普通、ツインあたりにして、ダブルにはしないような間取りだが。 「さてと、とりあえず温泉かな」 「……うん」 「クローゼットに浴衣があるから、着替えて行こう」 「うん…あ…」 「ん?……あっ、俺、バスルームで着替えてくるわ!」 「あっ、ご、ごめんね、○○…」 慌ててバスルームに入り、浴衣に着替える。 …着替える時どうするかすら、まともに考えられないぐらい緊張してるとは、情けない。 温泉で落ち着こう… 「○○、もういいよ」 鈴仙の声が聞こえたので、バスルームの外に出た。 そういえば、鈴仙が和装してるのって初めて見たような… 「……」 「…○○?」 「あ、いや、綺麗だと思って、ちょっと見とれてた」 「ふふ、ありがと」 「さぁて、温泉に入ろう。 電車のせいで、体がガチガチだ…」 「うん!」 部屋を出て、大浴場に向かう。 途中、男どもの視線が非常に痛かった。 大浴場の前に着き、俺と鈴仙はロビーで待ち合わせることにして、各々男湯と女湯に入った。 体を洗い、露天風呂で手足を思いっきり伸ばす。 固まっていた体がほぐれていき、気持ちも大分落ち着いてきた。 「…そういや、家族には何て言えばいいんだろう…」 一応、幻想郷に留まることになった際、手紙程度の物ならば外に出せるということで頼んではいたが… その手紙には当然、連絡先なし、何をしているのかも書かれていない物だった。 更には俺が筆不精であることを、当然家族は知っている。 下手をすれば、誘拐か何かと間違われて捜索願が出ているかも知れない。 「まあ、何とかなるか…」 陸の孤島で医療関係の手伝いをしているとでも言えばいいか… …実際、嘘じゃないんだよな、これ。 鈴仙は、普通に彼女だって言えばいいな。 『人間の』彼女じゃないけどな。 月の兎だとか言ったら、病院に連れて行かれそうだし。 月を見上げ、大きくため息をついて俺は湯船から上がった。 「さすがにまだ居ないか…」 ロビーにはまだ、鈴仙の姿は無い。 まあ、女の風呂は長いものだ。 鈴仙は髪も長いしな。 自動販売機で飲み物を買い、ゆったりとしたソファでくつろぐ。 しかし…さすがに…疲れた…ねむ… ……………………………………… ぺとっ 「ひゅいっ!?」 「ぷっ、何よその声、変なの!」 「れ、鈴仙…首筋にジュースは止めてくれよ…」 「だって、呼んでも起きないんだもの…」 「ん…そんな深く眠ってたのか…」 「疲れてるなら、もう寝ようか?」 「いや、一眠りしたせいか、頭はすっきりしてるよ。 それより、腹が減った…」 「じゃあ、部屋にご飯運んでもらって来るね。 ○○は先に戻ってて」 「ああ、ありがとう、鈴仙」 言われるがままに、部屋に戻り、鈴仙を待つ。 和室の方から外を見ると、一面の海と、ぽっかりと浮かぶ月。 「…鈴仙の故郷…か…」 とても俺が行ける場所では無い。 いや、鈴仙も帰ることは… トントントン ドアをノックする音が聞こえる。 鈴仙が戻ってきたんだろう。 和室からドアへ向かい、鍵を開ける。 「おかえり、鈴仙」 「ただいま、○○。 三十分ぐらいしたら運んでくるって」 「そっか、それまではのんびりしとくか」 「うん」 再び和室に戻り、足を伸ばす。 鈴仙は座椅子にもたれかかり、月を見上げている。 「明日は○○の家に行くのよね?」 「ああ、そのつもり。 驚くだろうな、こんな可愛い子連れて急に帰ってくるんだから」 「どこからさらってきた!とか言われたりしてね~」 「…ほんとに言われそうだ…」 「その時は『羽衣を無くしてしまって』とか言おっか?」 「どこのサタデーナイトフィーバーな人だよ!」 「あの人も天女とは違うわよ?」 「あれ、そうだっけ?」 「って、けーねが言ってた」 「ぉぃ」 「ふふっ」 トントントン いつものようなくだらない会話をしていると、ドアをノックする音がした。 「おっ、お楽しみが来たな」 ドアを開けると、二人のボーイが食事を中に運んでくれた。 …なんだそのでかいホットプレートは。 「こちらは鮭のチャンチャン焼きです。 このまま十分ほどしましたら出来上がりになります。 鮭の身を軽くほぐして、野菜と混ぜて御召し上がりください」 …二人で半身かよ。 とりあえず、ボーイは帰っていった。 「でっかいね、これ…」 「軽く四人前はあるはずだぞ、これ…」 「ああでも、いい匂い…」 「さて、焼けるまで、他の物でも…」 「海産物がいっぱい…幻想郷じゃ絶対食べられないわね」 「ああ、たっぷり食って帰ろうぜ。 次はいつ来れるかわかりゃしないしな」 「うん!」 久々に堪能した海産物はどれも美味しかった。 鈴仙も同じ様子で、一口ごとに顔をほころばせていた。 「○○、美味しい物食べて育ってたんだね~」 「さすがに毎日こんなに豪華なのは食ってないけど、まあ、食い物は美味かったな。 鈴仙のとこはどうだった?」 「…こっちに来て、覚えた言葉で表現すると 『兵隊の料理は、インディアンよりも多くの兵を殺す』ってとこね…」 「……苦労してたんだな」 「まあね…」 料理を堪能し、満腹になった俺たちは、のんびりとお茶を飲んでいた。 食器類も片付けられ、後はもう寝るだけだ。 「っは~!満腹!」 「美味しいから、ちょっと食べ過ぎちゃったね~」 「あ、鈴仙、おなかのとこ膨らんでる」 「嘘!?」 「嘘」 「ぶ~!」 皆へのおみやげは何にするだとか、どこを見に行こうだとか、そんな話がしばらく続いた。 時折月を見上げる鈴仙。 その顔に憂いの影は見えない。 むしろ少し微笑んでいるようにも見える。 さっきうっかり月での話を振ってしまったので、少し不安だったのだが大丈夫なようだ。 「さてと、そろそろ寝よっか、○○」 「ん、ああ、もう11時過ぎてたのか。 それじゃ、寝るか」 和室から洋室へ移動して、さて寝ようかと思ったが。 「「あ」」 俺も鈴仙も固まってしまった。 そうだった、ダブルだった、この部屋…。 「…鈴仙、一緒でいいか?」 「……うん」 二人でベッドに入る。 あれ…枕が、一人用が一つしかないぞ… 「ま、枕ちっちゃいね…」 「そ、そうだな…」 二人とも頭を乗せようとすると、自然に横向きになる。 御互いの方を向いて。 「鈴仙…」 「○○…」 どちらからともなく唇を重ねた。 いつもの軽いキスではない、互いを求めるようなキス。 気が付けば、俺は鈴仙を抱きしめていた。 細くて小さくて、強く抱きしめれば折れてしまいそうなその体を。 「鈴仙、いいか…?」 「うん…」 返事を確かめると、再び唇を求め合う。 俺は鈴仙の浴衣をゆっくりと脱がし は~い~そっこっまっでっよ~♪(某DQの宿屋の音で) 朝だ。 外はすっかり明るくなっている。 既に鈴仙は起きているようで、シャワーの音が聞こえてくる。 まずい…鈴仙の顔がまともに見れそうに無い。 …シャワーが止まった。 今は体を拭いているところだろう。 しばらくして、カチャリとバスルームのドアが開く。 先に声を掛けよう。 あんまりうろたえていたんじゃ、情けない。 …俺を受け入れてくれた鈴仙にだって、悪いしな。 「おはよう、鈴仙」 「おはよう、あ・な・た♪」 「ぶっ!?」 「あははははは! すごいすごい!あっという間に真っ赤になった!」 「……」 「あははは…○○?」 「……」 「あ…怒った?」 「……」 「な、何か言ってよ、○○…」 俺は一気に間合いを詰め、唇を塞ぐ。 「んっ!?」 「ぷはっ…うるさい口は塞ぐに限る」 「ふふ、今日は塞がれちゃったね」 「さ、今日は俺の実家に行くんだ。 とっととメシ食って出発するぞ」 「うんっ!」 「ま、ちょっと予定は変わったけどな…」 「何かあったっけ?」 「彼女じゃなくて、嫁を紹介することになったなって」 「…本当にいいの?私で…」 「『あなた』とか呼んでおいて、今更それは無しだぜ? 俺は鈴仙以外を嫁にする気は無いんだからな」 「…私だって、○○じゃなきゃ嫌だからね!」 そう言って微笑む鈴仙を、朝日が照らす。 長い髪がきらきらと輝くその姿は、とても綺麗だった。 ──────── ~実家前~ 「さてと、ここが俺の家だ。 まあ、何の変哲も無い普通の家だな」 「ご家族は何人?」 「ああ、俺以外は両親に兄貴だ。 多分まだ結婚はしてないだろう」 「お兄さんがいたんだ?」 「そういや、家族の話ってしたこと無かったか。 まあ、親はまともだから大丈夫だ」 「…お兄さんは?」 「たまにハイテンションモードに突入して帰ってこなくなる」 「そ、それは何とも…」 「さてと、いつまでも家の前に居ても仕方ない、入ろうぜ」 「うん」 引き戸をガラガラを開け、中に入る。 奥で人が動く気配があった。 「は~い、どちらさま~?」 「俺~」 ドタドタドタドタドタドタ! ものすごい勢いで走ってくる両親。 鈴仙の耳が、ぴーんと立ってしまっている。 そりゃびびるよな… 「○○!あんた、あんな手紙一つで行方くらまして!今までどこ…」 「○○!はお前をこんな親不孝者に…」 怒声がぴたりと止まった。 その視線は、隣にいる鈴仙に注がれている。 「ああ、紹介するよ。 『嫁』の鈴仙だ。まだ籍は入れてないけどな」 「はじめまして、鈴仙と言います」 「あんた…」 「お前…」 「驚いたかい?」 「「どこからさらってきた!この犯罪者めが!」」 「怒鳴るなハモるな息子を信じろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」 「…ぷっ…あははははははははははは」 「鈴仙も笑ってないで何か言ってくれよ…」 「すいません、実は大事な羽衣を○○に隠されてしまって仕方なく…」 「ほんとにそのネタ使うなよ!」 「あーらあら、息ぴったりねぇ」 「うーむ、こんな美人の嫁を見つけてくるとはなぁ…私がもっと若ければ…」 「親父、手出したら髪の毛全部毟るからな」 「出すか、馬鹿者。 まあ、立ち話も何だ、早く上がりなさい」 「それじゃあ、お邪魔します」 「遠慮はいらないぞ、ここも自分の家なんだからな?」 「そうそう、何でも言ってね! うちのダメ息子と一緒になってくれるなんて、ほんと神様みたいな子ねぇ」 「いやまったく、こんなダメ息子のどこがいいんだか…ありえないくらいの美人だというのに…」 「おまえらが育てた結果がこれだよ!」 馬鹿みたいな親子の会話を、にこにこと見ている鈴仙。 …まあ、いいのかな? 家の中に入り、居間で一息つく。 荷物も特に無いので、母さんは茶を淹れに行った。 鈴仙が手伝おうとしたのを、俺と親父と母さんの三人で止めた。 その時、三人で『いいからいいから』と思いっきりハモったのに、鈴仙が吹き出したりした。 「あはは、ほんとに家族、って感じね」 「こればっかりは、どうにもならないなぁ…」 「はっはっは、まあ親子の証明みたいなもんだ。 鈴仙ちゃんの家はどんなだい?」 「あ、えっと…」 「親父」 「ん…おおそうだ、昨日作ったチョコケーキがあったな、持ってこよう」 「えっ、お父さんが作ったんですか?」 「何故か菓子作りが上手いんだ、この親父は…」 「母さんが美味い料理を毎日作ってくれるのに、何も出来ないのも情けないと思ってなぁ。 作り始めたらハマってしまったんだよ、これが」 親父は笑いながら、台所にケーキを取りに行った。 「すごいね、お菓子って難しいのに…」 「確かにな…市販の菓子とかも普通に食ってたけど、結局親父の菓子に落ち着いたもんな」 「ねぇ○○」 「ん?」 「○○は、私に何か作ってくれる?」 「んー…作れる物は一つあるけど、今は内緒」 「どうしても内緒?」 「びっくりさせたいから、内緒」 「それじゃ、びっくりさせてくれるの、待ってるからね」 「おう」 奥から母さんと親父が出てきた。 お茶とケーキを楽しみながら、これまでのことを話していた。 無論、幻想郷を僻地に置き換えて、だが。 ガラガラと戸の開く音が聞こえた。 恐らくは兄貴だろう。 「ただいま…って、○○、帰ってたのか! …ちょっとまて。 何だその子は…」 「!」 兄貴が何故か訝しげな顔で鈴仙を見た。 鈴仙が一瞬、びくりと体をふるわせた。 次の瞬間、鈴仙は耳の無い、黒髪黒目の姿になっていた。 「ああ、俺の嫁の鈴仙。美人だろ?」 「あ、ああ、そうだな…」 「鈴仙、これが兄貴。 って言っても、双子なんだけどな」 「は、はじめまして、お兄さん」 「ど、どうも…」 やはり何かおかしい。 待て、鈴仙が俺にも黒髪黒目に見えるということは… 「あ、○○、ちょっといい?」 「ん、おう」 鈴仙に連れられて、居間の外に出る。 この様子だと恐らくは… 「○○、お兄さんなんだけど…」 「波長が俺と同じ、だな?」 「う、うん。咄嗟に波長変えたけど、どうしよう…」 「このまま通す。 それしかないだろ」 「うん…わかった」 「とりあえず、トイレ行って来い」 「へ?何で?」 「他の家族には聞きづらいことだし、俺を連れ出した理由になるだろう?」 「了解」 「ところで鈴仙」 「何?」 「その姿もいいな」 「…誉めても何も出ないからね」 「傍に居てくれれば、それでいいよ」 「もう…こんな時まで…」 そうは言いつつも、鈴仙は少し笑っていた。 鈴仙がトイレに入るのを見届け、俺は居間に戻る。 「おかえり、どうかしたの?」 「さすがに聞きづらいだろ、トイレの場所は」 「ああ、うむ、確かに」 「…○○、あの子はどこの出身だ?」 「そういや出身は知らないな。 都会の方だとは言ってたけど」 「変わった髪の色だったからさ」 「…兄貴」 「何だ?」 「日本人はほとんど黒髪だぞ?」 「耳は横に生えてるもんだぜ」 「兄貴、そりゃそうだろ…。 何か変なゲームにでもハマってるのか?」 「…いや、いい」 親父と母さんは、不思議そうな顔で兄弟の会話を聞いている。 無理も無い、二人には最初から黒髪黒目の鈴仙しか見えていないんだから。 鈴仙が戻ってきた。 午前中に軽く観光してきたので、そろそろ夕方になる。 今日は家で食事をすることになった。 というか、そのつもりで午前中は観光していたんだが。 「それじゃあ、私とお父さんは買い物に行ってくるからね」 「今日は私も腕を揮わせてもらうかな、はっはっはっは」 親父と母さんは買い物に出かけた。 つまり、ここに居るのは、俺と鈴仙、そして、兄貴。 「…邪魔なのが居なくなったから率直に聞くぞ。 鈴仙さん、あんた人間じゃないね?」 「……」 「兄貴、まじで頭大丈b」 「誤魔化すとき、最初に『兄貴』って呼ぶ癖はそのままだな」 「……双子だもんな、ごまかしは無理か。 紫さんに何て言われるか…」 「…鈴仙さん、やっぱり、人間じゃないんだね?」 鈴仙は、波長を戻したようだ。 紫がかった銀髪が、目に眩しい。 「……はい、私は玉兎、月に住む兎です」 「そうか…で、何故弟を誑かす?戯れに家族離散でも演出するつもりか?それとも心臓でも喰らうか?」 「いい加減にしろ兄貴! 俺と鈴仙は…!」 身を乗り出して、兄貴の胸倉を掴む。 俺のどこにそんな力があったのか、兄貴の体が一瞬浮き上がる。 「○○、待って。 私から、全部話すから…」 鈴仙の言葉に、仕方なく手を話す。 兄貴は少し咽ていたが、すぐに呼吸を正す。 「殊勝だね…化け物なのに」 「兄貴…!」 「○○、抑えて…お願い。 …ええ、確かに地上の人間からすれば、私は化け物です。 でも、私は同時に人間から逃げ出した逃亡兵です。 月と人間が争ったときに、恐れをなして逃げ出した…情けない逃亡兵です」 「……」 「…鈴仙」 「私は地上で信頼できるある方と出会い、その方に匿われました。 その人の下で薬の勉強をしながら、生活していました。 …○○と出会ったのは、それから数十年経った、これといって何も無い日でした。 竹林に迷い込んだ人間…○○が居たので、気まぐれに竹林の外まで誘導しました。 …その時、○○が言った言葉が耳から離れないまま、ある日○○と再会した時、そこからです。 私の心から、○○が消えなくなったのは」 「鈴仙……」 俺も初めて聞く、当時の鈴仙の心境。 兄貴は、目を閉じて何も言わない。 「当時○○が住んでいた家が燃えて、○○が困っていた時です。 永遠亭の出張所としての薬局が完成したのは。 御互いの利害の一致ということで、○○は薬局に住み込みで勤めることになりました。 私は、永遠亭から薬の補充に、その出張所に通うことになりました。 そこに行けば○○に会える。 いつからか、それが目的になっていました」 鈴仙の独白が続く。 その表情は、寂しげで、嬉しげで、何とも不思議な表情だった。 「私の薬の勉強の目的が、いつのまにか師を超えることから、別の目的に変わっていました。 ○○が私と同じ時間を過ごせるように…そう、変わっていました。 当時まだ、○○の気持ちを確認できていない時でしたから、ただの一人よがりでした。 人間と玉兎の寿命の差、それを埋める事のできる薬…それが今の目標になっています。 私は、自分勝手な兎です。 ○○の意思なんて分からないのに、そんな勉強を続けています。 …○○が好きだから、添い遂げたいから…」 鈴仙の目から涙が溢れる。 気が付けば、俺は鈴仙を抱きしめていた。 強すぎるくらいに。 「…兄貴、文句があるなら、殴る」 「……馬鹿野郎が…」 「……」 「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! こんな可愛い子とデキてるとかふざけんな○○ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! しかも人外!?兎さん!?さらには一途な乙女で美人だぁ!? ふざけんじゃねぇぞゴラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」 「ふぇ!?何?何!?」 「いやちょっと待て兄貴!とりあえず落ち着け!」 「落ち着けと申したか?落ち着けと申したか!? この異常事態に落ち着けるかボケナスがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 双子だぞ!?ほとんど同じなんだぞ!?何でお前だけこんなパーフェクトな女性と!? おかしいだろ?おかしいだろ!俺には彼女だって居ないんだぞ!? なのに、なんで、お前、○○だけ、銀髪で、うさみみで、美人で、スリムビューティな彼女が居る!? さぁ答えろ!さぁ応えろ!答えは?何だ?ファイナルアンサー!?」 「……そんなテンションじゃ、女の子は皆逃げますよ…」 「げふうっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 鈴仙のファイナルアンサー。 こうかはばつぐんだ。 俺と兄貴の違いは、確かにこのハイテンション程度なものだ。 そして、それが正に境界となっていることを、鈴仙がさくっと言ってしまった。 俺も黙ってたのにね…。 「…兄貴、大丈夫か?」 「あっはっはっは…ある意味大丈夫だ」 「ご、ごめんなさい、まさか、そこまでショックだったなんて…」 「いや、むしろありがたいよ。 今まで誰一人言ってくれなかったしね。 ここに気をつければ、彼女ぐらいできそうだ…」 「どう足掻いても鈴仙以下だとは思うけどな」 「やかましい! …くそう、お前じゃなくて俺がそっちに行っていれば…」 「そのテンションは向こうでもドン引きだわ」 「まじで?」 「まじで。」 「……あっはははははははははははは!」 「…鈴仙?」 「ご、ごめん…くっ…ふふふふふふふふふ」 鈴仙はすっかり笑い転げてしまい、とても会話できそうに無い。 …そんなに面白かったか…? 「兄貴、俺は鈴仙を」 「言うまでもねぇよ。 立場が逆なら、って考えたらな」 「誰にも言うなよ?」 「俺が病院送りになるだろうが」 「まあな」 「…こっちには帰らないんだろ?」 「ああ、悪いけど、親父と母さんは頼むわ」 「分かった」 「一時帰省も、いつ出来るか分かんないんだ」 「今回は特別ってことか」 「すまない」 「その子、大事にしろよ」 「言われなくても」 「鈴仙さん」 「はっ…はい…」 まだちょっと笑いすぎて苦しそうな鈴仙に、兄貴が声を掛ける。 「弟を、よろしくお願いします。 それと、できれば甥か姪の顔を見たいので…」 「ちょ、兄貴!?」 「はい!頑張ります!」 「鈴仙!?」 「え!?…甥とか姪……あっ!?」 「あっはっはっはっはっは! それじゃあ、楽しみにしてるぜ! それとも、既にお楽しみでしたか?」 「あい、いや、えと、その…」 「ああ、お楽しみだぜ?」 「……それは羨ましいわ、まじで」 「ま、○○っ!」 鈴仙のぽかぽかぱんちが連続ヒットする。 その様子を、兄貴が羨ましそうな顔で見ていた。 結局、最初のフリは、あまりにも妬ましいのでついやってしまったのだそうだ。 よくよく考えてみれば、双子だけあって女性の好みは二人ともほぼ一緒だったのだ。 羨ましくないはずは無いわけで。 ちなみに人外大歓迎らしいが、紹介する気は全くないと言ったら本気で凹んでいた。 しばらくして、親父と母さんが帰ってきた。 台所に向かい、料理を始めようとする二人を鈴仙が手伝おうとしたので止めた。 今度は四人で『いいからいいから』と見事にハモり、再び鈴仙が吹き出したのであった。 「はー美味かった。 久々に母さんの唐揚げも食えたし、満足!」 「うん、ほんと美味しかった! 私ももっと勉強しないと駄目ね…」 「そうか? 鈴仙の料理はかなり美味いぞ?」 「そういえば、差し入れのお弁当残したことないよね?」 「正直、ちょっと量は多いけど、それでも食えるぐらい美味しいってことさ」 「ふふ、そう言ってくれると嬉しい」 「毎週のお楽しみだからな、鈴仙の弁当は」 「ありがと、でも、やっぱり何か覚えたいな…。 お母さん、私に唐揚げの作り方、教えていただけませんか?」 「お母さんか…いい響きねぇ…ええ!それじゃ、明日教えてあげるわ! あと何日かはこっちに居るんでしょ?」 「はい、お願いします!」 「いいねぇ、若い娘さんは…」 「…ほんとにいい嫁貰いやがって、ど畜生めが…ううっ…」 お母さんと呼ばれてご満悦の母さん、満足げな顔をしている親父、俯いてしまって顔の見えない兄貴。 反応はそれぞれだが、鈴仙のことを快く迎えてくれている家族。 感謝をしつつも、次にいつ戻れるとも知れぬ自分の親不孝ぶりに少し罪悪感を持った。 「さてと、そろそろホテルに戻るか」 「帰るの面倒じゃない?泊まっていってもいいのよ?」 「おまえ、若い二人には二人だけの時間が必要なんだよ」 「いやここは俺が○○の変わりに鈴仙さんと「殴るよ?」ゴメンナサイ」 「あはは…すいません」 「明日は朝から来るよ。 鈴仙が唐揚げ作ってる間に、頼まれた土産だけ買って送ってくるわ」 「あー、何かすごい量頼まれてるんだっけ?」 「ああ…ものすごい量、な」 「安心しろ○○、明日は俺が鈴仙ちゃんに「手出したら墓場な」スマンカッタ」 「実力行使は私がしますね♪」 「鈴仙ちゃん!?」 「はっはっは、いや、なかなかに頼もしい」 そんな会話をしていると、タクシーが到着したようだ。 俺と鈴仙はタクシーに乗り、ホテルへと戻った。 「ふう、何か無駄に疲れたなぁ…兄貴のせいだな、うん」 「あはは…でも良かった、いい人達で」 「そう言ってくれるとありがたいよ。 …最初は本気で殴りかかりそうになったけどな」 「…ありがとう、○○」 「ん?」 「あの時、本気で怒ってくれたとき、ちょっと嬉しかったの。 …もしかしたら、○○にもそんな目で…って、少し考えちゃって」 「それは未来永劫無いから安心してくれよ。 でもさ…鈴仙があそこまで想っててくれるってのが分かったのは、ある意味兄貴のおかげかな」 「あ…」 「薬、できれば早いとこ作ってくれよ? 俺だって、鈴仙を残してこまっちゃんの世話にはなりたくないからな」 「うん、頑張るけど…出来たとして、本当に飲んでくれる?」 「当たり前だ。 鈴仙がずっと一緒にいてくれるなら、って条件は付くけどな」 「…○○」 鈴仙が俺の背中に手を回してくる。 俺も鈴仙の背中を優しく抱く。 「鈴仙は暖かいな…」 「○○もあったかいよ…」 そうして、御互いのぬくもりを確かめ合う。 異なる種族、違いすぎる寿命。 でも、このぬくもりは、変わらない。 しばらくして、どちらからともなく体を離す。 …少しぶっちゃけると 「さすがに暑いね、冬服で抱き合うと…」 「だな…ちと汗かいた」 「私、温泉入ってくるね」 「ああ、俺も鈴仙の上がりに合わせて入ってくるわ」 「それじゃ、ロビーでね」 そう言うと、軽くキスをして鈴仙は温泉に向かった。 「さてと、俺も浴衣に着替えるか…」 プルルルルル プルルルルル 「電話…何となく予想はつくというか、どのみち話さないとならんしな」 ガチャ 「はぁい、ゆうべはおたのしみでしたわね」 「ええ、紫さんが『特注』してくれたダブルベッドのおかげですね」 「あら、やっぱり気付いてた?」 「家具の配置が少し不自然に感じたんで。 で、どうしましょう…」 「今回は不慮の事故だし、お兄さんの記憶を少しだけいじるわ」 「すいませんが、お願いします」 「お代は松前漬けでいいわよ」 「了解です。 あ、スキマ運送で無理なことって何かあります?」 「何も心配しなくても良いわよ。 量もいくらでも、保存温度も完璧にしておいてあげるから、一杯送って頂戴」 「分かりました。 じゃあ人参百キロと昆布七百枚と鮭とば五十匹分とかも大丈夫ですね?」 「…永遠亭直送で良いかしら?」 「姫様の部屋直送で」 「ふふ、任せて頂戴。 それじゃあ、いい夜を」 「はい、おやすみなさい」 ガチャ …覗きはアレだが、こういう時は話が早くて助かる。 さてと、とりあえず問題は片付いたな。 懸案事項も片付き、気が抜けた俺はどさりとベッドに体を放り投げる。 それにしても疲れたな…。 明日も大変だからな、主に買い物の量が。 人参百キロ、昆布七百枚、鮭とば五十匹分、スルメ百匹分、いか徳利にいかジョッキに… ……あと……何だっけ… 「やっぱり寝ちゃってたんだ、○○…」 ベッドで眠ってしまった○○の頭を、鈴仙が優しく撫でる。 「いつもは撫でてもらってばかりだし、たまには…ね」 しばらくして鈴仙も寝ようとしたが、ここで少し困ったことが。 ○○が、掛け布団の上で寝ている。 どうしようかと考えた結果、掛け布団がかなり幅広なのを利用して、逆向きに包まることにした。 「ふふ、私達、みのむしみたいよ、○○」 鈴仙が○○の頬にキスをして 「おやすみ、○○」 長い一日は終わった。 ───────── カーテンの隙間から差し込む日の光で目が醒めた。 時計は七時を少し回ったあたりだ。 鈴仙は大丈夫だろうかとベッドを見ると、既に居ない。 …変なとこで寝てないだろうな。 着替えを済ませ、顔を洗い、居間に行く。 居間には親父一人、台所には母さんが居るようだ。 「おはよう~」 「おお、○○、早いな」 「朝日が目に当たってさ…。 そういや、鈴仙は?」 「台所で母さんと一緒に料理中だ。 あれだけ飲んだのに、ケロッっとしてるとは大したもんだなぁ」 「そっか」 鈴仙はどうやら元気らしい。 玉兎は二日酔いしないんだろうか。 「兄貴は?」 「…お前と鈴仙さんが居るうちは、出てこないんじゃないか?」 「あー…」 兄貴、正直すまんかった。 ぼーっとTVを見ていると、奥から鈴仙がお盆を持って出てきた。 今朝は、昨日残った唐揚げを卵で閉じたのとサラダのようだ。 「おはよう、○○。 昨日はごめんね…」 「ん、たまにはいいんじゃないか? 二日酔いもしてないみたいだし」 「でも…思い出すと…ちょっと…」 「あー、記憶、あるんだ…」 それは恥ずかしいだろう。 家族の前でアレだもんな…。 食卓が整い、四人で朝食。 兄貴は母さんが起こしに行ったのだが、本気で眠くてまだ起きてこないそうだ。 「鈴仙、今日はどこに行こうか?」 「うーん…○○とならどこでもいいんだけどなぁ…。」 「それじゃ、赤レンガ倉庫の方に行こうか? あっちじゃ見ない景色だし、店も多いし」 「うん!」 「五稜郭もオススメだぞ」 「おう、兄貴起きたか。 いきなり五稜郭を勧めるあたり、目はしっかり醒めてるみたいだな」 「五稜郭って?」 「カップルは行っちゃいけない所さ」 「ち、知ってたか」 「当たり前だ」 「???」 五稜郭はカップルで行くと別れるという話がある。 とはいっても呪いやら祟りじゃなく、五稜郭は正直タワーから景色を見るぐらいしか無い場所だ。 そんなとこに連れて行ったら、そりゃ、なぁ。 桜の季節なら、また話は違うけど。 「兄貴、一つだけ言っておく」 「何だ?」 「馬に蹴られて死ね」 「正直すまんかった」 「……何が何だかわかんない……」 知らなくていいよ、鈴仙。 食事も終わり、出かける準備を済ませる。 「今日はホテルに泊まるわ。 温泉にも入りたいし」 「あらそう?分かったわ」 「ま、若いんだしな」 「羨ましい…」 「お前ら少しは文面どおり受け止めろ!」 「……(なんかもう慣れちゃった)」 いつものやり取りを終え、やって来たのは赤レンガ倉庫。 古いレンガ作りの倉庫の中に、色々な店が並んでいる。 ちなみに、全部が全部そうなったわけではなく、今でも普通の倉庫として使われている物もある。 「へぇ、何か日本ぽくないのね…紅魔館なんかとも違う感じ」 「貿易港だった所は、大体こんな感じの場所があるね。 横浜とか」 「ふーん…あれ、これ倉庫じゃなくてお店なの?」 「中を改装していろんな店が入ってるんだ。 適当に覗いてみようか」 「うん!」 端から順に店を覗いていこうかと思ったら… …鈴仙さん、あなたはいきなりソフトクリーム食べたいとかこの寒空に何を…って、中は暖かいからいいか。 「ん、おいし♪」 「まさかいきなりソフトクリームとはな…」 「いいじゃない、幻想郷じゃ見かけないんだもん。 ほら、美味しいよ?」 鈴仙は、食べていたソフトクリームを差し出してくる。 …折角なので、ちょっと舐めるか。 「ん、美味しいな。 そういや、いつ以来だろうな、ソフトクリームなんて」 「○○って、甘い物は自分で作ってるよね?」 「まあ、幻想郷で売ってる菓子の大半が親父の手作り以下だからな。 それより美味しいといったら、紅魔館ぐらいでしか食えない気がする」 「あー、分かる分かる! あのチョコケーキ、すっごく美味しかったもん!」 「だろ?だから、俺も自分で作っちゃうんだよ。 いくらか親父に習ってたからね」 「そっか、どうりで手作りでも買って来たものでもハズレが無いわけね。 毎週の楽しみだし、○○のところで食べるお菓子♪」 「それは何より」 ソフトクリームを食べ終えて、倉庫の中を歩き始める。 土産物屋でまりもっこりを見せたら軽く小突かれた。 姫様に送った荷物にも混じってるが、やばいだろうか…。 …何故だか普通のおもちゃ屋とかもある。 多分、子供がねだるのを狙ってるんだろうな。 しばらく見て回っていると、天然石のアクセサリを売っている店があった。 そういえば、きちんとしたプレゼントって、今まで何もあげてなかったな…。 「わぁ、綺麗…」 「…(鈴仙には何が似合うかな…ベタにムーンストーンにするかな…)」 「あ、これ可愛いなぁ…」 「…(ペンダントかな…チョーカーの方が…いや、バレッタか…)」 「ねぇ○○、どれが似合うと思う?」 「…(ああでも、鈴仙の髪なら少し暗い色の石がいいか?)」 「……○○?」 「…はじめてのプレゼントだしな…」 「……♪」 とんとん 鈴仙に肩を叩かれて我に返る。 「ん?ああ、いいのあった?」 「○○が選んでくれるなら、何でもいいよ?」 「でも、俺のセンスでいいのか? やっぱり鈴仙が選んだ方が…」 「ううん、○○に選んでもらわないと…」 「それじゃあ…」 俺が選んだのは、ムーンストーンのネックレスと黒水晶のバレッタ。 ……センス的にどうなのかは知らん。 「あ、プレゼント用に包んでください」 「はい、かしこまりました」 買ったアクセサリをプレゼント用に包装してもらう。 鈴仙は、ニコニコしながらそれを見ている。 包装されたアクセサリを受け取り、それを鈴仙に手渡す。 「はい、今更初めてのプレゼントってのも何だけど…」 「ありがとう、○○…」 「次は指輪かな…」 「えっ?」 「なんでもない」 「……ねぇ」 「ん?」 「待ってるから」 「……ありがとう」 その後も色々と店を見て回った。 …さっきの店から、鈴仙が俺の右腕から離れないまま。 うん、幸せだ。 一通り見て回る頃にはお昼になった。 俺と鈴仙は、ビアホールで昼食を取ることにした。 ここ限定のビールもあるので、きっちり飲んでおこう。 「○○、何にしよっか?」 「とりあえずメニューにあるビール一つづつと…」 「それと北海浜のちゃんちゃん焼きとラムの黒胡椒焼きをお願いしますわ」 「ゆ、紫さん!?」 「ふぇ!?いつの間に!?」 「ふふ、とりあえず注文してから、話はそれからでいいでしょう?」 「「……(多分、食べたかったから来ただけだ……)」」 とりあえず注文を済ませ、先に運ばれてきたビールに口を付ける。 「んー、ビールまで美味しいわねぇ、北海道は♪」 「それにしても、何でここに?」 「美味しい物が食べたかったからよ?」 「まあ、そんな気はしてました。半分だけ」 「彼氏さんはどうしたんですか?」 「……食べすぎでお腹壊して寝てるわ」 「…気持ちは分からないでもないですけどね。 外の方が食べ物は美味しいですし」 「あら、それじゃあ外に残る?」 「鈴仙が一緒でいいなら」 「それは残念、ちょっと無理そうね」 「ですよねー」 「???」 「ま、そういうことで、貴方達はあと三日で戻って貰うわ。 流石に疲れちゃったのよね」 「すいません、本当に…」 「ねぇ○○、話が見えないんだけど…」 「ああ、実はな…」 鈴仙が月から発見されないようにしてもらっていたことを説明中。 「…そうだったんだ…ありがとうございます、紫さん。 でも、○○も言ってくれれば…」 「話すと遠慮されそうな気がしてな。 鈴仙、俺にわがまま言わないから…」 「いいのよ、その分御土産は山のように貰ってるから♪」 「あ、電車で買ってた御土産って…」 「そ、全部私の所の。 その為に陸路を使って貰ったんだもの♪」 「あはは…」 「だから気にするな、その分の仕事はしてるからさ」 料理が並び、食べ始める。 魚介もそうだが、幻想郷で羊って見たこと無いな、そういえば。 …なんか紫さんが鈴仙に耳打ちしてる…。 「そういえば兎さん…」 「は、はい!」 「○○とはどこまでいったの?」 「!?げほっ!げほっ!」 「ゆ、紫さん…ちょっとそれは…」 「ふふふ、ダブルベッドはお楽しみいただけたみたいねぇ」 「!?」 鈴仙が真っ赤になってるけど…何言ったんだよ…。 料理をつつきながら、ビールをガンガン飲む紫さん。 …ちと早くないか? 「紫さん、ちょっと飲みすぎじゃない?」 「別にいいじゃない、美味しいんだから」 「……彼氏は何て言ってたんですか、出てくるとき」 「今の私にそれを聞く度胸は素晴らしいわね…。 …俺は動けそうにないから、一人で観光してきてくれって。 俺は夜までおとなしく寝てるから…なんて言って…。 看病ぐらいするって言うのに、妙に頑固に断ってくるし…。 …それで私も売り言葉に買い言葉で『それじゃあ夜まで貴方はひとりぼっちね!』なんて言って出てきちゃって…」 「女心のわかってない人ね! 好きな人の看病ぐらい、喜んでするに決まってるのに!」 「そうよね! 惚れた男に尽くさない女なんて居ないに決まってるじゃない! なのに彼ったら…ふぇ~ん…」 「あー…紫さん。 ちょっとだけスキマ開いて、ベッド覗いてみて」 「なによぅ、どうせうんうん唸って寝てるだけよ…」 「いいからいいから」 「…しょうがないわね…」 ちょびっとスキマを開いて覗き込む紫さん。 その顔に明らかに驚きが見える。 「……居ないわ」 「やっぱり」 「…どういうこと?」 「大方、買い物でしょう」 「…あっ…」 「一緒に居ると出来ないこともあるんですよ、紫さん」 「……ごめんなさい、私帰らないと…」 「ふぇ?随分急ですね」 「だって、仕事が出来たんですもの。 彼の帰りを待って、戻ってきた彼を抱きしめるっていう仕事が」 「「おお、熱い熱い」」 紫さんはにこにこしながらスキマを開く。 「それじゃあ、失礼するわ。 ごちそうさま、○○、兎さん♪」 「あ、紫さん」 「ん?何かしら?」 「レシピと材料、送っておきます」 「ふふふ、ありがとう。 それじゃあ、外を満喫して帰ってらしてね」 そう言って紫さんはスキマに消えていった。 「○○、気が利くのね」 「本当は二人で食べたかっただろうしね」 「…そういえば、○○は一人で行動してたとき…」 「内緒」 「やっぱり?」 「バラしていい?」 「あっ…だめ」 「耳がうずうずしてるぞ?」 「うー、この話終わり!」 「ははは、ま、そのうち分かるさ」 「……あ……もしかして……」 「え?」 「ふふ、早く欲しいな♪」 鈴仙は、そう言いながら左手の薬指にキスをした。 …普段は結構鈍いのに、そういうとこだけ鋭いのな。 食事も終わり、外に出る。 それからは適当に市内散策。 路面電車に乗って旧い建物を色々と見て回った。 函館八幡宮にも行ったが、よく考えたら神様が居るはずも無い。 そこで、あえて願い事を書いた紙に賽銭を包んで放り込んでみたり。 「ねぇ、○○は何をお願いしたの?」 「内緒~」 「それじゃ私も内緒!」 鈴仙をそっと抱きしめる。 「…ずっとこのままなら、間違いなく願いは叶うんだけどな」 「……なんだ、願い事は一緒なのね」 すっかり日も暮れたのでホテルに戻ろうかと思い、タクシーを止める。 「湯の川まで」 「はいよ」 「……あー、やっぱり山頂に変更」 「ああ、分かりました」 「山頂って、あの山?」 「そ、函館山。 まあ行けば分かるさ」 タクシーは山頂を目指して走って行く。 「夜に山に登るなんて、向こうだったら酔狂でしか無いわね」 「ここは夜に登らないほうがおかしいけどな」 山頂に到着し、俺と鈴仙はタクシーを待たせて展望台に。 「綺麗…」 「函館に来て、これを見ないってわけにはいかないからな。 他には大した物の無い故郷だけど、これだけは誰にでも自慢できるな」 目の前に広がる、美しい夜景。 独特の地形が、それを際立たせている。 「星空が大地に落ちてきたみたい…」 「天上の月、大地の星か…」 「…月は大地の星にに惹かれてその身を落とし」 「…月に焦がれていた星は、その月を受け止めた」 ………… 「……私から初めておいて何だけど、滅茶苦茶恥ずかしい……」 「そして普通に返した俺もものすごく恥ずかしい……」 「じゃあ、おあいこ!」 「そうだな、おあいこ!」 そう言って、御互いに顔を近づける。 俺と鈴仙の唇が、自然と重なる。 何度しても良いものだ、キスというのは。 唇と言うのは厳密には内臓だと聞いたことがある。 もしかしたら、互いの内側を触れ合わせることで、人は心も触れ合わせているのだろうか。 しばらく夜景を眺めながら、今日回った場所や俺の家を探したりした。 そのうち、寒くなってきたのでそろそろ戻ろうかという話になった。 「それじゃタクシーに戻ろうか」 「うん」 当然のように、右腕に絡み付いてくる鈴仙。 そうだ、幻想郷に帰ってしまえば、今のように毎日イチャつくなんて無理なんだ。 今のうちに、たっぷりとこの感触を堪能しておこう。 …それにしても、着やせするよなぁ、鈴仙って… 特に言葉も交わさずに、ホテルに到着した。 鈴仙をずっと右腕に繋いだまま。 「んー、すっかり体冷えちゃった。 私、温泉行ってくるね」 「ああ、しっかり温まってこいよ」 「はーい、○○もちゃんと体温めたほういいよ?」 「俺も後で行くよ」 「それじゃ、ロビーで?」 「いや、また寝そうだから部屋で」 「うん、分かった。 それじゃ後でね」 浴衣に着替えた鈴仙は、温泉に入りに行った。 …今日は、着替える時に風呂場に入ったりしなかったが、向こうを向いててと言われて、背を向けていた。 だが、俺が窓側に居て、鈴仙が内側に居るという位置関係。 …ガラスに鈴仙の姿が映っていたわけで… つい見とれていると、ガラスの鈴仙と目が合った。 鈴仙はその時、少し微笑んでいた。 俺は慌てて目を逸らしたが…鈴仙は何も言わなかった。 温泉に浸かり、体をしっかり温めて部屋に戻った。 まだ鈴仙は戻っていない。 …髪が長いのに、お風呂好きなんだよなぁ、鈴仙。 黎明薬湯なんかに連れて行ったら、いつまでも楽しんでそうだ。 ビールでも飲むかと思い、冷蔵庫に手をかけようとすると、鈴仙が戻ってきた。 「ただいまー」 「おかえりー…あれ」 「ふふ、早速バレッタ使ってみたの。 似合うかな?」 髪を簡単にまとめているだけだったが、鈴仙の髪に黒水晶のバレッタが映えていた。 くるりと回ってみせる鈴仙が、とても可愛く、綺麗だった。 …そして、この間見た浴衣姿と違う場所。 うなじ。 それは普段髪をフリーにしている姿では見えない場所。 「…綺麗だよ、鈴仙」 「ありがと、○○…」 俺は鈴仙を抱きしめ、そのままベッドに押し倒した。 「ごめん…我慢できなくなった」 「もう、仕方ないなぁ…」 そう言いつつも、鈴仙は微笑んでいた。 少し、朱に染まった顔色で。 朝になり、俺と鈴仙は身支度を整える。 ガイドブックを見ながら、今日の予定をあれこれと考えていた。 「ねぇ、今日はどこに行こうか?」 「そうだなぁ、大沼にでも行こうか? 紅葉が見頃らしいし、あっちには美味しい地ビールもある」 「うん、それで決まりね! 早くいこ、○○!」 「おいおい、焦らなくても大沼は逃げないぞ?」 「駄目駄目!明後日には帰らなきゃならないんだもの、少しの時間だって惜しいじゃない!」 「いや、今飛び出してもバスの時間はまだ先だぞ?」 「あ、そっか」 「まったく、あわてんぼうな兎さんだなぁ」 「○○は、あわてんぼな兎は嫌い?」 「世界で一番大好きだけど?」 「…さすがに、ちょっと照れちゃうな…」 「照れてる兎さんも大好きだよ」 「私も、いつもやさしい顔で見つめてくれる○○は大好きだよ」 「……ものすごく照れてしまって鈴仙の顔が見れません」 「それじゃあ、無理矢理にでも見てもらおっかな」 鈴仙は俺の頬に両手を添え、顔を近づける。 「ね…○○…」 「鈴仙…」 「好きだよ」 「俺も、好きだよ」 互いの唇を触れ合わせ、互いの心を触れ合わせる。 この幸せが、いつまでも続くことを願いながら。 ─────── 鈴仙と一緒に、大沼を散策している。 幻想郷で大きな湖と言ったら、紅魔館近くの湖か、妖怪の山のどちらかだ。 紅魔館近くの湖は、いつも霧が立ち込めていて紅葉など楽しめない。 妖怪の山は、そもそも立ち入り禁止だ。 …入れないこともないが、ブン屋に借りが出来そうで嫌だ。 紅葉は幻想郷も非常に綺麗なのだが、湖と紅葉を楽しむのは困難だ。 初めのうちは幻想郷でも紅葉は見れるし、つまらないだろうかと思ったが…。 「綺麗ね…」 「そうだな…」 言葉少なに、ほとりを歩く。 鈴仙は、俺の右腕を抱きしめるようにしている。 こっちに来てから、何となくこれが普通になってしまった気がする。 …幻想郷では、外を歩くときに手を繋ぐだけでもすぐにからかわれたものだが。 「…○○さ、やっぱりこっちに残りたい?」 「その答えは昨日してると思うんだけど…」 「だって…○○は『外は自然が無くて息が詰まる』なんて言ってたけど、ここの景色は幻想郷にだって無いぐらい綺麗じゃない。 幻想郷にあって外に無い物なんて、何も無いじゃない…」 「鈴仙…」 「……」 「答え分かってて、恥ずかしい台詞言わせようとしない」 「ちぇ、残念♪」 ぺろっと舌を出して、微笑む鈴仙。 俺も釣られて微笑む。 その時、風がさっと走り抜けて行った。 風がどこからかさらって来た、紅葉しきった紅い葉が鈴仙の髪に刺さる。 「あっ、髪に…」 「へぇ、上手い具合に刺さったなぁ。 髪飾りみたいで可愛いぞ?」 「本当?それじゃあ、しばらくこのままにしておこうかな。 ふふ、秋の神様の贈り物かな?」 「いや、今は出雲だろ…」 「んもう、何でそこで真面目に答えるかなぁ」 「あーいや、最近神様が身近過ぎたからつい…」 ぷーっと頬を膨らます鈴仙が、とても可愛い。 頬をつつきたくなるが、さすがに我慢した。 そろそろお昼。 どこか適当な店に入ろう。 「うーん…」 「どうした、鈴仙?」 「お弁当作って来た方が良かったかなって。 景色もいいし、外で食事したくなっちゃう」 「でも少し寒いぜ?」 「そうなのよね…今度は夏に来たいなぁ」 「夏か…紫さんに頼んでみるか」 「言い出す前に、扇子でぺちってはたかれそう…」 「うん、俺もそんな気がした」 結局、外にあるテイクアウトの店で食事を済ませた。 こういう開放的な場所だと、ごく普通の食べ物でも思いのほか美味しく感じるものだ。 食事を終え、ベンチで少しのんびりしていると、鈴仙がガイドブックで何か見つけたらしい。 「ねぇ、これ…」 「ん?『イクサンダー大沼カヌーハウス』…? ……いや、あの人とは関係ないだろ」 「…だよね?」 衣玖でサンダーとか、ネタにされそうな名前だ…。 そういえば、遊覧船にまだ乗ってなかったな。 「そうだ、遊覧船に乗ろうか?」 「うん!」 遊覧船乗り場から、遊覧船に乗り込む。 「○○、こっちこっち!」 「おいおい、はしゃぐなはしゃぐな」 「だって、船に乗るの初めてなんだもの!」 「分かったから落ち着けってば」 十分後 「う゛~…」 「鈴仙、大丈夫か?」 「あんまり…」 「まさか船酔いとはな…電車は大丈夫だったのに」 「えう…電車はこんなに揺れなかったもの…」 「少し風に当たるか?」 「うん……少し浮いていい?」 「駄目」 「うー…」 鈴仙を支えながら、外に出る。 まさか、ここまで船に弱いとは思わなかった…。 何せ、空をアクロバティックに飛ぶのも日常茶飯事な兎が船酔いなんて、ねぇ。 「ごめんね、○○…」 「鈴仙と密着してる状態に不満は何一つ無いけど?」 「……私も、ちょっと幸せだったりするけど」 「なら何も問題はないな。 …少しは落ち着いたか?」 「うん、風に当たったら大分すっきりしたわ。 今度は酔い止め持ってこないと駄目ね」 「最初から酒に酔ってると平気らしいぞ?」 「あ、それ手軽でいいわね」 鈴仙は大分回復したようだ。 景色を見る余裕も出てきたようで、さっき二人で歩いた所を見つけてはしゃいでいた。 ほとりから見る景色と、湖から見る景色の違いを楽しみながら、俺たちは遊覧船を堪能した。 「ふー、そろそろ帰るか」 「そうね、まだ日は高いけど、ちょっとはしゃぎすぎちゃた」 「うん、楽しんでくれて何よりだったよ。 最初は幻想郷よりも見劣りするかと思ってたからなぁ」 「それどころか、幻想郷よりも素敵だったと思うわ。 湖と紅葉、この二つをまとめて楽しんだのって初めてだったもの」 「あっちじゃ妖怪の山に登るしかないもんな…。 鈴仙は強行突破できそうなもんだけど、俺がついていけないや」 「じゃあ、強行突破しつつ○○を連れていけるように頑張らないと!」 「やめて永遠亭vs妖怪の山とか幻想郷壊滅しちゃう」 「ふふっ、冗談冗談、そんなのじゃゆっくり楽しめないじゃない」 「まあなぁ。 …あ、ケロちゃんあたりに頼めばいいのか」 「あー…でも…」 「ん?」 「一度フルボッコされてるのよね、あの神様に」 「まじか」 「まじで」 ホテルに到着し、部屋に戻る。 「ふー、今日はちょっと疲れたなぁ」 「そうね、随分歩いちゃったし…。 私、温泉入ってくるね」 「ああ、いってらっしゃい」 ベッドに腰掛けていた鈴仙が立ち上がって歩き出した瞬間、よろよろとふらつく。 「おい!」 「あ…」 咄嗟に鈴仙の体を支える。 軽い体なので俺に負担は無いが…鈴仙に力が入っていないように感じる。 そういう雰囲気でもないというのに、体重を完全に俺に預けてしまっている。 「鈴仙、大丈夫か? 体に力入ってないだろ?」 「ごめん、ちょっと横になるね…」 「もしかして、船酔いで…」 「うん、そうみたい…。 まだちょっと景色が揺れてるみたいで…」 「そういうことは早く言ってくれよ?」 「でも…せっかくの旅行だし…迷惑かけたくなくて…」 「鈴仙が苦しんでるのを見るぐらいなら、旅行なんかしたくないよ。 …俺は、鈴仙が居てくれれば、それでいいんだから」 「○○…。 私、○○が見て来た世界を、もっと見ておきたいの。 ……悪いけど、こっちに居る内は無理してでもいろいろな所に行くから」 「おいおい…」 「…ねぇ、○○」 「ん?」 「甘えても、いいんでしょ?」 「……鈴仙って、聞いてないようで聞いてるよな…」 「ふふふ、おっきな耳は伊達じゃないでしょ?」 「まったくだ」 「だから、私のことを支えてね?」 「わかったよ、鈴仙」 鈴仙の満面の笑みに、俺は少し苦笑していた。 まあでも、こっちに居る内だけだ。 帰ったらゆっくり休ませればいいか。 「あ、ところでさ、○○」 「うん?」 「お風呂に入れてくれない?」 「は!?」 「だって、一人だと転びそうだし、かといってお風呂に入らないのも気持ち悪いし…」 「あー…まぁ…いいけど…うーん…」 「それじゃあ、たっぷり甘えさせてね♪」 結局、部屋のお風呂で混浴することに…。 この状況で紳士で居られる奴、挙手。 はい、今手を挙げた人、真ん中の棒も挙がるように頑張れ。 風呂から上がり、鈴仙をベッドに座らせて、ドライヤーで髪を乾かす。 しかし、長い髪というのは、本当に手入れが大変だな…。 「鈴仙、髪の手入れって大変じゃないか?」 「うーん、もう慣れちゃった。 それに、私より姫様の方が大変よ?」 「確かに…長さは同じぐらいだけど、ボリュームあるしな…」 「黒髪だから、つやの維持も大変なのよ、姫様」 「俺には分からない苦労だな…」 「○○も伸ばしてみる? 案外似合うかもよ?」 「やめてくれ、絶対似合わないから」 「今度かつらでもかぶってみる?」 「姫様と先生のおもちゃにされるからマジやめて…」 「えー、着せたかったなぁ、私と御揃いのミニスカート」 「やめてマジやめて」 鈴仙の髪もすっかり乾いた。 さすがに疲れたのか、その頃には鈴仙は半ば船を漕いでいた。 そのまま鈴仙を寝かせ、おやすみのキスをする。 自分も寝ようかと思ったのだが、少し体を動かしたせいか、まだ眠気が来ない。 寝酒でも飲もうかと思い、ホテルのバーへ行くことにした。 カウンターに腰を下ろし、ウイスキーをストレートで頼む。 一口含み、ごくりと流し込む。 強いアルコールの刺激と、心地よい香りが喉の奥から広がる。 「ふう…」 酒を呷ると、気が抜けたのか急に疲れが出てきた。 心地よい疲れだ。 「あら、一人酒?」 「愛しい彼女はどうしたの?」 「え…って、静葉様に穣子様…? 出雲にいらしてたんじゃないんですか?」 「新日本三景って言われてる、大沼を観に来たのよ。 そしたら、貴方達がいるじゃない」 「髪飾りは気に入っていただけたかしら?」 「あっ…本当に秋の神様の贈り物だったんですか… ありがとうございます」 「まあ、私達は出雲じゃ末席だし、こっちで綺麗な景色でも観るほうが有意義ってものよ」 「穣子、余計なこと言わないで…」 「はは、まあ、とりあえず御二柱も一杯いかがです?」 「それじゃあ、芋焼酎を貰おうかしら」 「穣子、バーにそんなのあるはずが…」 「いや、結構豊富にあるみたいですよ?」 「嘘!?」 「ふふん」 秋の神様たちと、軽口を叩きながら飲み交わす。 神様とはいえ、外の世界のそれと違って見ることも出来れば触れることもできる。 身近過ぎるその存在は、幻想郷と外の違いの最たる物ではないかと、ふと思う。 穣子様は、芋焼酎の多さに気を良くし、すっかり酔っている。 それでも飲みつづけるのは流石神様と言ったところか。 俺は静葉様と話しながら、ちびちびと飲んでいた。 「それで、上手くいってる?」 「ええ、とても。 …と、自分は思ってるんですけどね」 「なら大丈夫ね」 「そうですか?」 「一人身の終焉を感じてるもの」 「そんな終焉も司ってるんですか!?」 「驚いた?」 「ものすごく。 結婚運のおみくじでもやれば信仰倍増しそうですよ?」 「それは面白そうね。 …残酷な結果も一杯出ることになりそうだけど」 「それはあれですよ、幻想郷一正確なおみくじとしてウリにすれば」 「万一、白黒や紅白に無残な結果が出たらと思うと、ちょっと手が出ないわね」 「……夢想マスター封印スパークとか洒落にならんですね」 軽く飲んで引き上げるつもりが、少々長居してしまった。 明日もあるのでと断りを入れ、秋の神様たちと別れて部屋に戻ることにした。 去り際、静葉様に『くれぐれも彼女を大事にしなさい』と念を押された。 やけに神妙な面持ちで。 鈴仙が寝ているであろう暗い部屋に、音を立てないように戻る。 ……声がする…鈴仙、起きてるのか? 「……○…○…いかないで……見捨てないで……嫌……」 ベッドで上半身を起こした鈴仙が、泣いていた。 気が付けば俺は、鈴仙の体を揺すっていた。 「鈴仙、俺はここにいるぞ、鈴仙、鈴仙!」 「う……あ……○○……!」 俺にしがみついて泣き出す鈴仙。 目が醒めたら俺が居ないから不安に……? それにしては、少し大袈裟すぎる気がするが。 鈴仙の頭を撫でながら、優しく話し掛ける。 「鈴仙、大丈夫か? 俺はここにいるから……どこに行っても、必ず戻ってくるから……」 「○○……うん……○○は、私じゃないもん……」 「え?」 「なんでもない……」 それっきり、鈴仙は何も言わず、泣きながら眠ってしまった。 俺も鈴仙を抱きしめたまま、眠っていた。 目が醒めると、鈴仙は既に起きていた。 …ただし、俺にしがみついたままだ。 「おはよう、鈴仙」 「おはよ、○○」 昨夜のことは、聞かないことにした。 …月から逃げたことは、今でも鈴仙の心に引っかかっているのだろう。 「○○…」 「ん?」 「……何でもない」 「そうか。 ……鈴仙、話してくれるまでいつまでも待ってるから。 百年でも、一万年でも」 「…ありがと。 って、その前に薬完成させなきゃ駄目じゃない、その年数!」 「当てにしてるからな、鈴仙」 「う…そこはかとないプレッシャーが…」 「あんまり時間掛かると、何も出来ないじじいになっちまうぞ」 「わ、若返りの薬も準備しないと…」 「ははは、ま、いざとなったら蓬莱の薬でも先生に貰うか」 「軽いなぁ、○○…」 「まあ、人生なるようになるさ。 今はとにかく、鈴仙と一緒に居たい。それだけだ」 「○○…。 ところで……○○から普段と違う匂いがするんだけど……。 …浮気、してないよね?」 「してないしてない…。 でも、匂いって……あ、そういや昨日バーで静葉様と穣子様に会ったけど、それかな。 秋の匂いがするし」 「そんな…○○は秋の神様が…」 「いやちょっと待て。 そういうんじゃなくてたまたま会っただけだぞ?」 「出雲に居るはずの神様が、何でわざわざこっちに来るのよ…。 ううっ……○○に捨てられる……」 「だから、そんなんじゃなくて…。 ……鈴仙、分かってて言ってないか?」 「…………てへ♪」 「あーもうこの焼きもち焼きめっ!」 「きゃん♪」 外は冷たい風が吹いていた。 二人で体を寄せ合い、互いの温もりを求める。 「ねぇ○○、今日はどこに行こうか?」 「そうだなぁ…」 別にどこだって構わない。 鈴仙と一緒なら。 ……ただし、鈴仙がつまらなそうにしない場所なら、な。 ─────── 函館周辺の観光地をほぼ制覇し、いよいよ幻想郷に帰る日が来た。 「元気でね、○○。 お酒飲み過ぎたりしないようにね」 「うん、なるべく気をつけるよ」 「病気には気をつけるんだぞ、一応医療関係者なんだからな」 「分かってるさ、薬局で病気移されたなんて洒落にもなんないからな」 「鈴仙ちゃん、大事にしろよな。 そんな可愛い子、知り合えるだけでも奇跡なんだからよ」 「ああ、兄貴もいい子見つけろよ」 「ほっとけ」 「鈴仙ちゃん、不束な息子ですけど、よろしくお願いしますね」 「はい、大事にします…いえ、それ以上に大事にされてますから」 「鈴仙さん、こいつが血迷うことがあったら、思いっきり殴っていいですからね」 「いやちょっと待て親父」 「はい、浮気なんてしようものならキャメルクラッチです!」 「はっはっは、胴体引きちぎる勢いでいいからね!」 「どこのラーメンマンだよ!」 「鈴仙さん、そいつに飽きたらいつでも俺に」 「それはないのでご安心下さい♪」 「…今ほど空中に(´・ω・`)という顔文字を描けないことを悔やんだことは無い」 「兄貴乙」 家族との別れを終え、空港へとタクシーで向かう。 「色々あったけど楽しかった~」 「鈴仙、体は大丈夫か? 船酔いって結構引きずるからな」 「あ、もう平気。 やっぱり、根本的につくりが違うしね♪」 「まあ、確かに」 「…優しい家族と綺麗な故郷だったわ」 「だろ?」 「ねぇ○○…」 「でも鈴仙一人に及ばないのは残念な話だよな」 「……」 何も言わずに、強く俺の腕にしがみついてくる。 垂れている耳が、俺の頬を撫でる。 その耳をふにふにしたら、軽く頭突きされた。 飛行機に乗るために空港にやってくると、外に馴染んだ服を着た紫さんと藍さんが待っていた。 「あれ、東京駅に居るんじゃなかったんですか?」 「どのみち二人だけだから、こっちで待つことにしたのよ。 さあ、もう思い残すことはないかしら?」 「ええ、もう特に…あ」 「はいどうぞ」 「これをお願いできますか?」 「封筒ねぇ…藍、あなたお願い」 「はい、紫様。 どれ、中を拝見…ふむ…」 「すいません、ちょっと手に入らなかったので…」 「ふむ、最近はネットで何でも買えるかと思ったが」 「いや、納期までは縮まらないですから…」 「なるほど、そういうことか。 分かった、確実に届けよう」 「お願いします」 「○○、何を頼んだの?」 「んー、そのうち分かるよ。 鈴仙の分も頼んだし」 「え、私のも?」 「うん、一応、だけどね。 要らない気もするし」 「???」 「さ、それじゃあ快速特急スキマ八号、出発の時間よ。 お乗り遅れ無きようにお願いいたしますわ」 紫さんはスキマを開き、そこに俺と鈴仙を招き入れる。 数秒の後、俺と鈴仙は見慣れた竹林に居た。 「快速特急スキマ八号をご利用くださり、まことにありがとうございます~。 終点、迷いの竹林、迷いの竹林です~」 「永遠亭のすぐそば…さすが快速特急。 ありがとうございました、紫さん、藍さん」 「色々御手数おかけしました」 「ふふ、それじゃあ私はまた向こうに戻るわね。 そうそう、御土産は指定した場所に『全部』送ってあるわよ」 「はい、ありがとうござい…え、指定した場所?」 「それじゃ、またね~」 「え、あの、ちょっと…」 「……私は止めたんだがな……」 紫さんと藍さんは、スキマへと消えてしまった。 さて、これはいよいよもってやばい。 紫さんにああいう冗談を言った俺が馬鹿だった…。 「ねぇ○○、指定した場所って、どこ?」 「それは私が教えてあげるわ、鈴仙」 永遠亭のある方から、今一番聞きたくない声が聞こえた。 ざんねん、おれのじんせいはここでおわってしまう! 「あ、姫様。 ただいま戻りました」 「おかえりなさい、鈴仙。 さて○○、遺言くらい聞くわよ?」 「まさか本気にされるとは思わなかったんで…すいません」 「あなたの冗談のおかげで、私の部屋は生臭くて海草臭くて土臭くてそれはもう……。 運び出した今も匂いが抜けきらないのよ! どうしてくれるのよ、○○!」 「ふぇ!? ○○、まさか、あの量の御土産ぜんぶ姫様の部屋に!?」 「う、うん…」 「○○…私、○○のこと、忘れないから…」 「鈴仙、生まれ変わったら、また幻想郷に来るよ…」 「好きだったよ、○○…」 「俺も鈴仙のこと、好きだったよ…」 俺と鈴仙は、互いを強く抱きしめあった。 最後の思い出に…。 「鈴仙、キスしたい…」 「うん…」 唇を激しく重ね合わせる俺と鈴仙。 柔らかく、暖かいその感触を自分の身体に刻み込む。 「……それで、あなたたちはいつまでそうやってるつもりかしら?」 「いやぁ、ちょっと最後の別れっぽいことやってみたいなーと…」 「こういうのも悪くないね、○○♪」 「とりあえず覚悟は出来てるようで何よりね。 さぁ、私の新しい難題、その身に刻み込んであげるわよ!」 「ぎゃー!」 とりあえず生きている…というか、外傷はほぼ無い。 喰らったのはただ一発。 難題『蓬莱の玉砕き』…つまりは男の証を…。 再起不能になることは無かったが、一瞬意識が飛びかけた。 とりあえず、それで放免となり、休む間もなく土産物の整理をすることになった。 「鈴仙、乾物はどこにしまえばいい?」 「勝手口から出てすぐの倉庫の奥よ。 あ、てゐ、にんじんはイナバ達に配っちゃっていいわよ」 「はいよ~」 意外にも人型イナバ達がみんな手伝ってくれているので、すぐに終わりそうだ。 いつもぺたぺたくっついてくる兎型イナバは、てゐの配っているにんじんに夢中だし。 結局、一時間とかからずに土産物は片付いた。 「あら、意外に早く終わったのね」 「みんな手伝ってくれましたから」 「あらそう、イナバ達が命令無しで手伝うなんて珍しいわね。 ○○、あなた、人間向けじゃなくイナバ向けのフェロモンでも出てるんじゃない?」 「どんなフェロモンですかそれ」 「少なくとも、一匹はやられちゃってるじゃない」 「いやまぁ、うん」 姫様がお茶にするというので、土産の菓子とお茶を用意して居間に持っていく。 既に四人がこたつでぬくぬくしている。 俺はとりあえず菓子をこたつの上に置き、お茶を淹れることにした。 その時、姫様が湯飲みを二つ持っていってしまった。 「姫様?」 「あなたたちはこれじゃないでしょ?」 そういって姫様は二つの別の湯飲みを持ち出してきた。 …夫婦の湯飲みだ。 「こっちの方が御似合いよ?」 「…ありがとうございます」 「姫様、これを私達に送るということは…」 「私も永琳も二人の仲は認めてるわ。 ただし、あなたたちの間の問題はあなたたちで解決しなさい」 「意味は分かるわね、ウドンゲ」 「……はい、頑張ります」 その後は土産話に花が咲き、あっというまに時間は流れていった。 もう薬局に戻らないとまずい頃合だ。 明日からは通常営業しなくてはならないため、少し早めに帰らなくては。 「じゃあ鈴仙、また…次は週末か…」 「うん…長いね…」 「あら、それじゃあ薬局で同居すればいいじゃない?」 「姫様…いえ、それじゃあ薬が作れません。 私には、師匠の教えがまだまだ必要ですから」 「そのとおりよ、ウドンゲ。 ○○の寿命を延ばす薬を作る。 それは、それを望む者が為すべきことよ」 「はい、師匠」 「……先生、俺」 「はい○○、初心者用の本よ」 「用意いいですね…」 「人生経験豊富ですもの。 あなたの想像もつかないぐらいに、ね」 「ごもっとも」 「○○、一緒に頑張ろうね」 「そうだな、俺がじいさんになってからじゃ遅いしな」 「うん、ナイスミドルで長生きしてもらわないと!」 「えっ!? 鈴仙そっちの方が趣味なの!?」 「ふふっ、嘘嘘、なるべく早く作ろうね」 「あ、ああ」 鈴仙とキスを交わし、人里へと帰る。 歩いて二時間の道程だ。 俺と鈴仙の距離、二時間。 永い寿命を手に入れるまでは、我慢の時間だ。 もっとも、しばらくすればだいぶ時間は短縮できる予定だが。 帰る直前、藍さんに頼んだのはノーパンクタイヤの自転車二台。 舗装路の無い幻想郷にうってつけの乗り物だ。 こいつがあれば、平日でも何とか顔を見るぐらいは出来るだろう。 ……まあ、体力的には厳しいけど。 二台頼んだのは、鈴仙と一緒にサイクリングしたいからだ。 帰り道に空を見上げると、綺麗な満月が出ていた。 今度は俺が、鈴仙の故郷の景色を見てみたい。 だが、それは恐らくは叶わない夢だろう。 普通の人間が月に行くなど、とても無理な話だろう。 それに、鈴仙は逃亡兵…あまり月に居た頃は思い出したくはないだろう。 鈴仙の心の傷を抉るような真似は、俺にはとても出来ない。 そんなことを考えていると、いつのまにか里のすぐそばに着いていた。 日は丁度落ちるところで、夜道を歩く羽目にはならずに済んだ。 薬局へと帰り、荷物を降ろす。 こっちで配る土産を持ってきたので、少々量が多い。 それらを仕分けして、渡す相手の名前を書いた札を付ける。 これらは明日にでも配りに行くとしよう。 残りは来店した人にでも配るとするか。 片付けも終わり、腹が減った。 土産を一つ持って、夜雀の屋台へと繰り出す。 「あら、いらっしゃい。 外から帰って来たんだね」 「まあね、はい、御土産。 店用に昆布、みすちー本人には外のお菓子。 あ、俺には蒲焼とご飯頂戴」 「ありがとう、今日は御代サービスにしとくねー」 「悪いね」 「それで、ご両親の許可は出たの?」 「……ちょっと待った、何で知ってる?」 「文々。新聞よ? 外に出た人の動向が、最近は毎日載ってるわ」 「あの天狗、外に行かないと思ったら…って、あれ? どうやって取材を…?」 「はい今日の朝刊。 まだ油きりに使ってないから読めるわよ」 「えーと…『本日、永遠亭の鈴仙・優曇華院・イナバと、その薬局に勤める○○が帰省より戻る予定…』 って、そんなん新聞に書く必要ないだろ…。 あ、取材協力に紫さんの名前が…」 「そりゃスキマさんぐらいしかいないわよねー」 「まあそうだな…気にしても仕方ないか」 「そうそう、どうしようもないことは諦めて、歌でも歌えばいいのよー。 はい蒲焼とご飯、お待ちー」 「そうだな、気にしな……『いくところまでいったこの二人、結婚は秒読みか?』だと……?」 「ほんと熱いわねー、おふたりさん。 二人っきりになったらもうこんなに進んじゃうんだものー」 「あの天狗……!」 その時、少し強い風が吹いた。 「噂をすればー。 あれ、何飲んでるの○○、三本も」 「ああ大丈夫、屋台からは離れるから」 「毎度、清く正しい射命丸ですー。 お、○○さんじゃないですか! どうでした、外は?」 「ところで、この新聞を見てくれ、この部分の記述をどう思う?」 「すごく、正確です……」 俺は文の頭を思い切り鷲づかみにする。 「あややややややや!? ちょ、痛っ!? てか人間なのに振りほどけないってなんで!?」 「こんな恥ずかしいことを新聞にしてくれた御礼だよ」 懐から、四本目の『国士無双の薬』を取り出し、天狗を店から離れた場所に引きずる。 「えっ、それって、あれですよね、三本目までは身体強化されて、四本飲んだら本人スッキリ回りどっかーんっていう…。 ああっ、カウンターに三本の空き瓶!? ちょ、待って、メディアに対する言論弾圧ですか!?」 「自由には責任が伴うんだよ、文ちゃん」 「自己責任ってやつですかー!?」 「イエス!」 俺は四本目を飲み干した。 天狗は空の星になった。 そして平和は訪れた。 屋台を後にし、薬局へと戻る。 自室で道具箱から赤い宝石を取り出し、眺める。 鈴仙に送る指輪に使う為に手に入れたルビーだ。 指輪を自分で作り、それをもってプロポーズしたい。 外に出ることが決まったときに、最初に考えたことだ。 材料と道具を手に入れ、準備は出来た。 なるべく早く作り上げて、鈴仙に……。 「頑張るか、薬も指輪も……」 「……やっぱり寂しいな」 一人呟いて、久しぶりに一人だけの布団に潜り込み、目を閉じる。 「そうよね…ずっと二人で寝てたんだし」 「ああ……いやちょっと待て」 「えへへ、来ちゃった…」 「大丈夫なのか?」 「師匠が『薬の残りを確認をしておいてちょうだい』って言って、私をこっちに寄越したの。 私達が居ない間、ここは他のイナバ達が留守番してたから、残りが分からないって」 「なるほど…じゃあ一緒に寝ようか?」 「うん」 鈴仙と一緒に布団に入る。 が、そもそも一人用の布団なので非常に狭い。 そのため、自然と抱き合う形になる。 「それじゃ、おやすみ、○○」 「おやすみ、鈴仙」 明日からはまた、この薬局での日常が始まる。 いつもよりも、少し幸せな気持ちで。 新ろだ51、59、80、96、109、147、210、249 ───────────────────────────────────────────────────────────
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職業データ 鈴仙 「てゐ」をマスター。 「狂気を操る程度の能力」をダーマ神殿にて使用。 HP MP AT DF AG 8 7 6 5 9 備考 ・かき消しがピーキー。・回数攻撃楽しい 習得スキル 名前 習得SP 消費MP 攻撃側/防御側 備考 波符「赤眼催眠(マインドシェイカー)」 3000 1000 かき消し。確立で時止め付与 無し 狂視「狂視調律(イリュージョンシーカー)」 6000 1000 てゐ召喚 無し 懶惰「生神停止(マインドストッパー)」 9000 1500 ステータスアップ 無し 赤眼「望見円月(ルナティックブラスト)」 12000 1800 回数攻撃。目からマスパ(ぇ 無し 生薬「国士無双の薬」 15000 5000 ステ上がってHP回復 無し 「幻朧月睨(ルナティックレッドアイズ)」 18000 3000 楽しい回数攻撃 無し 狂気のウサギは伊達じゃないっ!!